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Frankie Goes To Hollywood / Welcome To The Pleasuredome ~一時は拒絶感

異様なエネルギー Frankie Goes To Hollywood(フランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッド)の「Relax」といえば、とにかく衝撃的な1曲でした。'83年に、シングルでリリースされた作品です。 当時、聴こえてこない日が無いと感じたくらい、ラジオやテレビ、レコードショップなどで、頻繁に流されていたものです。 異様なエネルギーを感じさせる曲でした。パワフルな四つ打ちのディスコ・ビートに乗る騒々しいまでのエレクトリックサウンド、エキセントリックなハイトーン・ヴォイス… 一方で、メロディーは、誰もがすぐにも覚えられそうなシンプルなものでした。そこがインパクトに溢れてもいました。そんなわけで、僕もこの曲の魅力に圧倒されていたひとりです。 売られ方? に拒絶感 とはいえ、翌年になって、この曲が収録されたアルバム「Welcome To The Pleasuredome」が出た際、僕はこれを買う気分にはちょっとなれませんでした。 理由は、彼らフランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッドの売られ方です。ゲイであることはいいとして、それが必要以上に、あざとく打ち出されている感じがしたのです。そこに乗っかる雰囲気のメディアもありました。他方で、「彼らは実はゲイではないのでは?」と、疑う記事を目にしたこともあります。「新手の販売戦略か?」との指摘でした。 つまり、一度は彼らに魅せられた僕も、この頃には、こうした記事同様に怪しさ、いかがわしさを感じるようになっていたわけです。 それでも、僕は、結局のところ避けていた「Welcome To The Pleasuredome」を手にすることになりました。発売から3年後の'87年のことです。きっかけは、Grace Jones(グレイス・ジョーンズ)のアルバム 「SLAVE TO THE RHYTHM」 ('85年)を聴いたことでした。 このアルバムは、Trevor Horn(トレヴァー・ホーン)がプロデュースしています。彼のサウンドは、打ち込みやサンプリングなど、当時最先端のテクノロジーを縦横無尽に駆使するニュー・ウェイブ的なものでした。僕は当時、その魅力にすっかりハマっていたのですが、「Welcome To The Pleasuredome」も、同じトレヴァー・ホーンのプロデュースだったことを思い出したのです。 そ

ORGA / VIVID ~寡作の人が創り出す個性的なサウンド

ビートに気持ちよく浸る ORGA のアルバム「VIVID」のサウンドは、まさに独特かつ個性的です。 目立つ特徴として、複雑で込み入ったビートが挙げられます。ドラムの音は細分化され、細かなフレーズが飛び交い、ノイズ的なパターンが複雑に挿入されます。頭がクラクラしてきます。 こういったサウンドでは、えてしてビート感が希薄になりがちです。ですが、このアルバムはそうではありません。ミドルテンポのビートがちゃんと感じ取れます。拍子の頭を見失うこともありません。そのためか、ビートに気持ちよく浸れます。うるさかったり、セカセカしたりもありません。 音色や響きも独特です。金属的な音や、摩擦音などが目立ちます。ただし、耳に突き刺さるようなものではありません。むしろ透き通った音に聴こえます。この透明感は、音色の微妙な調整や、断片的なメロディ部分に見られる明るさが生み出しているもののようです。 1〜4曲目 短いイントロ曲「THEN」に続く、2曲目「EACH & EVERY」は、やや金属的な、澄んだピアノのような音で始まります。跳ねるように連打されるバスドラが、特徴的なパターンを刻みます。このパターンはさほど複雑ではありませんが、途中からさまざまに変化していきます。一定のリズムで摩擦音が入りますが、耳障りな感じはありません。 3曲目「BURGANDY」は、前曲よりもバスドラの打数が少ないため、ビートはシンプルで、腰が据わった印象です。ドラムなどの打音、摩擦音のほか、ノイジーな音の断片がいろいろと組み合わされ、複雑なパターンをかたちづくります。 4曲目「FICTIONIZED TOKYO [night crusin’ remix]」は、3曲目よりもさらにシンプルな、落ち着いたリズムパターンで始まります。それでも、さまざまなフレーズが飛び交ったり、途中でそれが変化するところは、2、3曲目と同様です。変調させた女声ボーカルのような音のループと、チョッパー・ベースのパターンが、陶酔感を醸し出します。 以上、「複雑だけれども心地よいビート」「耳障りしない金属音や摩擦音」「透明感のある明るい響き」と、いった各曲の特徴は、濃淡はあるものの5曲目以降も引き継がれます。そのうえで、全21曲・曲間なしのノンストップで、約70分間を楽しませてくれるのがこのアルバムです。 5曲目以降のお気に入り 5曲目以

