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TOSHINORI KONDO IMA / 大変 ~近藤等則による日本のパンク・ポップ


ジャングル・ビートと祭り囃子が一緒になったような、ドンドコ、ドコドコという強烈なリズムでの幕開け。


「タイヘン、タイヘン、ヘンタイ、タイヘン」と、囃子言葉か掛け声のような短い言葉で唄が続きます。そのあとにトランペット。


これが、TOSHINORI KONDO IMA(近藤等則 IMA)の1984年のアルバム「大変」の1曲目、「タイヘン」です。ビートといい、歌詞といい、ボーカルや楽器の脳天気な響きといい、聴くなり、なんだこりゃ…!といった印象です。


近藤のトランペットが独特です。70年代の Miles Davis に近い気もするし、かなり違う感じもします。動物の鳴き声や、人の叫び声のような音、濁った音を自在に繰り出します。


途中、ドラムのヒットに合わせて、近藤らのボーカルのサンプリングが入ります。終盤には「アタフタ、アタフタ」という掛け声も加わります。そんな曲が、8分近くにわたって続きます。


2曲目は「ザ・デイ・アフター」です。前年にアメリカで高視聴率を記録し、日本でも話題になった同名のテレビ映画から採ったタイトルです。


1曲目とは一転して、静かに、ゆったりとメロディーラインが奏でられます。エフェクトのかかったドラムに続いて、近藤の唄がベースとユニゾンします。


映画は、核戦争後の世界を描く内容です。歌詞もそれに沿っています。


唄の背後には、ノイジーなトランペットが散りばめられています。近藤の奇声も重なります。


ユーモアを含んだ言葉が続き、メロディは明るいものとなっています。


そのため、かえって不気味なメッセージが伝わってきます。


このアルバム「大変」では、全体を通して、ベース、ドラム、近藤やコーラスの唄、トランペットが曲の骨格となっています。


ギターは、コードをカッティングするというよりも、ノイズ的な音を打ち出すのが役目です。パーカッションも、リズムを構成するというよりも、空間を埋め、サウンドに彩を与えるのが役割です。


そのため、どの曲も、とてもシンプルな構成に聴こえます。エネルギーに満ちたサウンドが、ダイレクトに突き刺さってきます。


全6曲中、5曲に唄が入ります。歌詞は日本語です。メロディーも和風です。人の声、楽器、テープレコーダーの音など、さまざまな音のサンプリングも散りばめられています。


そうしたサウンドの中で、近藤はトランペットを吹きまくります。自由奔放なラインで、メロディアスに。時にはノイジー、かつパンキッシュに。


3曲目「高雄BLUE」は、近藤が「タカオ~」と呼びかけると、女声が「ハレハレ」と返す陽気な一節が展開される曲です。


この曲では、金属製の打楽器らしい音や、おもちゃの笛の音のようなものも聴こえてきます。


これらを僕は近藤の'84年のライブで見ました。「大変」発売前のライブです。打楽器は韓国のケンガリのような小さな鉦(かね)、おもちゃの笛のような鳴り物は、実際に「おもちゃでは?」と思える笛でした。


さらに、このライブで、近藤はハンディ―・トーキーにマイクをつなぎ、そのマイクを口に咥えてシャウトしてもいました。この音がなんとも凄まじく、犬の吠え声にも聴こえます。「手製ヴォーコーダー」と表現した記事もありました。


「大変」6曲目の「オハラ・ショースケ」では、この手製ヴォーコーダーが活躍します。「小原庄助さん、なんで身上潰した~」と、日本語の伝統的なラップ(?)が入る、たたみかけるような1曲です。


近藤等則は、80年代の初め頃まで、フリー・ジャズのアーティストとして、海外で活躍していました。日本では無名に近い存在でした。


そのため、1983年に前作「空中浮遊」を発表した際は、当時おそらく34歳になっていたにも関わらず、ほとんど新人扱いでした。


なので、「大変」は、実質的なデビュー2作目です。なお、アルバムジャケットには「大変。」と表記されています。


ちなみに「空中浮遊」は、かなり先進的で独特なサウンドによる作品ですが、既存のフュージョンの枠になんとか収まりそうです。


一方、「大変」は、一転して最初から最後まで一気に突っ走るかのような作品です。


Herbie Hancock と組んで、ヒップ・ホップのメジャー化に大きく貢献した Bill Laswell が参加しているためか、発売当時は、ジャパニーズ・ヒップ・ホップなどとも紹介されていました。


ですが、いまあらためて聴いてみると、「パンクなポップ・ミュージック」といった形容の方が、ふさわしいようにも思えます。


なお、アルバムには、近藤自身の手によるミニ小説も封入されています。これまたタイヘンに荒唐無稽で、パンクな内容です。



TOSHINORI KONDO IMA / 大変(1984年)


A1:タイヘン

A2:ザ・デイ・アフター

A3:高雄BLUE


B1:花祭

B2:オイワケ

B3:オハラ・ショースケ


*B2は、美空ひばりが唄った「リンゴ追分」のカバーです。この曲のみボーカルが入りません。


*CDとLPがあります。CDは2017年と2020年にも再発売されています。2017年のものは高音質CDです。ミニ小説はこれらすべてに付属しています。

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