男声の語りから始まり、――Ladies And Gentlemen, Miss Grace Jones, Jones――というセリフのあと、クラシック風コーラスとシンバル、シャウトとノイズが短く挟み込まれ、ベースとドラムの重たいリズムが始まる。
バンドとフル・オーケストラの音、コーラスが重なり、Grace Jonesのボーカルが朗々と歌いだします。
狂ったようなバス・ドラムの連打、声を合わせて肉体労働をする男たちのウッ、ハッ、ウッ、ハッ、という掛け声――様々な視覚的イメージを喚起する音が強力に迫ってきます。
Grace Jonesの“Slave to the Rhythm”1曲目です。
このアルバムのプロデューサー、Trevor Hornの名前を知ったキッカケは、Herbie Hancockの“Sound System”です。
このアルバムでは、楽器や楽器以外の様々な音をコンピューターに取り込み、音楽に挿入する手法が採用されています。オーケストラの音をキーボードでジャン!と鳴らす「オーケストラ・ヒット」が、その代表的なものです。
この「サンプリング」と呼ばれる手法の代表的使い手がTrevor Horn、彼が全面的にサンプリングを取り入れた作品が、84年の“(Who's Afraid of?)The Art of Noise”ということを知りました。
早速、このアルバムを聴いてみました。
人の声、足音、雷、重たい金属音、車のエンジンのような音――様々な音がサンプリングされています。そのなかには前年に発売されたばかりの、清水靖晃“北京の秋”の曲もありました。
当時も今も、とても評判が高い作品で、つい先日もTV番組のBGMで2曲目の“Beat Box”が流れていました。
でも、僕は“Sound System”ほどの強い印象は受けませんでした。Scratchなど、ヒップ・ホップの手法を導入したTrevorの他の作品も聴いてみましたが、同様でした。
翌85年に“Slave to the Rhythm”を買ったのもTrevor目当てではなく、モデル・歌手・俳優――007にも出演――など多彩な活動で話題になっていたGrace Jonesを聴きたかったからです。
でもGrace本人は曲を書いておらず、ボーカルがほとんど入らない曲もあり、全面的にTrevorサウンドのアルバムですが、何故かこっちにはハマリました。
1曲目は冒頭のとおり。4曲目=A面最後の曲が特に変わってます。Graceの声と男の声を、サンプリングやスクラッチを使って加工しまくってます。途中、スクラッチで音階を変えることで(曲名は知らないけれどよく耳にする)クラシックの名曲の一節に仕立てている部分もあります。
B面2曲目は環境音楽風のエレクトロで、鳥や虫の声のような音(サンプリング?)が入ってくる静かな音。B3は、特にギターらしき音のエフェクトが変わっていて、耳に引っかかります。
そのほかの曲――普通っぽい曲もあります――を含め、病みつきになるサウンドでした。
さらに87年、同じくTrevor HornプロデュースのFrankie Goes To Hollywood(FGTH)のアルバムも聴いてみました(84年リリースの「Frankie Goes To Hollywood」)。そのサイケでエキセントリックなサウンドがメチャクチャ好きになりました。と言っても前半――レコードでは2枚組の一枚目――だけですが…
僕はメロディーやハーモニー、という基本的要素以上に、リズムや、音色・音の質感の面白さに惹かれるところがあります。なので、この2作品の音にハマったようです。
こういう「変わった音」への嗜好性が、90年代になってからテクノやエレクトロを聴きはじめることにつながっているような気もします。
それでもやはり、Art of Noiseや、その後に知ったTrevorの出世作とも言うべき、Yesの“ロンリー・ハート”(原題:90125)、FGTHのアルバムの後半は、ほとんど聴くことはありませんでした。
それは、Trevor Hornがアルバムや曲ごとに様々なサウンドを試しているため、それぞれの作品から受ける印象が、全く異なるものになった結果かもしれません。
GRACE JONES:SLAVE TO THE RHYTHM(1985年)
A1:Jones The Rhythm
A2:The Fashion Show
A3:The Frog and The Princess
A4:Operattack
B1:SLAVE TO THE RHYTHM
B2:The Crossing (ooh the action...)
B3:Don't Cry―It's Only The Rhythm
B4:Ladies And Gentlemen:Miss Grace Jones