Miles Davisを最初に聴いたのは、1969年の「In A Silent Way」の中古レコードでした。事前情報から想像していたのと違って、軽快な感じを受けた作品であった半面、ややインパクトが薄い印象でした。
二番目は「Agarta」。これは逆にヘビーな感じです。
その次が「On the Corner」。「全体がリズム・マシーンのような」と形容されたサウンド。ここらへんから、Milesの魅力にハマりはじめました。
以降は「Bitch's Brew」を初めとしたエレクトリック作品から、「Kind of Blue」「Sketches of Spain」「Birth of The Cool」なども聴いた上で、最初に聴いてから数年後、CDに買い替えたのを機に「In A Silent Way」をジックリ聴き直してみました。
改めて聴いてみて、気付いたことが二つあります。ファンの方には常識だと思いますが・・・
一つは当時のJazz系の作品には珍しく、かなり編集が加えられていること。
B面の最初と最後は、同じ曲の同じ演奏です。
A面も、冒頭のJohn McLaughlinのソロ~Milesのソロまでの6分弱の部分が、同じ曲の約12分以降にコピーされ貼り付けられています。
さらにB面2曲目の最初の50秒弱も、同じ曲で後の方に出てくる部分と全く同じです。
全体で38分のアルバムですが、重複を除くとA面は約12分、B面は約15分。つまり「水増し」なのですが、それに気づいても「だまされた感」はありませんでした。
編集が巧みなためか、演奏が素晴らしいためか、それとも、この頃にはすっかりMilesの魔力の虜になっていたせいでしょうか?
二点目は、A面「Shhh / Peaceful」とB面の「It's About That Time」には、あらかじめ作曲されたメロディーが出てこないこと。つまりMilesのTrumpet、Wayne ShorterのSaxなど、メロディのように聴こえた部分は、全て即興演奏であること。
最近の研究によると、ちゃんとしたメロディーがある曲のセッションの、ソロの部分だけを編集したものらしいです。
そのためか、演奏全体が、とても自由な印象がします。
このアルバムに惹かれた理由は、別のところにもあります。
A面では、BassとDrumの動きが固定されています。
Bassは2つの決まったパターンを交互に弾き続け、ドラムは、シンバルを延々鳴らし続けるだけ。
3台のキーボードとギターによる、浮遊感のある自由な即興的演奏。それをベースとドラムが、バラバラな方向に行かないように繋ぎとめているような感覚です。
ベースのDave HollandもドラムのTony Williamsも、根っからのJazzの人で自由に演奏したいほうですから、本来こんな風な演奏は好まないでしょう。Milesか、ディレクター的存在のJoe Zawinulの指示によるもの、と思われます。
そしてMilesが吹き始めると、他のミュージシャンが緊張しながらもMilesのソロに集中し、やがてMilesに煽られるように自らの演奏を発展させてゆきます。このあたりは、聴いていてゾクゾクします。
B面の「It's About That Time」でも、ドラムはリム・ショット(スティックでドラムのふちを叩く奏法)で一拍づつ叩き続けています。さらに、Bassだけでなくキーボードやギターも、ソロの時以外は二つのパターンを交互に淡々と繰り返し続けます。ここには最早、Jazz的な「インタープレイ」といった要素は感じられません。
曲の終盤、Milesがソロの途中で、合図でもするかのように鋭い高音を発すると同時に、ドラムが暴れ出し、キーボードが決まったフレーズからはみ出し始める。緊張から解放されたような感じが伝わってきます。
Jazzの最大の魅力が即興演奏でしょう。ソロの時だけでなく、バックで演奏している時も自由に演奏を展開し、他のミュージシャンとフレーズのやりとり(インタープレイ)をする。
一方で、同じフレーズ、同じリズムを繰り返すことによって得られる快感・躍動感もまた、音楽の大きな魅力の一つです。
時間的・空間的に、自由な部分と固定された部分が、絶妙なバランスで配置されていること。「In A Silent Way」の大きな魅力の一つが、そこにあると思います。
Miles Davis / In A Silent Way(1969年)
A:Shhh / Peaceful
B:In A Silent Way / It's About That Time