Mirko Loko(ミルコ・ロコ) / SEVENTYNINE ~飽きが来ないとの評価に同感

カデンツァ的作品 Mirko Loko(ミルコ・ロコ)の ファーストアルバム「SEVENTYNINE」は、もっとも「カデンツァ的」な作品だと、僕は思っています。 ここでいうカデンツァ(Cadenza)とは、レーベルの名前です(音楽用語としてではなく)。テクノのレーベルとしては、僕はこのカデンツァ・レーベルが一番好きなのです。一時期、カデンツァのCDやレコードを店で見つけると、僕は、つい条件反射的にこれを買ってしまっていたほどでした。 テクノは、四つ打ちのリズムに同じパターンの繰り返しがベースです。ダンスフロアではこれが存在感を放ちます。ですが、それ以外のシチュエーションでは、やや退屈に感じられることも少なくありません。 ですが、カデンツァの作品は違います。自宅の部屋の中でじっくりと聴いても楽しめるものばかりなのです。ミニマルなサウンドの中にもメロディー、構成がしっかりと組立てられており、展開も華やかです。 さらに、長い曲がメインなので聴き応えもあります。加えて、ジャケットデザインも素晴らしいものばかりです。 巧みなパーカッションの使い方 さて、「SEVENTYNINE」の紹介です。 1曲目「Sidonia」は、クリスタルな音色が印象的な作品です。漂うようなシンセサイザーと、数多くのパーカッションで構成されています。音が左右に揺れ、不思議な感覚が醸し出されます。ビートははっきりしていますが、重低音はかなり抑えられています。 2曲目「Around The Angel」は、テクノ的なビートで始まります。しゃくり上げるようなシンセのノイズが断続的に通り過ぎる中、女声ボーカルが加わります。これがとても魅力的です。最初に聴いたとき、僕は「歌声で船乗りを惑わした」というセイレーンの伝説を思い起こしたりもしました。 この曲でも、1曲目に続いて多くのパーカッションが飛び交います。ビートにシンクロして鳴り続ける音もあれば、装飾的に加えられるものもあります。数は多くとも、うるさい印象はまったくありません。このようなパーカッションの巧みな使い方も、このアルバム全体に共通する魅力です。 3曲目「Love Harmonic」も、四つ打ちで始まります。短いメロディが、水の流れなど、自然音を連想させる音色で繰り返されます。背景で抑え気味に漂う和音が、曲に奥行きと広がりを与えています。 4曲目「On

CASSY(キャシー) / DONNA 〜DJならではの作品

ポップな感覚 CASSY(Cassy Britton = キャシー・ブリットン)は、テクノ、ハウスの代表的女性DJです。 ですが、僕の印象では、彼女が創り出す音楽にテクノやハウスの持つ強烈なビート感は希薄です。むしろ、ソウルやヒップ・ホップに近い、よりポップな感覚です。2016年発売のアルバム「DONNA」では、特にその傾向が強くなっています。 1曲目は「This Is How We Know」。冒頭に現れる音は、バスドラムの連打とハンド・クラップ音、すなわち'80年代初頭のラップのリズム・トラックのようなドラムです。ですが、その上に乗るのはラップではなく、キャシー自身による歌です。短いフレーズのメロディーが繰り返され、トラックにシンクロするかたちです。なお、このアルバムでは、7曲目を除いた全ての曲に彼女のボーカルが入ります。 2曲目の「Feel」は、典型的なテクノです。等間隔のバスドラが鳴り続け、細かなフレーズのシークエンスがそこに重なります。ただし、四つ打ちではなく3拍子なので、テクノの標準からは外れているともいえます。バスドラのアタックは強くなく、ビートは柔らかく、しなやかさを感じさせます。サウンド全体に質感が漂う作品です。 3曲目「Back」もテクノです。こちらは四つ打ちです。やや暗めでメローな雰囲気の歌が、柔らかなサウンドとマッチしています。 リメイクと'70〜'80年代 4曲目は、スティービー・ワンダーの'80年のアルバム「Hotter Than July」に収録された「All I Do」のリメイクです。原曲にある「All I do ~ Is think about you」と唄う部分が、コールアンドレスポンスで繰り返され、テクノ的で柔らかなトラックに乗せられます。メロディーも原曲とは異なり、リメイクというよりも、原曲にインスパイアされたオリジナルといった印象です。 5曲目「Strange Relationship」もリメイクです。こちらは原曲('87年のプリンスの「Sign O' The Times」に収録)に忠実なメロディーが唄われます。ドラムはゆったりとしたソウル的なノリです。'70年代のソウルやフュージョンでよく使われた、クラビネットのような音のリフが重なります。 6曲目「Cuando」にも

