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7月, 2019の投稿を表示しています

Absolute Beginners ~Miles の参謀が監督したサントラ

このアルバムは同じ名前の映画のサントラで、多数のアーティストが参加しています。 1曲目は David Bowie によるテーマ・ソングです。ロック・ギターの音から始まる、ソウル・ミュージックの影響の強い80年代の Bowieサウンドです。8分近い曲の終盤で、オーケストラをバックにソロをとるサックスが印象的です。彼の曲は他に2曲入っています。 Sade による、クラシックな4ビート・ジャズの雰囲気の2曲目に続き、3曲目はThe Style Council の「Have You Ever Had It Blue」。カリプソ風ジャズという感じのゴージャスでクールな曲です。このアルバムの中で、僕が一番好きな曲です。 素朴な印象の4曲目に続いて、5曲目は Gil Evans のブラス・オーケストラ。パーカッションのリズムと音色が軽快なサウンドを引き立てます。 日本語の解説には、「Gil Evans が実質的な音楽総監督」という、曖昧な記述があります。アーティストの選択は、映画の方の監督ジュリアン・テンプルによるものですが、当時74才の Gil は生ける伝説的な存在。積極的に「監督」せずとも、参加アーティストから助言や指導を求められたことは想像に難くありません。 全体的に、当時ロンドンを中心に一世を風靡した観のあった、踊れるジャズ=アシッド・ジャズ的なサウンドが中心で、統一感があります。これも Gil のアドバイスによるものかもしれません。 このあとも、ラテン音楽風のピアノが心地よいダンサブルな「Rodrigo Bay」(8曲目・B3)、Gil Evans 直系という感じのサウンドの長尺曲「Riot City」(10曲目・B5)、Miles Davis の「So What」のレゲエ・ダブ風リメイク(17曲目・D5)と、個性的な曲が続きます。 そして Gil 自身の曲(CDは4曲、LPでは6曲)は、短く控え目な感じで、これらの曲の間を埋めるように配置されています。自分よりはるかに若いアーティストに助言を与えつつ、一歩ひいたところから暖かく見守っているという雰囲気が、アルバムの構成からも感じられます。 周知のとおり、Gil Evans は Miles Davis の「Birth of the Cool」を始めとしたオーケストラ作品や、「So

Wayne Shorter / Native Dancer ~ウェイン本人の存在希薄な名作

Miles Davis の「Kind of Blue」や「Nefertiti」を聴いていると、その美しさにうたれると同時に、録音中のピリピリとした雰囲気までが伝わってくる気がします。 1枚のリーダー・アルバムを作り上げる、ということは、ほとんどのアーティストにとって精神的・肉体的に大変なストレスをかかえる作業なのでしょう。名作であればあるほど、このようなプレッシャーの下で生れるものかもしれません。 でも、それとは全く逆の印象を与える名作もあります。参加アーティストが、ノビノビと楽しげに演奏している様子が聴き手にまで伝わってくるような作品です。 サクソフォン・プレイヤー、Wayne Shorter の「Native Dancer」は、そんなアルバムです。 このアルバムは僕にとって、Milton Nascimento との出会いとなった作品で( Milton Nascimento / Minas の記事 参照)、9曲中5曲がMiltonの曲です。Herbie Hancock の曲も1曲あり、2人とも唄や演奏で参加しています。 Wayne の曲は3曲だけ。もちろん全曲でサックスを演奏していますが、リズム楽器ではないので、演奏するのは一部分だけ。アレンジやディレクションでも関与してはいるのでしょうが、彼のリーダー性が希薄であることに変わりはありません。 そのことを象徴するような曲が、Milton 作曲の1曲目「Ponta de Areia」です。 Milton のファルセット・ヴォイスと彼の相棒的存在の Wagner Tiso のエレピのユニゾンから始まります。そのあと、ベース、ドラムとともに、Herbie Hancock のアコースティック・ピアノが加わります。 最初のメロディが終わり、一瞬のブレイクのあとに、ようやくWayne のソプラノ・サックスのソロがはじまるのです。 アルバム・ジャケットにも「Featuring Milton Nascimento」とあり、「このアルバムの良さはMiltonの良さだ」などと評する向きもあるようです。 僕は、Milton も Herbie も大ファンで、「Native Dancer」に提供された6曲のうちの5曲を彼らのリーダー・アルバムでも聴いています。 しかし、この5曲とも「Nat

