異様なエネルギー
Frankie Goes To Hollywood(フランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッド)の「Relax」といえば、とにかく衝撃的な1曲でした。'83年に、シングルでリリースされた作品です。
当時、聴こえてこない日が無いと感じたくらい、ラジオやテレビ、レコードショップなどで、頻繁に流されていたものです。
異様なエネルギーを感じさせる曲でした。パワフルな四つ打ちのディスコ・ビートに乗る騒々しいまでのエレクトリックサウンド、エキセントリックなハイトーン・ヴォイス…
一方で、メロディーは、誰もがすぐにも覚えられそうなシンプルなものでした。そこがインパクトに溢れてもいました。そんなわけで、僕もこの曲の魅力に圧倒されていたひとりです。
売られ方? に拒絶感
とはいえ、翌年になって、この曲が収録されたアルバム「Welcome To The Pleasuredome」が出た際、僕はこれを買う気分にはちょっとなれませんでした。
理由は、彼らフランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッドの売られ方です。ゲイであることはいいとして、それが必要以上に、あざとく打ち出されている感じがしたのです。そこに乗っかる雰囲気のメディアもありました。他方で、「彼らは実はゲイではないのでは?」と、疑う記事を目にしたこともあります。「新手の販売戦略か?」との指摘でした。
つまり、一度は彼らに魅せられた僕も、この頃には、こうした記事同様に怪しさ、いかがわしさを感じるようになっていたわけです。
それでも、僕は、結局のところ避けていた「Welcome To The Pleasuredome」を手にすることになりました。発売から3年後の'87年のことです。きっかけは、Grace Jones(グレイス・ジョーンズ)のアルバム「SLAVE TO THE RHYTHM」('85年)を聴いたことでした。
このアルバムは、Trevor Horn(トレヴァー・ホーン)がプロデュースしています。彼のサウンドは、打ち込みやサンプリングなど、当時最先端のテクノロジーを縦横無尽に駆使するニュー・ウェイブ的なものでした。僕は当時、その魅力にすっかりハマっていたのですが、「Welcome To The Pleasuredome」も、同じトレヴァー・ホーンのプロデュースだったことを思い出したのです。
そこで、やはり聴いてみたくなり、遅ればせながら店に行き、CDを買いました。
ニュー・ウェイブ色に満ちた6曲
1曲目「The World Is My Oyster」と、2曲目「Welcome To The Pleasuredome」は、ひと続きになっています。15分を超える長尺作品です。
ホラーっぽく響く女声ボーカル、ヘビーなシンバルの強打、さらに、不気味なシンセサイザーで曲が始まります。「The World Is My Oyster」と語る男の声や、大正琴のような音、鳥の声などが混じる森の中を思わせる音など、サンプリングされたさまざまな音がそこに続きます。その上で、静かに四つ打ちのビートが始まる展開です。
ビートは、徐々に盛り上がってきます。加えて、バスドラムにシンクロする力強いシャウト、金属的なシンセ、打楽器音やノイズ、エレキギターによる短いメロディー(これもサンプリング?)など、色々な音が配されていきます。終盤、中性的なコーラスが入る辺りでは、かなりの高揚感に包まれる人も多いだろうと感じます。
なお、この高揚感ですが、仕掛けとして、ダイナミック・レンジ(音量の大小)の振れ幅も大いに影響しているでしょう。
3曲目が、冒頭にふれた「Relax」です。「力押し」との形容がぴったり来るパワフルなサウンドです。なかでも、特に強烈なのが、終盤に聴こえてくるシンセのノイズでしょう。大波が繰り返し打ち寄せるかのようです。
4曲目「War」は、ミドルテンポの打ち込みによるドラム・パーカッションで静かに始まります。チョッパー・ベースがメロディアスにラインを奏でます。途中、重たく強い音も入りますが、全体的には静かな印象です。
5曲目「Two Tribes」で、サウンドは再びスピード感もともなう強烈なものとなります。特に最後の方、一瞬のブレイクのあとに再起動するビートは、凄まじい迫力です。
6曲目「(TAG)」は、サンプリングによるものと思われるクラシック・オーケストラによる、30秒の短い作品です。
さて、ここまでの6曲(LPレコードでは1枚目に当たります)を僕はその後も、幾度も繰り返し聴いています。
これらは、大ヒットした「Relax」も含め、聴くたびにさまざまな発見がある魅力的な6曲です。キレキレのニュー・ウェイブが感じられる6作品といってもいいでしょう。
一方、7曲目以降ですが、僕はアルバムを買ってほどなく、これらを聴かなくなりました。
理由は、6曲目までと比べ、僕が魅せられるようなニュー・ウェイブ色が大きく後退してしまうからでしょう。
曲目リスト
(筆者'87年購入のCDジャケットに準拠)
Frankie Goes To Hollywood / Welcome To The Pleasuredome(1984年)
01:The World Is My Oyster (Including Well, Snatch Of Fury)
02:Welcome To The Pleasuredome
03:Relax
04:War
05:Two Tribes
06:(TAG)
07:Fury
08:Born To Run
09:San José
10:Wish The Lads Were Here
11:The Ballad Of 32
12:Krisco Kisses
13:Black Night White Kight
14:The Only Star In Heaven
15:The Power Of Love
16:Bang…
'84年発売のLP(2枚組)では、1、2がA面、3~6がB面、7~11がC面、12~16がD面に収録されています。