「セールスなど気にせず、好きで作った作品」
「個人的にも気に入っている作品」
George Duke 自身が、このアルバムのことをそう語っているそうです。
1曲目のタイトルは「Brazilian Love Affair」です。訳すと「ブラジルの情事」でしょうか。なお、アルバム名の方には「a」が付いていて、「A Brazilian Love Affair」となっています。イントロがとてもカッコよく、買った当初はこればかり何度も聴いていた曲です。
幕開けは、軽快なサンバのリズムを奏でるパーカッションです。鳥の声を真似たシンセサイザーが直後にこれを追いかけます。跳ね上がるようなチョッパー・ベース、リズム・ギター、ドラムもそこに加わり、ファンキーな展開を見せていきます。ハスキーなファルセット・ヴォイスによるヴォーカルが、続いてそこに乗ってきます。
2曲目「Summer Breezin’」は、ボサノバ風のギターから始まります。ブラスも加わったアコースティックな展開のサウンドです。シンセの音色は、ビブラホーンやギターなど、生楽器を連想させるものになっています。この曲にもファルセットのヴォーカルが入ります。
なお、これらのヴォーカル、George Duke 自身によるものです。僕はそのことに初め気づいていませんでした。LPでこのアルバムを聴き、数年後にCDを買い、クレジットを見て知りました。驚きました。
George Duke は、人懐っこそうな笑顔で、とても楽しそうに演奏するピアニストです。このアルバムを聴く以前、僕はこの人についてはTVに映った姿しか知りませんでした。'81年の Live Under The Sky(屋外ライブ・田園コロシアム)での映像です。
George Duke は、この時、テナー・サックスの巨人 Sonny Rollins のバックでアコースティック・ピアノを弾いていました。曲は純然たるジャズでした。突き刺さすような角度で鍵盤を叩きながら、音数こそ少ないながら、よくスウィングするフレーズを奏でていました。
このときの印象から、僕には彼がヴォーカルをこなすイメージはありませんでした。ましてやファルセットなど…。
3曲目は「Cravo E Canela」です。Milton Nascimento の作曲で、彼はヴォーカルでも参加しています。アレンジは George Duke らしい、ポップで爽快なものとなっています。中盤からのコーラスの掛け合いには、思わずウキウキさせられます。ブラジリアン・フュージョン、あるいは、インスト主体のMPB(ブラジルのポップ・ミュージック~Musica Popular Brasileira)とでも表現したいサウンドです。
(Milton Nascimento については、「Minas」「Native Dancer」の両記事をよろしければご参照下さい)
ちなみに、僕がこのアルバムを当時聴いていて、もっとも気になったのは、シンセサイザーやエレクトリックピアノの音色でした。ひかえめに、そして効果的に差し込まれています。
それらは、冒頭にふれたような鳥の声や生楽器を連想させる音だけに留まりません。いかにもシンセサイザーといった音ではあっても、それでも、ほかではあまり聴いたことがないものになっていました。
そこで、CDの解説書を読んでいくと、答えは単純ですが、機材に付いている各種のツマミの操作によってこれらを創り出しているのだとか。
ともあれ、そんな個性的で心地よい音色が、全体の中で浮き上がることなく、ぴったりとハマり込んでいるのがこのアルバムの魅力です。
8曲目(B3)「Up From The Sea It Arose And Ate Rio In One Swift Bite」では、パーカッション主体のサウンドにフィットするように、エレピも、やはりパーカッシブに演奏されています。
そのほか、ファンクやサンバなどが混在する特徴的なリズム、前述の Milton Nascimento や、のちに Sheila E. としてブレイクする Sheila Escovedo、ブラジルの女性シンガー・Simone といった多彩な参加メンバー等、
多くの魅力がたっぷりと溢れた、おすすめのアルバムです。
George Duke / A Brazilian Love Affair(1979年)
A1:Brazilian Love Affair
A2:Summer Breezin’
A3:Cravo E Canela
A4:Alone―6AM
A5:Brazilian Sugar
B1:Sugar Loaf Mountain
B2:Love Reborn
B3:Up From The Sea It Arose And Ate Rio In One Swift Bite
B4:I Need You Now
B5:Ao Que Vai Nascer
CDボーナス・トラック:Caxanga
「Ao Que Vai Nascer」と「Caxanga」は、A3「Cravo E Canela」同様、Milton Nascimento が作曲し、参加もしています。ただし、この2曲は「Cravo E Canela」と違って、Milton 自身のアルバムのヴァージョンとほとんど変わらないアレンジになっています。Simoneは、9曲目(B4)「I Need You」に参加しています。
アルバムジャケットには、“A very special album conceived and recorded in Brazil; a blend of music,muscians and ideas.” との言葉があります。George Duke 本人によるものかは定かではありませんが、作品への自信を感じさせる言葉です。