Jaco Pastorius / WORD of MOUTH ~夭折の天才が残した奇蹟の1枚

Jaco Pastoriusを僕が初めて聴き、見たのはTV中継。1982年の「Jaco Pastoruis Big Band」のLiveでした。 ブラスがずらりと並んでいるところは、確かにビッグ・バンドというにふさわしい。でもコアになるリズム・セクションは独特。 ベース、ドラム、パーカッションにトランペット、サックスという編成で、ピアノやギターなどの和音を弾く楽器がない。 さらに、大きな銀色の鉄鍋のような楽器が一台。その内側を叩いて、ペコ・ペコと金属的な音を出しています。あとで知ったことですが、スチール・ドラムというカリブ海の楽器だそうです。 ゲスト参加はハーモニカ。ジャズではほとんど使わない楽器です。 そしてJaco。ベース・プレイも凄いけれど、それ以上に行動の方に目がいきました。 ベースを弾きながら片足立ちでツイストのように踊ったり、何がおかしいのか、顔を上に向けて笑ったり、シャウトしたり、曲が続いているのに突然ベースをその場に置いていなくなったり… この当時、Jacoはすでにファンからも評論家からも高い評価を得ていました。「エレクトリック・ベースの革命児」というだけでなく、作曲・編曲やサウンド面でも何十年かに一度の天才扱い。その一方で、奇人としての評判も定着していました。 評判どおり、バンドの音は独特です。大別すればジャズには違いはないけれど、伝統的なビッグ・バンドでも、いわゆる“4ビート・ジャズ”でもフュージョンでもない。そして、そのすべての要素を含んでいるような感じもする。 リズム・アンド・ブルースやソウルっぽくもあり、カリプソっぽくもある。とてもひとつのジャンルに当てはまるような音楽ではありません。 中でも一番印象的だったのは「Liberty City」。ブラスの派手なイントロが終わると、リズム・セクションだけの演奏が始まります。明確な主役がなく、各楽器が各々同時にソロをとっています。デキシーランド・ジャズの1980年代版という感じの明るく楽しい演奏でした。 この曲が、前年のJacoの2ndアルバム「Word of Mouth」にも入っています。 編成も演奏の手法も、TVで視聴したビッグ・バンドのものとほぼ同じ。ピアノで Herbie Hancock が参加していますが、あくまでもソリストで、伴奏で

FLARE(Ken Ishii-ケン・イシイ)/ GRIP ~テクノって何? これか!と知った作品

僕がCDやレコードを買うとき、何らかの事前情報があるのが普通です。たとえば、音楽雑誌で情報を得ていたり、そのアーティストの以前の作品を聴いていたり。ラジオやテレビで実際に聴いた作品や、その際に録音していた作品を買う場合もあります。 しかし、この「GRIP」は、まったく何の情報もないまま“ジャケ買い”したものでした。そして聴いてみて、たちまちその音に惹き入れられてしまったのです。(このCDを買う具体的経緯を FUMIYA TANAKA MIX-UP Vol.4の記事 に書きました) 1曲目はどことなく民族音楽を感じさせる太鼓と、高音のパーカッションの音から始まります。さまざまな音色のシンセが短いメロディーを重ねていきます。ヒトの声を変質させたような音も加わり、それらの音が響きあって、7分以上続きます。 そして2曲目。この曲で完全にヤラれてしまいました。 幻想的な響きのするシンセの持続音から始まり、多種の打楽器音が次々と加わって徐々にテンポを速めていきます。そして3分あたり、こらえていたものを解放するように一気にリズムが炸裂します。 3曲目以降も、奇妙で魅力的な響きの短いフレーズで構成された曲が続きます。 「GRIP」は、僕がはじめて聴いたテクノ作品です。 テクノと聞いて、最初は70年代末以降のYMOやDEVOなどのテクノ・ポップを連想し、「そういう音楽がまだあるんだ…」と思ったのですが、のちに音楽雑誌などで得た情報では、それらと全く異なる流れの音楽のようです。初めて聴いたときは、ジャンルのことすらよく知らない状態だったのです。 聴いてみると、たしかにかつてのテクノ・ポップとはかなり趣の異なる独特で特殊な音楽です。唄も主旋律もなく、短いフレーズの繰り返しを要素として、その重なりで曲が構成されています。 作者のKen Ishii自身(“FLARE”はアーティスト・ネーム)、かつて、「テクノの本質はストレンジ・トーンとリピート」と発言していたと記憶しています。 基本的な構成要素は、さまざまな音色とリズム・パターンです。これら個々の要素とその構成が面白くなければ、まったく退屈なものになってしまうのです。 しかも、基本的にクラブでかけるダンス・ミュージックのため、1曲が長く、聴く分にはダレやすい。 でも「GRIP」の各曲は