最初の「組曲」が圧巻
「The Path」(ザ・パス)は、パーカッショニスト Ralph MacDonald(ラルフ・マクドナルド)の'78年のアルバムです。1曲目の「The Path」(タイトル曲)がなんといっても圧巻です。ノンストップで17分あまり続く、3部構成の組曲です。
その最初の部分、パート1は、シンドラムを含めたパーカッションと人の声だけで構成されています。リズムは伸びやかでゆったりとした4拍子で、そこに1拍3打を基本とするパターンがポリリズムを刻みます。アフリカ系の言語による語りに続いて、男女混声のコーラスや、チャントのような男声も重なっていきます。なお、このコーラスは続くパート2、3でも断続的に繰り返されます。
パート2では、テンポは変わらないまま、リズムパターンがその表情を一変させます。カウベルの音などが細かいパターンを刻み始め、速くて熱い、サンバ的な展開となります。カリプソでよく使われるスティールドラムのような音が南国的なメロディーを奏でます。そのあとは、クラリネットのソロや、リズム・ギター、アコースティックピアノなども加わり、ややフュージョン的なサウンドへ移行していきます。
ちなみに、上記のクラリネット・ソロは絶品です。陽気でメロディアス、かつ踊り出したくなるようなリズムに僕は聴くたび魅了されています。演奏は Clinton Thobourne という人で、僕は残念ながらこの人に詳しくありません。ラルフ・マクドナルドの前作「SOUND OF A DRUM」にも名前が見えています。
パート3に入ると、テンポは同じまま、リズムはシンプルでやや落ち着いた様子に変わります。フュージョンの大物 Bob James(ボブ・ジェームス)のシンセ・ソロが入り、その後はブラスのパートとなります。Michael Brecker(マイケル・ブレッカー)、Randy Brecker(ランディ・ブレッカー)、David Sanborn(デイヴィッド・サンボーン)も、このパート3に参加しています。彼らは Brecker Brothers(ブレッカー・ブラザーズ)最初期のメンバーです。
加えて、細かく複雑でありながらノリのよいブラス・アレンジは、 William Salter(ウィリアム・ソルター)によるものです。なお、作曲は共作とされていて、ラルフ・マクドナルド、ソルター、William Eaton(ウィリアム・イートン)、3人の名前が記されています。
その後、リズムは再びパート2のような賑やかなパターンに戻ります。コーラスの繰り返しとチャントが重なりながらフェードアウト、圧倒的な大曲が終わるという流れです。
多彩な参加アーティスト
続く2~5曲目は、一転して3~5分台と短くなります。どれもラルフ・マクドナルドとウィリアム・ソルターの共作で、サウンドも参加アーティストも多彩です。
2曲目「Smoke Rings And Wine」は、パーカッションがほとんど目立たない、しっとりとした曲調の作品です。メロディを奏でるハーモニカは、 Toots Thielmans(トゥーツ・シールマンス)によるものです。トゥーツは、Bill Evans(ビル・エヴァンス)、Jaco Pastorius(ジャコ・パストリアス)など、ジャズやフュージョンの大物との共演で知られるアーティストです。
3曲目「I Cross My Heart」は、Grover Washington Jr.(グローヴァー・ワシントン・ジュニア)のサックスをフィーチャーした、落ち着いた印象のファンクです。なお、このワシントン・ジュニアの大ヒット曲「Just the Two of Us(クリスタルの恋人たち)」は、作詞・作曲として、上記のソルターやラルフ・マクドナルドを含めた3人の名前がよく記される曲です。そのうえで、僕は作曲はおそらくラルフが中心に手がけているように感じます。
4曲目以外の各曲でピアノを弾くのは、Richard Tee(リチャード・ティー)です。彼のゴスペル的でソウルフルなコード弾き主体のバッキングは「リズム・ピアノ」とも形容されています。
4曲目「It Feels So Good」は、多数のパーカッションにビブラフォンも加わったカリプソです。
5曲目「If I’m Still Around Tomorrow」は、女声ボーカルとストリングスも加わった、軽快でポップな作品です。
きっかけはサブスク
実は、'78年にリリースされたこのアルバムを僕が初めて聴いたのは、つい半年前のことでした。
ラルフ・マクドナルドの奏でる音自体は、すでに40年以上前、渡辺貞夫の武道館ライブのTV中継('80年)で耳にし、感動もしていましたが、その後、彼のアルバムを買って聴くことはなぜかありませんでした。
店で見かけても、購入の手が何となく動かなかったのです。中継で見た、最小限の音でサウンドを彩る彼の職人技が強く印象に残っていたにもかかわらずです。
きっかけは「サブスク」です。僕は、昨年からサブスクリプションのサービスでも音楽を聴き始めたのですが、色々と検索しているうち、突然、忘れかけていたラルフ・マクドナルドの名前を思い出したのです。
早速、彼のアルバムを探し、立て続けに3枚を聴きました。そのなかで特に気に入ったのがこの「ザ・パス」です。レコードでも聴きたくなり、中古LPをショップのサイトで見つけるや、すぐに購入してしまった次第です。
曲目リストとリリース状況
Ralph MacDonald / The Path(1978)
1:The Path
2:Smoke Rings And Wine
3:I Cross My Heart
4:It Feels So Good
5:If I’m Still Around Tomorrow
LPとCD、配信があります。