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CODONA3 ~3つの「コドナ」のうち、僕が思う1番の傑作


背伸びしたくて選んだ1枚


「CODONA3」を買い、聴いたのは1983年の終わり頃でした。当時、まだ若く、知っている音楽も少なかった僕は、ふと背伸びをしてみたくなったのです。芸術的かつ前衛的で、難解そうな音楽にあえて挑戦してみたい――、そこで選んだのがこの1枚でした。


アーティスト3人による作品です。タイトルは彼らの名前に由来します。


CO = Collin Walcott(コリン・ウォルコット)

DO = Don Cherry(ドン・チェリー)

NA = Nana Vasconcelos(ナナ・ヴァスコンセロス)


まずは Collin Walcott(コリン・ウォルコット)です。アメリカ出身ですが、インドの弦楽器シタールや、同じく打楽器タブラを操ることで知られています。


Don Cherry(ドン・チェリー)は、トランペッターです。フリー・ジャズの先駆者 Ornette Coleman(オーネット・コールマン)や、パンクなジャズバンド、Rip Rig + Panic(リップ・リグ&パニック)との共演など、先鋭的な活躍で知られていた人です。


Nana Vasconcelos(ナナ・ヴァスコンセロス)は、ブラジルでの表記は Naná となっていますが、ここでは日本盤LPの記載に合わせて Nana としておきます。パーカッショニストです。多くのバンドでサウンドを彩る一方、アコースティックギターとのデュオによる室内楽的でアーティスティックなアルバムも発表するなどしています。



拍子抜けするくらい聴きやすい


なお、CODONA3 は、ドイツ・ ECM からリリースされたアルバムでした。ジャズを中心に、高度な音作りと芸術性に定評をもつレーベルです。こうした情報を僕は音楽雑誌で当時知り、「これこそチャレンジすべき作品」と感じ、LPを購入したわけです。


ところが、実際の音といえば、拍子抜けするくらいに聴きやすいものでした。


難解なところは特になく、自然に、柔らかく耳に入り込んでくる心地よいサウンドです。実験的に聴こえたり、エキサイティングであったりといった部分も多少はあるものの、基調としては「アンビエント」ともいえそうな雰囲気です。



変な日本語? からスタート


1曲目は「Goshakabuchi」です。日本盤LPではカタカナ表記が「ゴシャカブキ」となっています。あきらかに日本語っぽいタイトルですが、実際に存在する言葉なのかどうかは不明です。


ゴシャカブキは、鈴の音のような打音がゆったりとまばらに鳴り響く曲です。コリン・ウォルコットの奏でるハンマード・ダルシマー(弦を叩いて音を出す民族楽器)の音でしょう。始まって少し経つと、ドン・チェリーのトランペットも奏でられ始めます。日本的な音階で、どことなく日本の笛や尺八を吹く息使いにも聴こえます。中盤から終盤にかけては、徐々にテンポも速まり、パーカッションも加わってエキサイティングな演奏が展開します。


2曲目「Hey Da Ba Doon」は、奇妙な曲調の作品です。最初は戸惑いました。曲名をそのまま歌うようなコーラスが、呪文のように繰り返されます。背後では、ビリンバウ(弓と瓢箪を組み合わせたブラジルの民族打楽器)や、サンザ(音階の付いた小さな細い金属版を指で弾いて音を出すアフリカの民族楽器)などが、静かに音を鳴らし続けます。


3曲目「Travel by Night」は、ナナ・ヴァスコンセロスのビリンバウと、コリン・ウォルコットのシタールを背景に、ドン・チェリーのミュート・トランペットが「唄う」といった様子の曲です。


5曲目「Trayra Boia」では、同じ言葉を繰り返すボイスの上に、ナナのボーカルとドン・チェリーのトランペットのユニゾンによる、緩やかでエキセントリックなラインも上乗せされていきます。


最後の「Inner Organs」では、中盤以降、タブラなどさまざまなパーカッションや、ボーカル、オルガン、トランペットが急速にサウンドを展開させます。そのあと、静かなフェードアウトを迎えます。



3つの CODONA で1番のおすすめが「3」


以上、アルバム全体を通して感じるのは、シンプルで静謐な響きです。速いテンポの曲でも、そこは変わりません。


ドン・チェリーのトランペットと、さらにオルガンに加え、このアルバムには世界各地の民族楽器が登場します。ですが、紡ぎ出されるその1曲、1曲は、いずれも無国籍か、あるいは架空の国の音楽といった雰囲気です。


なお、「CODONA3」の「3」は、3部作の3つ目を表しています。これ以前にも2作が発表されているということです。「CODONA」('79)と、「CODONA2」('81)です。


そこで、僕はこれら3つを集めたCDセットを最近購入し、あらためて全てを聴いてみました。その結果、紹介した「CODONA3」がもっとも傑作に感じられるというのが僕の評価です。



曲目リストとリリース状況


Collin Walcott, Don Cherry, Nana Vasconcelos / CODONA3(1983)


1:Goshakabuchi

2:Hey Da Ba Doom

3:Travel By Night

4:Lullaby

5:Trayra Boia

6:Clicky Clacky

7:Inner Organs


CDとレコード、配信があります。レコードは1~3がA面、4~7がB面です。


なお、「CODONA」「CODONA2」「CODONA3」、いずれもCDとレコードについては、現在単独での入手が困難です。一方、本文にも記した3部作・CD3枚組セット「THE CODONA TRILOGY」は、比較的入手しやすいでしょう。内容は以下のとおりです。


「THE CODONA TRILOGY」(2008)


CD1 / CODONA

1:Like That of Sky

2:Codona

3:Colemanwonder

ー Race Face

― Sortie

― Sir Duke

4:Mumakata

5:New Light


CD2 / CODONA2

1:Que Faser

2:Godumaduma

3:Malinye

4:Drip-Dry

5:Walking On Eggs

6:Again and Again, Again


CD3 / CODONA3

(曲目前述)

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