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8月, 2022の投稿を表示しています

Nosaj Thing / Home ~ノサッジ・シングの特異な? 名作

メランコリックで抒情的なサウンド。どこか冷たく、霧がかかったような不明瞭な質感。繊細で悲しげなメロディー… Nosaj Thing(ノサッジ・シング=Jason Chung=ジェイソン・チャンのアーティストネーム)による2012年のセカンドアルバム「Home」は、そんな特徴をもったビート・ミュージック作品です。 僕がそれまでに聴いて来たクラブ系のアルバムに、似たテイストの作品は皆無でした。「Home」の各曲には、はっきりとしたビートは存在しますが、とてもダンスフロア向けの音楽には聴こえません。そのため、当初は驚きとともに戸惑いすら感じました。ですが、やがてその魅力に引き込まれていきました。 このアルバムに興味が湧いたきっかけは、「LAビート」「韓国系アメリカ人」という Nosaj Thing がもつ2つの属性でした。なお、同じ言葉が当てはまるアーティストに TOKiMONSTA がいます。彼女のアルバム 「Midnight Menu」 ('10)を僕はこの時すでに聴いていましたが、こちらはメロディアスで柔らかなサウンドの作品です。 そこで「Home」にも、僕は当初似たサウンドを期待していました。しかし、それはよい意味で裏切られました。実際、聴いてみると「Home」は「Midnight Menu」とはまたひと味違った作品でした。 1曲目「Home」は、かすかな音量の男声ボーカルのような音で始まります。例えるならば「静かな咆哮」といった感じでしょうか。さらに、ゆっくりとしたビートとストリングス系の低音のシンセサイザー、シークエンスがそれに続きます。 この曲で強い印象を受けたのは、音のエフェクトです。冒頭に記したとおり、不明瞭な響きで、深いエコーがかかっています。ややひんやりとしたものを感じます。こうした響きは、この曲だけでなく、アルバム全てに共通しています。 2曲目「Eclipse/Blue」は、鐘の音のような連打に導かれて、ビートとシンセのリフ、女声の唄が始まる展開となっています。ニューヨークのアートロックバンド・Blonde Redhead のリード・ボーカル Kazu Makino によるボーカルです。そのメロディーと声の響きが、僕の心に強い衝撃を残しました。陳腐な表現ですが、胸が締めつけられるような「切なさ」を感じたのです。それは、僕がその当時までに聴い

CAMEO / WORD UP! ~ヤバすぎるインパクトにやられ、速攻でレコード店に

1986年のある日、テレビで見た Cameo(キャメオ)の「Word Up」のミュージック・ビデオはまさに強烈でした。 Cameo は Larry Blackmon(ラリー・ブラックモン)を中心とする3人(当時)のグループです。その Larry が、唄い、踊り、バイクに跨り、ディスコに繰り出し、そこへ警官が踏むこむ…といった内容の映像ですが、ダンスなどのパフォーマンス以上にインパクトを感じたのは、彼のファッションです。 四角く整えられた独特の髪型、左右が垂れ下がった太い口髭、そんな顔の印象も強烈なのですが、それだけではありません。黒の革ジャン、筋肉質の体には黒いレオタード、股間には真っ赤なファウルカップをハメている――かなりヤバいスタイルです。 しかも、その音楽といえば、当時の僕にとっては映像を上回るほどのインパクトでした。何よりも印象的だったのは、ドラムとベースによる独特のサウンドです。ゆったりとしたテンポで、音数は最小限といえるくらいのものですが、音量があり、アタックも強く、太く重たく圧してきます。ハード・ロック的ともいえそうですが、どこかしなやかなリズムも創り出しています。 このドラムとベースに、笛のような音のシンセサイザーが入ったあと、Larry Blackmon のボーカルが始まります。この声も独特です。湿った粘っこいダミ声で、抑揚の少ないメロディーに載る歌詞を淡々と唄い上げます。ソウルやファンクのような抜けのよいボーカルでもなければ、ロック的な絞り出すようなシャウトでもありません。それまでに僕が聴いたことのない、魅惑的な声でした。 さらに、ギターが加わったあと、終盤ではブラスが鳴り響きますが、曲の骨格はベースとドラム、ボーカルでシンプルに構成されています。そのためか重く強烈なビートにも関わらず「すき間」が多い印象です。 ともあれ、ファンクともソウルともロックとも違う、過去に僕が聴いたことのない音楽、というのが、この映像を観ての感想でした。 そこで、翌日には早速この曲の入ったアルバム「Word Up!」のCDを買いに走りました。もっとも、不安もありました。「Word Up」のインパクトが強すぎたため、「気に入るのはこの曲だけかも」と、嫌な予感もしたのです。 ですが、それは杞憂でした。この日、僕は買ってきたこのアルバムの曲すべてに魅せられ、全曲を何度も繰り返