「ファンク」プラス「ロック」
SLY AND ROBBIE(スライ&ロビー)は、ドラムの Sly Dunbar(スライ・ダンバー)と、ベースの Robbie Shakespeare(ロビー・シェイクスピア)による、レゲエ界を代表するリズムユニットです。さらには、レゲエやダブの作品を数多く手掛けたプロデュースチームでもあります。
しかし、そんな彼らの1987年のアルバム「RHYTHM KILLERS」といえば、レゲエ色がほとんどありません。意表を突く作品となっています。
1曲目「FIRE」の冒頭では、歪んだギターのカッティングと、スクラッチによると思われるノイズに、救急車のサイレンが重なっています。そこにスライのシンバルが加わります。1拍ずつ淡々と刻みながらも、どこかモタっている印象のある、彼独特のリズムです。
サウンドは、ファンク+ロックと表現するのがぴったりです。ファルセットも交えた抜けのよいヴォーカルの背後で、ノイジーなロックギターのリフが鳴っているといった感じです。
クレジットを見ると、Bootsy Collins(ブーチー・コリンズ)、キーボードの Bernie Worrell(バーニー・ウォーレル)ら、ファンク系の著名なアーティストの名前が並んでいます。ブーチー・コリンズは、ギターのような歪んだ音も駆使するベースプレイヤーですが、このアルバムではベースではなく、ギターを弾いています。
Nicky Skopelitis(ニッキー・スコペリティス)も参加しています。Herbie Hancock(ハービー・ハンコック)の、その名も「Hard Rock」という曲の中で強烈なロックギター・ソロを弾いている人です。
独特な重たいサウンド
加えて、この「FIRE」の特徴は、独特な「重さ」を感じさせるサウンドです。それは、スライ持ち前の重力感にあふれたバスドラとスネア、「地を這うような」と形容されることもあるロビー・シェイクスピアのベースが演出するものですが、さらにストリングスも効果を発揮しているようです。
このストリングスは、僕の耳にはシンセサイザーによるものではない「生」の音に聴こえます。また、その響きは、優雅さや静けさを醸し出すものではなく、跳ねるような短いラインの繰り返しと中低音が際立つ、ハード・ロック的ともいうべきサウンドです。
このあと、ノンストップで全6曲が約35分間続きます。なお、LPの場合は各面3曲ずつがノンストップで繋がります。
2曲目以降のサウンドも、1曲目と同じ傾向といっていいでしょう。さまざまなボーカリストによる唄と、ストリングスが全曲で入ります。これらには先ほどの「重さ」が通底しています。とはいえ、単調なアルバムにはなっていないところが、この「RHYTHM KILLERS」の魅力です。
ちなみに、冒頭、レゲエ色がほとんど無いと書きましたが、5曲目「RHYTHM KILLER」のボーカルのメロディーとラップだけが、わずかにレゲエを感じさせます。
ビル・ラズウェルとの化学反応
このアルバムのプロデューサーは、Bill Laswell(ビル・ラズウェル)です。彼は、ハービー・ハンコックの「Future Shock」(1983)や「Sound System」(1984)、Mick Jagger(ミック・ジャガー)の「She's the Boss」(1985)などをプロデュースしています。
ちなみに、僕がスライの特徴的なドラムサウンドを初めて聴いたのは、上記「Future Shock」の表題曲と「Rough」の2曲ででした。
これらの作品で、ビル・ラズウェルは、スクラッチなどヒップホップの手法や、打ち込みを中心としたエレクトロニクスを導入しているほか、アフリカの民族楽器奏者やキューバ系のパーカッショニストを参加させるなどもしています。
そこでいうと、「RHYTHM KILLERS」でも、あまり目立たないもののスクラッチやアフリカン・パーカッションの音が聴こえているのが判ります。
さらに、彼は1987年には坂本龍一の「Neo Geo」をプロデュースしていて、そこにスライ・ダンバーとブーチー・コリンズが参加しています。同作発表の頃には、他の作品でもファンク、ロックアーティストの起用が目立つところとなっています。
スライと出会ったあと、僕は渡辺香津美の「Mobo」(1983)で、さらにスライを堪能しました。なお、この作品にはロビー・シェイクスピアも参加していて、彼らは全10曲中、7曲に関わっています(内、1曲のみロビーだけが参加)。
その後、僕は彼らがプロデュースした Black Uhuru(ブラック・ウフル)のダブ作品「The Dub Factor」(1984)にも魅了されました。ブラック・ウフルはレゲエのボーカルグループです。
ともあれ、それらに比べると「RHYTHM KILLERS」は、やはり予想外の強烈なインパクトをもつ作品に仕上がっています。僕が思うに、それは、ビル・ラズウェルと彼らスライ・アンド・ロビーとの化学反応によるものなのでしょう。
曲目リストとリリース状況
SLY AND ROBBIE / RHYTHM KILLERS(1987年)
1:FIRE
2:BOOPS(HERE TO GO)
3:LET’S ROCK
4:YES WE CAN
5:RHYTHM KILLER
6:BANK JOB
クレジットではプロデュースは「Bill Laswell / Material」となっています。Material は元々はビル・ラズウェルを中心とするプロデュース・ユニットの名前ですが、このアルバムの頃には、彼個人のアーティストネームとして使用されています。
LPとCD、配信があります。LPでは1~3がA面、4~6がB面です。