MAAYAN NIDAM(マーヤン・ニダム)/ NEW MOON 〜惹きつけられる謎の魅力

取っつきにくい地味なテクノ 10年以上にわたり、まさに頻繁に聴き続けているアルバムです。MAAYAN NIDAM(マーヤン・ニダム)が2012年にリリースした「NEW MOON」です。 最初の印象はイマイチでした。地味で、淡々としていて、取っつきにくいのです。「ハズレを引いたかな?」とも思ったほどです。 テクノに分類される作品です。 ただし、ミニマル・テクノのような、四つ打ちで突き上げてくるビート感はありません。デトロイト・テクノのような、耳に残るシンセサイザーの音色やシークエンスもありません。 目立つ装飾的な音もなく、比較的静かに展開していきますが、かといってアンビエントといえるような透明な空気感もありません。 やがて魅せられることに 1曲目は「On My Street」です。短い作品ですが、アルバム全体のイメージを代表しています。サンプリングと思われるミドル・テンポのドラムの上に、漂うようなボーカル・サンプルとピアノ、ギターが交錯します。これらは、いずれもくぐもった響きの小さな音に絞られています。 2曲目「Harmonious Funk」も、1曲目とよく似た印象です。シンプルなドラムパターンに控え目な音圧のシンセが重なります。シンセは、ドライブ感を加速させるようなシークエンスをつくり出すこともなく、漂うように背後に流れます。低音でつぶやく女性ボーカルもそこに加わりますが、いずれにしても曲が盛り上がることなく淡々と進む展開です。 3曲目は「Trippin' Over You」です。地味なサウンドは2曲目までと変わりません。何かピンと来るものも当初はありませんでした。ただし、いまでは僕はこの曲に引きずり込まれています。特に、終盤で挿入される子どもの声のようなボーカル・サンプルなど、不気味さを通り越して魅力的です。 5曲目「Send A Pigeon」では、四つ打ちならぬ「二つ打ち」のシンプルなドラムの上に、シンセのシークエンスが長い時間をかけてフェードインして来ます。グルーブを加速させるようなパターンではありませんが、ジワジワと迫る妖しさに魅せられます。 6曲目「Undermine」には、ジェームス・ブラウンのシャウトが挿入されています。ヒップ・ホップなどで度々サンプリングされるものです。彼の声といえば、エネルギッシュでワイルド、やんちゃなイメージが強いので

DEODATO(デオダート) / ツァラトゥストラはかく語りき(PRELUDE)~デオダートが指揮もしている?

ブラジル的イージーリスニング・フュージョン DEODATO(Eumir Deodato=エウミール・デオダート)の1973年のファーストアルバム「PRELUDE」のジャケットを最初に見た時、僕はスリラー映画、あるいはサスペンスドラマのようなイメージを思い浮かべたものです。 しかし、実際に聴いてみると中身は大きく異なりました。例えるなら「ブラジル的なイージーリスニング・フュージョン」といった感じです。 始まりは「2001年宇宙の旅」から 1曲目は「ツァラトゥストラはかく語りき」です。映画「2001年宇宙の旅」のオープニングとしても有名な、リヒャルト・シュトラウスによる壮大かつ荘重なクラシック作品です。それをデオダートがリメイクしています。収録時間は約9分です。LPのA面の半分以上を占めています。 幻想的なイントロです。エレクトリック・ピアノとパーカッションがノンビートで交錯します。それに続いて、いかにもフュージョンといった軽快なリズムが奏でられます。そこに、ブラスによる原曲のメロディーが乗ってきます。荘重さと軽快さが融合し、優雅さをも醸し出す展開です。 エレキギターのソロも入ります。John Tropea(ジョン・トロペイ)によるものです。デオダート自身によるエレピのソロも加わります。いずれも、曲によく溶け込んだものになっています。これ見よがしな雰囲気もなく、「これらソロの部分もあらかじめ譜面に書かれているのでは」と思ってしまうような、気分のよい演奏になっています。複数入るパーカッションも叩きまくることなどなく、淡々として軽快です。 クラシックとオリジナルの競演 2曲目は「スピリット・オブ・サマー」です。デオダートのオリジナル曲です。ロマンティックな映画のバックに流れそうな曲で、ストリングスが奏でる抒情的なメロディが印象的です。アコースティックギターとフルートのソロが、前曲同様サウンドによく溶け込んでいます。なお、マンドリンのような響きを醸し出す前者は Jay Berliner(ジェイ・バーリナー)の演奏によるものです。後者は名手 Hubert Laws(ヒューバート・ロウズ)でしょうか? あるいは、別の奏者によるものかもしれません。 3曲目「カーリーとキャロル」も、デオダートのオリジナルです。まさにイージーリスニング的な、軽快な作品です。 4曲目「輝く腕輪とビーズ玉

