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12月, 2022の投稿を表示しています

portable(ポータブル)/ version ~「もっと聴きたい」に応えてくれたアルバム

奇妙でミステリアスなテクノ アーティスト名は portable(ポータブル・本名 Alan Abrahams)、アルバム名は「version」。まったくありふれた一般名詞です。音楽のスタイルは四つ打ちベースの典型的なミニマル・テクノ。しかし、その中身は一聴して他のテクノとは区別されるサウンドです。何よりも、独特の音色と響きが際立ちます。 1曲目「Ebb and Flow」は、弦楽器のゆったりとしたコード弾きの繰り返しから始まります。エレクトリックではなくアコースティック。バロック以前の古典的な楽器を連想させるような音色と響きです。 続いて、多数の打楽器音が入ります。よく耳にするようなパーカッションの音に加えて、古い機械のような音の短いループ音も重なります。民俗楽器の笛のような音も加わります。 バスドラムは四つ打ちを繰り返しますが、他の低い打音の影響もあって、単調には感じられません。テクノとしてはテンポはゆったりとしていますが、さまざまな音が緻密に組み合わされることにより、躍動的なリズムパターンが創造されています。 サンプリングとともにシンセサイザーも使用していると思われますが、ストリングス系の音や、クリアで鋭いエレクトリック音はほとんどありません。アコーステックで、少しザラザラとした質感です。 民族楽器のような音も目立ちます。ポータブル自身、南アフリカ出身のアーティストです。ただし、トライバルな音楽といった感じではありません。それよりも、奇妙でミステリアスに聴こえるサウンドです。 魅力を醸すボーカル・サンプル 2曲目以降も、そうした特徴は共通しています。 2曲目「Notions of Slow and Fast are Set at Nought」では、硬く重いバスドラがリズムをリードします。パーカッション、小さく鳴り続ける虫の音、断片的に挟み込まれるオルガンのような音、女性ボーカル、といったループが重なります。1曲目よりもさらに奇妙な感覚です。 3曲目「All Eject」では、どう表現したらよいかわからない不思議な音が交錯します。アコースティックな弦楽器の音を歪ませたようなノイジーな音、レコードのスクラッチ音をテンポを下げて変調させたような音――こうしたサウンドが、木質の打楽器音、マリンバをくぐもらせたような音、小さく鳴る男声ボーカルと融合しています。 4曲目「

Rubén Blades y Seis del Solar / BUSCANDO AMÉRICA 〜あえてひたすら心地よく聴く

サルサのニューウェーブ? Rubén Blades(ルーベン・ブラデス――フル・ネームは Rubén Blades Bellido de Luna)は、サルサのアーティストです。歌手であり、作詞家であり、作曲家です。中米のパナマ出身で、アメリカで活躍しています。彼と彼のバンド Seis del Solar による1984年のアルバム「BUSCANDO AMÉRICA」は、サルサのニューウェーブといった趣きの作品です。 ブラスが無いサルサ 1曲目、「DECISIONES」の冒頭は、ファルセットボイスとドゥワップのコーラスです。続いて多数のパーカッションとピアノ、ビブラフォンをバックに、いかにもサルサといった軽快な唄とコーラスが展開します。ですが、何かが足りません。サルサの大きな特徴のひとつ、ブラスが鳴っていないのです。 しかし、物足りない感じはしません。むしろ、ブラスの持つ時として過剰な熱さがない分、爽快さとクールさが増しています。なお、このアルバムの全ての曲にブラスは一切入っていません。 2曲目「“GDBD”」は、ボーカルだけで構成される曲です。リズミカルなパターンを繰り返すつぶやきのようなボーカルをバックに、ルーベン・ブラデスが繰り返しの少ない複雑なメロディを早口で唄います。ちなみに、このアルバムでは全ての曲で彼がメインボーカルを務めています。 3曲目「DESAPARICIONES」には、ブラスはもちろん、パーカッションも入りません。ゆったりと打たれるスネア・ドラムとバス・ドラムが、サウンドの中心にデンと構えています。ベースとカッティング・ギターはレゲエ的なラインを奏でます。ボーカルとコーラスのメロディは、どこか物悲しく響きます。歌詞は、行方の知れない親しい人を探す人々を歌うものとなっています。 5曲目「CAMINOS VERDES」は、明るいメロディがゆったりとしたリズムに乗る曲です。パーカッションも活躍しますが、どこかしらロック的です。サルサ的な響きは希薄です。 なお、まとめると2、3、5曲目以外の4つの曲は、十分にサルサ的です。といってもスタンダードなものではなく、独特な魅力を持つサルサ的サウンドです。 流麗な極楽サウンド 2曲目、3曲目以外では、パーカッションのほか、アコースティックピアノやビブラフォンといった鍵盤打楽器が躍動します。シンセサイザーも効果的