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Blood, Sweat & Tears / Blood, Sweat & Tears ~エリック・サティに意表を突かれる


1968年に発売された古いアルバムです。ブラス・ロック、ジャズ・ロックを代表するグループ、Blood, Sweat & Tears(ブラッド・スウェット&ティアーズ)の2ndアルバム「Blood, Sweat & Tears」です。僕がこれを最初に聴いたのは、かなり遅れて'87~'88年頃のことでした。


ただし、それまでの2~3年間、僕はFMラジオから録音したこのアルバムの中の何曲かを繰り返し聴いてはいました。そのうち「Smiling Phases」に、僕は強く惹かれていました。


この曲は、ブラスとオルガンの華やかな前奏で始まります。David Clayton-Thomas(ディヴィッド・クレイトン・トーマス)のボーカルがこれに続きます。ブラスの迫力に負けないくらい、パワフルでノリのよいボーカルです。


歌の2コーラス目の背後では、ブラス同士でのコール・アンド・レスポンス(掛け合い)が演じられます。この部分に僕はとりわけ興奮させられました。


Bobby Colomby(ボビー・コロンビー)のドラムスも、細かく軽快にリズムを刻みます。ロックというよりも、ソウルあるいはリズム&ブルースといった方がいいような、しなやかなビートの作品です。


さらに、Dick Halligan(ディック・ハリガン)の即興的なソロ・ピアノのパートも加わります。リズム・パターンが次々と切り替わっていくところがとてもスリリングです。


なお、録音した曲はこのほか3つでした。どの曲も素晴しく、これらを聴いているだけで「もう満足」といった感じでした。そのため、なかなかアルバム自体の購入には至りませんでした。


しかし、いよいよ買ってみると(CDです)、冒頭から意表を突かれました。1曲目は、1888年に Erik Satie(エリック・サティ)が作曲したクラシックのピアノ独奏曲「Gymnopédies」(ジムノペディ)のリメイクです。


極端に音数が少なく、スローで静かな曲調のため「環境音楽のはしり」とも評されるこの作品です。それを前半はアコースティック・ギターとフルート、後半は荘重なブラスとドラムスでの演奏に変えています。


そして、2曲目がさきほど触れた「Smiling Phases」です。


続く3曲目「Sometimes in Winter」は、一転してしっとりとした長調のバラードになっています。ボーカルは、ギターとハーモニカを担当する Steve Katz(スティーブ・カッツ)です。


4曲目は「More and More」です。再び元気な曲調に戻ります。ボーカルは2曲目と同じ David Clayton-Thomas です。なお、3曲目以外のボーカル曲はいずれも彼が唄っています。


5曲目は、ブルージーなハーモニカで静かに始まる「And When I Die」です。途中でテンポや曲調が変化する、どことなくユーモラスな曲です。


6曲目は、ジャズのスタンダード曲「God Bless the Child」のカバーです。


7曲目は「Spinning Wheel」。強烈なブラスのファンファーレで始まる、ずっしりとしたリズムの曲です。間奏ではトランペットによるジャズ的なソロも展開します。最後はオカリナのような音や、玩具が鳴るようなパーカッションでユーモラスに締め括られます。


8曲目「You’ve Made Me So Very Happy」は、静かなパートと力強いパートが交互に展開しつつ、ドラマティックに高揚していく曲です。「Thank You, Baby」の繰り返しでフェードアウトするラストが耳に残ります。


9曲目「Blues - Part Ⅱ」は、約12分の長い曲で、オルガンの独奏から始まります。ブラスとリズムが加わって以降は、ベース、ドラム、サックスによるジャズ的なソロが延々と続きます。最後はスローな歌が少しずつ気分を高めながらフェイドアウトしていきます。


そして10曲目、最後はふたたびジムノペディのリメイクとなります。


なお、このアルバム、全10曲中7曲がブラッド・スウェット&ティアーズのオリジナルではありません。エリック・サティも含め他のアーティストの作詞や作曲ですでに録音や発表がされている曲です(文末の曲目リストを参照)。


しかし、7曲ともに、オリジナルとはサウンドや曲調をまったく異にします。単なるリメイクではなく、彼ら=BS&T らしい音として、イチから作り直したといった感じです。


発売当時からこのアルバムの人気と評価は高いものでした。「And When I Die」「Spinning Wheel」「You’ve Made Me So Very Happy」の3曲が、全米Top3入りを果たしています。'69年のグラミー・最優秀アルバム賞も受賞しています。


いまでも「BS&Tの最高傑作」「2作目にして頂点を極めた」と評価する声が多い作品です。



Blood, Sweat & Tears / Blood, Sweat & Tears(血と汗と涙)(1968年)


1:Valiation on a Theme by Erik Satie - 1st and 2nd Movements

 (エリック・サティの主題による変奏曲 - 第1楽章、第2楽章)

 / Erik Satie

2:Smiling Phases(微笑みの研究)

 / S.WinwoodーJ. CapaldiーC. Wood

3:Sometimes in Winter

 / S. Katz

4:More and More

 / P.VeeーD. Juan

5:And When I Die

 / L.Nyro

6:God Bless the Child(神よ祝福を)

 / B.HolidayーA. Herzog, Jr.

7:Spinning Wheel

 / D.Clayton-Thomas

8:You’ve Made Me So Very Happy

 / B.Gordy, Jr.ーB. HollowayーP. HollowayーF. Wilson

9:Blues - Part Ⅱ

 / Blood, Sweat & Tears

10:Variation on a Theme by Erik Satie - 1st Movement

 (エリック・サティの主題による変奏曲 - 第1楽章、第2楽章)

 / Erik Satie

11:More and More - Live

 = 4のライブヴァージョン

12:Smilimng Phases - Live

 = 2のライブヴァージョン


()内は邦題、/ の後は作者名(作詞と作曲の別は不明)です。


3曲目 Sometimes in Winter(ギター、ハーモニカ、ボーカルの Steve Katz 作)、7曲目 Spinning Whell(ボーカルの David Clayton-Thomas 作)、9曲目 Blues - Part Ⅱ(ブラッド・スウェット&ティアーズ 作)の3曲がオリジナルで、他はリメイクです。


レコードとCD、配信があります。11曲目と12曲目は、2000年以降に再発売されたCDと配信に収録されています。レコードは1~6がA面、7~10がB面です。

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