Peter Gabriel(ピーター・ガブリエル)/ So ~敬遠からの印象ガラリ

チャート1位のポップな人気作品 Peter Gabriel(ピーター・ガブリエル)の1986年のアルバム「So」は、アメリカ Bill Board 誌のランキングで2位、全英アルバムチャートで1位を記録するほど人気を博したアルバムです。つまり、ポップな作品なのです。 しかし、その裏には、ピーター持ち前の先鋭的で個性的な音楽性がしっかりと垣間見えるように、僕は感じています。 ワールドミュージック的? ではない? 1曲目「Red Rain」のサウンドは壮大です。シンセサイザー、ギター、ドラムが雄渾な音を演出します。ちなみに、ドラムは「3名」が演奏しています。ただし、そのうちひとりは Linn Drum というドラムマシーンで、人ではありません。さらに、もう1人はドラマーの Jerry Marotta(ジェリー・マロッタ)です。ここまでは、当時からよくあったやり方です。そのうえで、この曲では The Police のドラマー Stewart Copeland(スチュワート・コープランド)にもシンバルのみを叩かせています。凝った手法です。高揚させられる1曲です。 3曲目「Don’t Give Up」は、当時のサッチャー政権による緊縮財政下での労働者の苦境を唄っている曲です。悲し気で切ないメロディーです。 4曲目「That Voice Again」は、ドラムとパーカッションによる複雑でありながらも軽快なリズムパターンが印象的な作品です。メロディーも、前の曲からは一転して明るく開放的です。 5曲目「In Your Eyes」は、美しいメロディとコーラス、さらに歌詞もロマンティックな1曲です。アフリカの民俗楽器 Talking Drum を Manu Katché(マヌ・カチェ)が叩いています。マヌ・カチェは、コートジボワール出身の父親を持つ人です。セネガルのスーパースター Youssou N’dour(ユッスー・ンドゥール)もバックボーカルで参加しています。とはいえ、曲全体のアフリカ色は希薄です。 なお、マヌ・カチェは、この曲を含めて5曲に参加しています。さらに、ほかにも民族系のアーティストが参加しており、そのため「『So』はロックとワールドミュージックの融合作だ」と、評されることがあります。ですが、僕が聴くところ、このアルバムにはワールドミュージック的な要素はほとんど感じられ

坂本龍一 / 千のナイフ ~世界のサカモトのソロ・デビューアルバム

チャレンジがみえる前半 坂本龍一のソロ・デビューアルバム「千のナイフ」(THOUSAND KNIVES)を僕が初めて聴いたのは、1986年の始め頃です。LPではなくCDでした。 LPの発売は1978年です。YMO(イエロー・マジック・オーケストラ)の1stアルバムがリリースされる直前です。それを遅ればせながら約8年後に聴いたことになるわけです。 1曲目「THOUSAND KNIVES」のサウンドは、革新的でシリアスです。 冒頭はボーコーダーのみによる独唱です。それが1分半続きます。そこで「ちょっと暗いな」と感じていると、ドラムマシーンとシンセサイザーの厚いコードに唐突に移り変わります。次いで、メインのメロディが始まります。 複雑でメカニカルなこのメロディは、ポップ的でもロック的でもありません。現代音楽的なラインを奏でます。続く荘重なサウンドのBメロ、うねりつつせり上がっていくブリッジも、やはり現代音楽的です。 中盤からはサンバ風なパーカッションの音も加わります。ですが、その響きはどこか不穏です。最後は、シンセの細かいシークエンスが飛び交い、地の底まで落ちていくかのような下降音で締めくくられるかたちです。ビートは強く、躍動的ですが、ポップ性や明快さは希薄な1曲です。 2曲目「ISLAND OF WOODS」は、民俗楽器(ブラジリアン・バードホイッスル)による鳥の声のような音で始まります。メロディは1曲目よりもさらに複雑で、特定の調性を感じない旋律が続きます。ドラムなどの打楽器音が入らないこともあり、何拍子とも判別しがたいリズムです。 さらに、それが途切れたあとは、シンセ等によるノイズ的な音が散りばめられる展開となります。野外でサンプリングされた行進曲の音も入り、最後は波の音で終わります。「前衛的」「アブストラクト」といった言葉がぴったりくる曲です。 3曲目「GRASSHOPPERS」は、坂本龍一と、クラシックや現代音楽で活躍する高橋悠治によるピアノ・デュオが基本の曲です。軽快で明るいメロディ、かつ、音階や響きは「クラシックのピアノ曲」といった感じです。リズムは6拍子あるいは3拍子、変則的かつ実験的な印象です。 様子が変わる後半 続いて後半です。LPだとB面になります。ここからサウンドは一変します。 4曲目「DAS NEUE JAPANISCHE ELEKTRONISC

