Miles Davis の「In A Silent Way(記事はこちら)」以降の作品を聴きはじめた頃から、James Brown(ジェームス・ブラウン、以下 JB)を聴いてみようと思っていました。
この時期の Miles が、JB の音楽から大きな影響を受けていることを知ったためです。ライブが始まる前のバンド・メンバーに、Miles は、JB のレコードを延々と聴かせていたそうです。
同じ頃よく聴いていた初期ヒップ・ホップ、エレクトロ・ファンクの Afrika Bambaataa(Planet Rock の記事参照)も、JB をリスペクトしていて、84年には共演作が出ています。
さらに、音楽雑誌でも JB の記事は頻繁に目にしていました。ブラスとギターの短いリフで構成されたバック・サウンド、シャウトや掛け声のようなヴォーカル、「マント・ショー」など独特のライブ・パフォーマンス…、実際の音も映像も体験しないまま、知識や情報だけがやたらと多い状態でした。
この頃、初めてテレビで Prince のライブ映像を視たとき(PARADE の記事参照)、「このパフォーマンスは JB の影響を受けている!」と、勝手に決めつけてしまったくらいです。
知識先行になってしまったのには、理由がありました。
JBには、ファンク・ナンバーの「Cold Sweat」「Out of Sight」「Sex Machine」、バラードの「Please Please Please」「It's a Man's, Man's World」など、有名曲がたくさんあります。ですが、これらはそれぞれ別のアルバムに分散していて、特定のものに集中していません。しかも JB は多作で、アルバムがたくさん出ているのです。
そのため、「1枚のアルバムを聴いただけではとても満足できそうにない。でも、有名曲を網羅しようと思えばお金が足りない…」
そう考えると、購入には踏み切れませんでした。また、当時僕はラジオの番組表を念入りにチェックする方ではなかったので、多分見逃していたのでしょう。FMラジオの「JB特集」などを見つけ、録音する機会も掴めませんでした。
それでも、「いつまでも JB を聴かない訳にはいかない…」と思い、焦燥感、義務感すら感じていたのです。
そんなある日、たまたま立ち寄ったレコード店で JB のコーナーを覗くと、1枚のLPジャケットが目に留まりました。
なんとも楽しげで、躍動感あふれるノリノリの JB とバンド・メンバーたちの写真、これに惹かれました。
タイトルは「THE JAMES BROWN STORY / Ain't That A Groove」です。名前だけ知っている有名曲が3、4曲入っています。
ジャケットの右下に「1966-69」とあります。JB を JB たらしめたファンク・ナンバーは、1964年の「Papa's Got a Brand New Bag」から始まるという説が有力ですが、その2年後からの4年間ということで、JBファンクの初期作品集です。
これを買って帰り、ドキドキしながら針を落としてみました。
1曲目「Bring It UP」。軽快なリズム隊に続いて、ハッ、ヒリッ(HIT IT?)という JB のシャウトが入ってきます。そしてババババッ、というブラス。「なるほど、これがJBか」と冷静に聴いているうちに、シャウトがものすごくなっていきます。
終盤はギャーーーーーという絶叫。レコードにキズでも付いているか、レコード針が滑っているのではないかと思ったくらいの凄い声でした。
2曲目「LET YOURSELF GO」は、リズム・ギターとブラスの短いリフの掛け合いで構成されるクールな曲調になっています。そこに JB が声でエネルギーを注ぎ、挑発します。
3曲目以降もクールな感じの曲が続きます。激しい、豪快というより、むしろ緻密に構成された感じのバック・サウンド、リズムです。JB のヴォーカルは、ヴォイスと呼ぶのがふさわしく強烈です。バンドと一体化するのではなく、対決・対峙する感じです。
以上、実際に聴いてみると、想像していたのとはかなり異なる、異次元のサウンドでした。
直後、このオムニバスの続編「THE JAMES BROWN STORY / Doing It to Death 1970-1973」も聴き、こちらにも圧倒されました。
さらに、CD時代に入ると、おびただしい数のオムニバス・アルバムが発売されるようになります。それらも聴きましたが、僕にとっては、今でも「THE JAMES BROWN STORY / Ain't That a Groove 1966-1969」がベスト・オブ・ベストJB、「同 / Doing It to Death 1970-1973」がそれに続く存在です。
THE JAMES BROWN STORY / Ain't That a Groove 1966-1969(1984年発売)
A1:BRING IT UP
A2:LET YOURSELF GO
A3:MONEY WON'T CHANGE YOU Pt.1 & 2
A4:DON'T BE A DROP OUT
A5:AIN'T THAT A GROOVE Pt.1 & 2
B1:GET IT TOGETHER Pt.1
B2:I CAN'T STAND MYSELF(WHEN YOU TOUCH ME)
B3:LICKING STICK-LICKING STICK Pt.1 & 2
B4:GIVE IT UP OR TURNIT A LOOSE
B5:I DON'T WANT NOBODY TO GIVE ME NOTHING(OPEN THE DOOR, I'LL GET IT MYSELF)
THE JAMES BROWN STORY / Doing It to Death 1970-1973(1984年発売)
A1:THERE IT IS
A2:ESCAPE-ISM
A3:I'M GREEDY MAN
A4:MAKE IT FUNKY, PART2
A5:BROTHER RAPP
B1:I GOT A BAG OF MY OWN
B2:I GOT ANTS IN MY PANTS(AND I WANT TO DANCE)
B3:THINK
B4:DOING IT TO DEATH
B5:WATERGATE INTERLUDE
なお、上記両アルバムは、現在、レコード・ショップのサイトで検索しても発見できない状態です。中古レコード店でしか入手できないようにも思われます。また、有名曲の収録が多いものの、「Cold Sweat」などの超鉄板モノは入っていません。それでも、僕にとっての印象は強烈です。
JB のオムニバスの中で、決定版と言えば、CD4枚組の「STAR TIME」でしょう。60年代以降のファンクだけでなく、50年代の初期作品やバラードも収録されています。曲ごとのメンバーのデータなどが詰まった解説書も付いた豪華版です。
さらに、1986年に発売された「James Brown in the Jungle Groove」は、コンパクトな作品(CDで1枚、LP2枚)ですが、長尺のファンク・ナンバー8曲、9ヴァージョンを収録しています。発売当時、クラブDJに好まれていた曲を中心に選曲されています。
これら「STAR TIME」「James Brown in the Jungle Groove」の2作品は入手しやすく、配信もあるようです。