ビートに気持ちよく浸る
ORGA のアルバム「VIVID」のサウンドは、まさに独特かつ個性的です。
目立つ特徴として、複雑で込み入ったビートが挙げられます。ドラムの音は細分化され、細かなフレーズが飛び交い、ノイズ的なパターンが複雑に挿入されます。頭がクラクラしてきます。
こういったサウンドでは、えてしてビート感が希薄になりがちです。ですが、このアルバムはそうではありません。ミドルテンポのビートがちゃんと感じ取れます。拍子の頭を見失うこともありません。そのためか、ビートに気持ちよく浸れます。うるさかったり、セカセカしたりもありません。
音色や響きも独特です。金属的な音や、摩擦音などが目立ちます。ただし、耳に突き刺さるようなものではありません。むしろ透き通った音に聴こえます。この透明感は、音色の微妙な調整や、断片的なメロディ部分に見られる明るさが生み出しているもののようです。
1〜4曲目
短いイントロ曲「THEN」に続く、2曲目「EACH & EVERY」は、やや金属的な、澄んだピアノのような音で始まります。跳ねるように連打されるバスドラが、特徴的なパターンを刻みます。このパターンはさほど複雑ではありませんが、途中からさまざまに変化していきます。一定のリズムで摩擦音が入りますが、耳障りな感じはありません。
3曲目「BURGANDY」は、前曲よりもバスドラの打数が少ないため、ビートはシンプルで、腰が据わった印象です。ドラムなどの打音、摩擦音のほか、ノイジーな音の断片がいろいろと組み合わされ、複雑なパターンをかたちづくります。
4曲目「FICTIONIZED TOKYO [night crusin’ remix]」は、3曲目よりもさらにシンプルな、落ち着いたリズムパターンで始まります。それでも、さまざまなフレーズが飛び交ったり、途中でそれが変化するところは、2、3曲目と同様です。変調させた女声ボーカルのような音のループと、チョッパー・ベースのパターンが、陶酔感を醸し出します。
以上、「複雑だけれども心地よいビート」「耳障りしない金属音や摩擦音」「透明感のある明るい響き」と、いった各曲の特徴は、濃淡はあるものの5曲目以降も引き継がれます。そのうえで、全21曲・曲間なしのノンストップで、約70分間を楽しませてくれるのがこのアルバムです。
5曲目以降のお気に入り
5曲目以降での、僕のお気に入りを挙げていきましょう。
まずは、ノンビートで雲海上を漂うようなサウンドを醸し出す、8曲目「warping point “G”」です。2分間のインタルード曲です。
10曲目「SUPAFLYIN’ [jammin’ with SKAB/T]」。さまざまなリズム、フレーズが目まぐるしく交錯します。
11曲目「CARAVAN」。工作用ロボットが動くような響きで構成される複雑なリズムの1曲です。
14曲目「A.K.A.O」は、どこかトボケた音色がユーモラスな、1分半の挿入曲です。
そして、タイトルどおり春風がゆったりと空を渡るようなイメージの19曲目、「KAZE SONG [wind scape mix]」。
――そんなところでしょうか。
ORGA は音楽活動しているのか?
ORGA の作品を初めて聴いたのは、2004年の夏頃のこと。「Bara - Framauro」という作品で、全4曲・20分ほどが収録されたアナログレコードです。
聴いた途端、その個性に圧倒されました。それまでに僕が山ほど聴いて来た、エレクトリックなクラブ系音楽のいずれとも異なるものでした。
ちなみに、このレコード、針飛びがしやすく、針圧の調整に苦労しました。複雑で細かい音づくりをしているためでしょうか。そのこともあって、思い入れがさらに強くなりました。当然ながら、この人のほかの作品も聴きたくなりました。
ところが、この ORGA、かなり寡作なアーティストのようです。「Bara - Framauro」以外の作品をその後なかなか見つけられません。ようやく「VIVID」に出会えたのは2年後です。うれしいことに「Bara - Framauro」に比べてもまったく遜色のない出来栄えでした。
とはいえ、最近もやはりリリースをつかまえられません。あちこち探すのですが、古い05年のアルバム「VIBRANT」を配信で見つけた以外、この人の新しい作品にはいまのところ出会えずにいます。つまり、現在、音楽活動をしているのかどうかも不明のようです。
曲目リストとリリース状況
ORGA / VIVID(2008年・日本国内版)
1:THEN
2:EACH & EVERY
3:BURGANDY
4:FICTIONIZED TOKYO [night crusin’ remix]
5:ANOTHER FEELING
6:IKINOMI
7:MEDITATION
8:warping point “G”
9:YOUR GALACTIC EYES
10:SUPAFLYIN’ [jammin’ with SKAB/T]
11:CARAVAN
12:YOU & ME, BY THE SEA
13:warping point “N”
14:A.K.A.O
15:MASHED UP FLASH BACKS
16:HER BROKEN RADIO
17:warping point “O”
18:DREAM #9
19:KAZE SONG [wind scape mix]
20:FROMTO
21:DESTI 2.5 [japan exclusive bonus track]
当アルバムの最初の発売は06年で、オーストラリアのレーベルからリリースされました。僕が最初に聴いたのもそちらです。しかしながら、一部ショップのサイトによれば、この06年版については「いまや完全に入手困難」とのこと。よって、上記リストでは、08年に発売された国内盤CDの曲名、曲順を記しています。記事本文もこれに沿っています。さらに、ジャケット写真も同様です。
なお、06年盤には、上記21曲目の「DESTI 2.5 [japan exclusive bonus track]」が収録されていません。逆に、08年盤にはない「wapping point “W”」が収録されています。曲順も両者で異なります。