SLY AND ROBBIE(スライ&ロビー)/ RHYTHM KILLERS ~予想外の重量感、インパクト

「ファンク」プラス「ロック」 SLY AND ROBBIE(スライ&ロビー)は、ドラムの Sly Dunbar(スライ・ダンバー)と、ベースの Robbie Shakespeare(ロビー・シェイクスピア)による、レゲエ界を代表するリズムユニットです。さらには、レゲエやダブの作品を数多く手掛けたプロデュースチームでもあります。 しかし、そんな彼らの1987年のアルバム「RHYTHM KILLERS」といえば、レゲエ色がほとんどありません。意表を突く作品となっています。 1曲目「FIRE」の冒頭では、歪んだギターのカッティングと、スクラッチによると思われるノイズに、救急車のサイレンが重なっています。そこにスライのシンバルが加わります。1拍ずつ淡々と刻みながらも、どこかモタっている印象のある、彼独特のリズムです。 サウンドは、ファンク+ロックと表現するのがぴったりです。ファルセットも交えた抜けのよいヴォーカルの背後で、ノイジーなロックギターのリフが鳴っているといった感じです。 クレジットを見ると、Bootsy Collins(ブーチー・コリンズ)、キーボードの Bernie Worrell(バーニー・ウォーレル)ら、ファンク系の著名なアーティストの名前が並んでいます。ブーチー・コリンズは、ギターのような歪んだ音も駆使するベースプレイヤーですが、このアルバムではベースではなく、ギターを弾いています。 Nicky Skopelitis(ニッキー・スコペリティス)も参加しています。Herbie Hancock(ハービー・ハンコック)の、その名も「Hard Rock」という曲の中で強烈なロックギター・ソロを弾いている人です。 独特な重たいサウンド 加えて、この「FIRE」の特徴は、独特な「重さ」を感じさせるサウンドです。それは、スライ持ち前の重力感にあふれたバスドラとスネア、「地を這うような」と形容されることもあるロビー・シェイクスピアのベースが演出するものですが、さらにストリングスも効果を発揮しているようです。 このストリングスは、僕の耳にはシンセサイザーによるものではない「生」の音に聴こえます。また、その響きは、優雅さや静けさを醸し出すものではなく、跳ねるような短いラインの繰り返しと中低音が際立つ、ハード・ロック的ともいうべきサウンドです。 このあと、ノンストップで全6曲が

