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Black Uhuru / The Dub Factor ~ダブって何だっけ?



「The Dub Factor」というLPアルバムをレコード店で見かけたのは、1984年のことです。アーティストは Black Uhuru(ブラック・ウフル)です。レゲエのヴォーカル・グループです。

Black Uhuru は、その年、来日することが決まっていました。僕もすでにレコードを2枚持っていました。

ジャケットを見て、ふと思いました。

「The Dub Factor か… Dubって何だっけ?」

Dub(ダブ)は、ジャマイカで生まれた音楽ジャンルです。母体はレゲエです。ジャンルであると同時に手法を指す言葉で、リミックスの始まりともいわれています。

野外でダンスパーティを楽しむため、レゲエ音楽からヴォーカルを抜いたトラック、要はカラオケを作るために行うミキシングの過程から発生したとされています。

原曲のリズムを強調しながら、強いエフェクトをかけることで、別の作品といってよいほどの曲が生み出されます。

ミキシングを行うエンジニアの力が創作に占めるところが大きいため、エンジニア名義で発表されることもあるのがダブの特徴です。

その後、ダブはさまざまな音楽に採り入れられました。ダブテクノ、ダブステップなど「ダブ」の付く音楽ジャンルがいくつも生まれています。

とはいえ、当時の僕の知識といえば、

「ダブ… 雑誌で見たことはあるな」

と、いった程度でした。

それでも、このアルバム、「The Dub Factor」を僕は早速買ってみました。

なぜなら、Black Uhuru の名前とともに、

ドラム:Sly Dunbar
ベース:Robbie Shakespeare

レゲエを代表するスーパー・コンビの名前が目に入ったからです。

二人はプロデューサーとしても有名です。

彼らがプロデュースした12inchシングル―― Jimmy Riley の唄った Sexual Healing のカバー――が、当時、僕のお気に入りでした。

加えて、Sly Dunbar は Herbie Hancock のアルバム「Future Shock」の2曲にも参加しています。そのリズムにも、僕は魅了されていました。

「The Dub Factor」を聴いてみました。

1曲目「ION STORM」では、リズム・ギターとパーカッションに深いエコーがかかっているところに、Black Uhuru の3人のコーラスが入ります。

さらに、ドラムも入ってきます。次いで唐突に、エフェクトがかかった大きな音でスネア・ドラムが打たれます。

そんな、随所でハッとさせられるような音が、A面5曲、B面5曲、ノンストップでつながります。

それぞれの楽器の音や、ヴォーカルは、断片的で切り刻まれたような感じなのですが、それらは巧妙に処理され、組み合わされています。

なので、ギクシャクした様子や、アンバランスな印象はまったく感じられません。

解説を読んでみました。YMOとも関係の深かった音楽プロデューサー・生田朗氏によるものです('88年逝去)。

それによると、ダブ師(生田氏の造語?)が、「歌もののマスター・テープを流用」し、スタジオで、調整卓のフェーダーやディレイなどの周辺機器を「まるで楽器のように演奏して、素材とは全く別次元の」曲に作り変えているとのこと。

この独特な音に僕はすっかりハマりました。「なるほど、これがダブか!」と理解させられた気にもなりました。

ところが、それは間違いでした。

あとから知ったことなのですが、この「The Dub Factor」は、「ダブにして、ダブっぽくない作品」と、評価されることの多いアルバムでした。

さらには、「レゲエよりもクラブ・ミュージックが好きな人向き」と、いった意見もあり、それはまさに僕のことです。

僕が「The Dub Factor」と出会ったのは、前述のとおり1984年のことなのですが、そのしばらくあと、90年代後半~2000年代と、僕はテクノを中心にクラブ系の音楽に深く魅せられていきました。

ちなみに、このアルバムのダブ師(エンジニア)である Paul “Groucho” Smykle は、ナイジェリアの King Sunny Adé の「Ja Funmi(Waka Version)」のリミックスも手がけています。

1984年にリリースされた King Sunny Adé 来日記念の編集盤「ADÉ SPECIAL」に収録されている曲です。やはり、クラブにフィットするような作品です。

「ADÉ SPECIAL」「The Dub Factor」ともども、かなり古いレコードとはなりましたが、僕はいまも愛聴しています。


Black Uhuru / The Dub Factor(1984年)
 Produced by Sly Dunbar & Robbie Shakespeare
 Remixed by Paul “Groucho” Smykle

A1:ION STORM
A2:YOUTH
A3:BIG SPLIFF
A4:BOOF‘N’BAFF‘N’BIFF
A5:PUFFED OUT

B1:ANDROID REBELLION
B2:APOCALYPSE
B3:BACK BREAKER
B4:SODOM
B5:SLAUGHTER


LP版に記されている原曲名と、収録アルバム名(括弧内)

A1:ION STORM
   FLEETY FOOT(Chill Out)
A2:YOUTH
   YOUTH OF EGLINGTON(Red)
A3:BIG SPLIFF
   RIGHT STUFF(Chill Out)
A4:BOOF‘N’BAFF‘N’BIFF
   EYE MARKET(Chill Out)
A5:PUFFED OUT
   PUFF SHE PUFF(Red)
B1:ANDROID REBELLION
   MONDAYS(Chill Out)
B2:APOCALYPSE
   DARKNESS(Chill Out)
B3:BACK BREAKER
   WICKED ACT(Chill Out)
B4:SODOM
   (未発表曲)
B5:SLAUGHTER
   EMOTIONAL SLAUGHTER


なお、2003年発売のCDの解説書にある原曲名は、上記といくつかが異なっています。以下のとおりです。

A1:ION STORM
   BIG FOOT, FLEETY FOOT
B1:ANDROID REBELLION
   I DON’T LIKE
B2:APOCALYPSE
   MARCH OF THE DUPPY
B3:BACK BREAKER
   WICKED
B5:SLAUGHTER
   STAR RISE

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