Ralph MacDonald(ラルフ・マクドナルド)/ The Path ~サブスクでやっと名盤に出会う

最初の「組曲」が圧巻 「The Path」(ザ・パス)は、パーカッショニスト Ralph MacDonald(ラルフ・マクドナルド)の'78年のアルバムです。1曲目の「The Path」(タイトル曲)がなんといっても圧巻です。ノンストップで17分あまり続く、3部構成の組曲です。 その最初の部分、パート1は、シンドラムを含めたパーカッションと人の声だけで構成されています。リズムは伸びやかでゆったりとした4拍子で、そこに1拍3打を基本とするパターンがポリリズムを刻みます。アフリカ系の言語による語りに続いて、男女混声のコーラスや、チャントのような男声も重なっていきます。なお、このコーラスは続くパート2、3でも断続的に繰り返されます。 パート2では、テンポは変わらないまま、リズムパターンがその表情を一変させます。カウベルの音などが細かいパターンを刻み始め、速くて熱い、サンバ的な展開となります。カリプソでよく使われるスティールドラムのような音が南国的なメロディーを奏でます。そのあとは、クラリネットのソロや、リズム・ギター、アコースティックピアノなども加わり、ややフュージョン的なサウンドへ移行していきます。 ちなみに、上記のクラリネット・ソロは絶品です。陽気でメロディアス、かつ踊り出したくなるようなリズムに僕は聴くたび魅了されています。演奏は Clinton Thobourne という人で、僕は残念ながらこの人に詳しくありません。ラルフ・マクドナルドの前作「SOUND OF A DRUM」にも名前が見えています。 パート3に入ると、テンポは同じまま、リズムはシンプルでやや落ち着いた様子に変わります。フュージョンの大物 Bob James(ボブ・ジェームス)のシンセ・ソロが入り、その後はブラスのパートとなります。Michael Brecker(マイケル・ブレッカー)、Randy Brecker(ランディ・ブレッカー)、David Sanborn(デイヴィッド・サンボーン)も、このパート3に参加しています。彼らは Brecker Brothers(ブレッカー・ブラザーズ)最初期のメンバーです。 加えて、細かく複雑でありながらノリのよいブラス・アレンジは、 William Salter(ウィリアム・ソルター)によるものです。なお、作曲は共作とされていて、ラルフ・マクドナルド、

portable(ポータブル)/ version ~「もっと聴きたい」に応えてくれたアルバム

奇妙でミステリアスなテクノ アーティスト名は portable(ポータブル・本名 Alan Abrahams)、アルバム名は「version」。まったくありふれた一般名詞です。音楽のスタイルは四つ打ちベースの典型的なミニマル・テクノ。しかし、その中身は一聴して他のテクノとは区別されるサウンドです。何よりも、独特の音色と響きが際立ちます。 1曲目「Ebb and Flow」は、弦楽器のゆったりとしたコード弾きの繰り返しから始まります。エレクトリックではなくアコースティック。バロック以前の古典的な楽器を連想させるような音色と響きです。 続いて、多数の打楽器音が入ります。よく耳にするようなパーカッションの音に加えて、古い機械のような音の短いループ音も重なります。民俗楽器の笛のような音も加わります。 バスドラムは四つ打ちを繰り返しますが、他の低い打音の影響もあって、単調には感じられません。テクノとしてはテンポはゆったりとしていますが、さまざまな音が緻密に組み合わされることにより、躍動的なリズムパターンが創造されています。 サンプリングとともにシンセサイザーも使用していると思われますが、ストリングス系の音や、クリアで鋭いエレクトリック音はほとんどありません。アコーステックで、少しザラザラとした質感です。 民族楽器のような音も目立ちます。ポータブル自身、南アフリカ出身のアーティストです。ただし、トライバルな音楽といった感じではありません。それよりも、奇妙でミステリアスに聴こえるサウンドです。 魅力を醸すボーカル・サンプル 2曲目以降も、そうした特徴は共通しています。 2曲目「Notions of Slow and Fast are Set at Nought」では、硬く重いバスドラがリズムをリードします。パーカッション、小さく鳴り続ける虫の音、断片的に挟み込まれるオルガンのような音、女性ボーカル、といったループが重なります。1曲目よりもさらに奇妙な感覚です。 3曲目「All Eject」では、どう表現したらよいかわからない不思議な音が交錯します。アコースティックな弦楽器の音を歪ませたようなノイジーな音、レコードのスクラッチ音をテンポを下げて変調させたような音――こうしたサウンドが、木質の打楽器音、マリンバをくぐもらせたような音、小さく鳴る男声ボーカルと融合しています。 4曲目「

Rubén Blades y Seis del Solar / BUSCANDO AMÉRICA 〜あえてひたすら心地よく聴く

サルサのニューウェーブ? Rubén Blades(ルーベン・ブラデス――フル・ネームは Rubén Blades Bellido de Luna)は、サルサのアーティストです。歌手であり、作詞家であり、作曲家です。中米のパナマ出身で、アメリカで活躍しています。彼と彼のバンド Seis del Solar による1984年のアルバム「BUSCANDO AMÉRICA」は、サルサのニューウェーブといった趣きの作品です。 ブラスが無いサルサ 1曲目、「DECISIONES」の冒頭は、ファルセットボイスとドゥワップのコーラスです。続いて多数のパーカッションとピアノ、ビブラフォンをバックに、いかにもサルサといった軽快な唄とコーラスが展開します。ですが、何かが足りません。サルサの大きな特徴のひとつ、ブラスが鳴っていないのです。 しかし、物足りない感じはしません。むしろ、ブラスの持つ時として過剰な熱さがない分、爽快さとクールさが増しています。なお、このアルバムの全ての曲にブラスは一切入っていません。 2曲目「“GDBD”」は、ボーカルだけで構成される曲です。リズミカルなパターンを繰り返すつぶやきのようなボーカルをバックに、ルーベン・ブラデスが繰り返しの少ない複雑なメロディを早口で唄います。ちなみに、このアルバムでは全ての曲で彼がメインボーカルを務めています。 3曲目「DESAPARICIONES」には、ブラスはもちろん、パーカッションも入りません。ゆったりと打たれるスネア・ドラムとバス・ドラムが、サウンドの中心にデンと構えています。ベースとカッティング・ギターはレゲエ的なラインを奏でます。ボーカルとコーラスのメロディは、どこか物悲しく響きます。歌詞は、行方の知れない親しい人を探す人々を歌うものとなっています。 5曲目「CAMINOS VERDES」は、明るいメロディがゆったりとしたリズムに乗る曲です。パーカッションも活躍しますが、どこかしらロック的です。サルサ的な響きは希薄です。 なお、まとめると2、3、5曲目以外の4つの曲は、十分にサルサ的です。といってもスタンダードなものではなく、独特な魅力を持つサルサ的サウンドです。 流麗な極楽サウンド 2曲目、3曲目以外では、パーカッションのほか、アコースティックピアノやビブラフォンといった鍵盤打楽器が躍動します。シンセサイザーも効果的

CODONA3 ~3つの「コドナ」のうち、僕が思う1番の傑作

背伸びしたくて選んだ1枚 「CODONA3」を買い、聴いたのは1983年の終わり頃でした。当時、まだ若く、知っている音楽も少なかった僕は、ふと背伸びをしてみたくなったのです。芸術的かつ前衛的で、難解そうな音楽にあえて挑戦してみたい――、そこで選んだのがこの1枚でした。 アーティスト3人による作品です。タイトルは彼らの名前に由来します。 CO = Collin Walcott(コリン・ウォルコット) DO = Don Cherry(ドン・チェリー) NA = Nana Vasconcelos(ナナ・ヴァスコンセロス) まずは Collin Walcott(コリン・ウォルコット)です。アメリカ出身ですが、インドの弦楽器シタールや、同じく打楽器タブラを操ることで知られています。 Don Cherry(ドン・チェリー)は、トランペッターです。フリー・ジャズの先駆者 Ornette Coleman(オーネット・コールマン)や、パンクなジャズバンド、Rip Rig + Panic(リップ・リグ&パニック)との共演など、先鋭的な活躍で知られていた人です。 Nana Vasconcelos(ナナ・ヴァスコンセロス)は、ブラジルでの表記は Naná となっていますが、ここでは日本盤LPの記載に合わせて Nana としておきます。パーカッショニストです。多くのバンドでサウンドを彩る一方、アコースティックギターとのデュオによる室内楽的でアーティスティックなアルバムも発表するなどしています。 拍子抜けするくらい聴きやすい なお、CODONA3 は、ドイツ・ ECM からリリースされたアルバムでした。ジャズを中心に、高度な音作りと芸術性に定評をもつレーベルです。こうした情報を僕は音楽雑誌で当時知り、「これこそチャレンジすべき作品」と感じ、LPを購入したわけです。 ところが、実際の音といえば、拍子抜けするくらいに聴きやすいものでした。 難解なところは特になく、自然に、柔らかく耳に入り込んでくる心地よいサウンドです。実験的に聴こえたり、エキサイティングであったりといった部分も多少はあるものの、基調としては「アンビエント」ともいえそうな雰囲気です。 変な日本語? からスタート 1曲目は「Goshakabuchi」です。日本盤LPではカタカナ表記が「ゴシャカブキ」となっています。あきらかに日本語っぽ

秋本奈緒美 / Rolling 80’s ~清水靖晃による過激な「パンク・ジャズ」

発売35年目に初めて聴く 「Rolling 80’s」は、ジャズ・シンガー秋本奈緒美のデビューアルバムです。全曲、ジャズの定番というべきスタンダードナンバーで、清水靖晃のアレンジによるものです。 1982年に発売されたこのアルバムを僕は2017年になって初めて聴きました。奇抜で斬新なそのサウンドにまさに衝撃を受けました。そして、深く後悔させられました。 「35年経ったいま聴いてもこれだけ衝撃的なアルバムなのだ。発売された当時に聴いていたらどれだけ驚いたことだろう…」 ちなみに、発売時のレコードの帯には、「ティーン・エイジ・ロマンティック・ジャズ」「ジャズってスポーツみたいに軽くスイングするものよ」と、キャッチが綴られています。 ですが、中身はこれらの言葉から連想されるような、おしゃれで軽いものではまったくありません。清水靖晃が繰り出すサウンドは、例えるならパンク・ジャズともいえる過激なものです。 パンクを感じる理由 清水靖晃は、軽快なフュージョンでデビューしたサクソフォニストです。それがこの頃には、ニューウェーブ、プログレッシブ・ロック、ダブなどを主体とした革新的な作品を数多く発表していました。 1曲目は「イントロダクション」です。ライブの歓声に続く英語の男声アナウンスで始まります。その後は、2曲目以降の断片によるコラージュとなる構成です。 2曲目「バイ・バイ・ブラックバード」では、細かく素早い打ち込みのようなシンセサイザーのフレーズと、シンプルかつセカセカしたドラムが特徴的です。さらに、そこに乗るブラスは、スウィング・ジャズ的古めかしさと、せわしないエキセントリックさが同居したような音になっています。 3曲目「霧の日」では、1拍ごとに鳴るギターの和音が、古いレコードを聴いているような雰囲気を醸し出します。そこに、シンプルかつ不自然なほど目立つバス・ドラムと、スネア・ドラムが奇妙な効果を加えています。 4曲目「雨に唄えば」は、サルサなどラテン音楽っぽいブラスの鳴り交わしに、細かく乾いたギターのアルペジオが重なる曲です。4拍ごとに鳴るバス・ドラムが、3曲目同様、不自然なほど目立ちます。反面、シンバルや他のパーカッションは背後でわずかに鳴るだけです。 なお、この3、4曲目に現れるような音のアンバランスな面こそが、僕がこのアルバムに「パンク」を感じる主な理由でしょう。です

Blood, Sweat & Tears / Blood, Sweat & Tears ~エリック・サティに意表を突かれる

1968年に発売された古いアルバムです。ブラス・ロック、ジャズ・ロックを代表するグループ、Blood, Sweat & Tears(ブラッド・スウェット&ティアーズ)の2ndアルバム「Blood, Sweat & Tears」です。僕がこれを最初に聴いたのは、かなり遅れて'87~'88年頃のことでした。 ただし、それまでの2~3年間、僕はFMラジオから録音したこのアルバムの中の何曲かを繰り返し聴いてはいました。そのうち「Smiling Phases」に、僕は強く惹かれていました。 この曲は、ブラスとオルガンの華やかな前奏で始まります。David Clayton-Thomas(ディヴィッド・クレイトン・トーマス)のボーカルがこれに続きます。ブラスの迫力に負けないくらい、パワフルでノリのよいボーカルです。 歌の2コーラス目の背後では、ブラス同士でのコール・アンド・レスポンス(掛け合い)が演じられます。この部分に僕はとりわけ興奮させられました。 Bobby Colomby(ボビー・コロンビー)のドラムスも、細かく軽快にリズムを刻みます。ロックというよりも、ソウルあるいはリズム&ブルースといった方がいいような、しなやかなビートの作品です。 さらに、Dick Halligan(ディック・ハリガン)の即興的なソロ・ピアノのパートも加わります。リズム・パターンが次々と切り替わっていくところがとてもスリリングです。 なお、録音した曲はこのほか3つでした。どの曲も素晴しく、これらを聴いているだけで「もう満足」といった感じでした。そのため、なかなかアルバム自体の購入には至りませんでした。 しかし、いよいよ買ってみると(CDです)、冒頭から意表を突かれました。1曲目は、1888年に Erik Satie(エリック・サティ)が作曲したクラシックのピアノ独奏曲「Gymnopédies」(ジムノペディ)のリメイクです。 極端に音数が少なく、スローで静かな曲調のため「環境音楽のはしり」とも評されるこの作品です。それを前半はアコースティック・ギターとフルート、後半は荘重なブラスとドラムスでの演奏に変えています。 そして、2曲目がさきほど触れた「Smiling Phases」です。 続く3曲目「Sometimes in Winter」は、一転してしっとりとした長調のバ