耳をつんざき、脳天を揺さぶる、太く強烈な音―――。
Skrillex(スクリレックス=Sonny John Moore =ソニー・ジョン・ムーアのアーティストネーム)のアルバム「Bangarang」のサウンドを短く表現すれば、さしずめこんなところでしょうか?
あるいは、デジタルヘビーメタルとでも呼べるかもしれません。
ロック的な音ですが、デジタルロックとも形容された The Chemical Brothers(ケミカル・ブラザーズ)のサウンドとも違います。彼らの音はロック系のサンプルのループを緻密に重ね、作られていますが、Skrillex の方は主に打ち込みや手弾きで構成されています。メタリックなエレクトリックサウンドによる力押し(!)といった感じです。
1曲目「Right in」から、こうした音が全開となります。バスドラムの三連打にメタリックな和音がシンクロし、そこに、エフェクトを加え高音に加工されたボイスが続きます。冒頭、この一連のループが勢いよく繰り返されます。その後も、これらの音とヘビーなドラムが騒々しく鳴り交わされます。
はっきりとしたベースラインは感じ取れませんが、音数のとても少ない重低音がバスドラムに匹敵する存在感で鳴り響きます。曲のテンポはゆったりですが、このようなサウンドのためか、強烈な疾走感も伴います。
実は、僕はこのようなロック的かつメタリックでハードな音が苦手で、過去には意図的に避けてきていました。
'90年代後半になると、主にテクノ系の音楽を聴くようになりましたが、テクノでは、ビートは強くドライブするものの、サウンド自体はしなやかで柔らかです。アンビエントといえる響きのものも珍しくありません。
ですが、そんな様子のまま十数年経つと、いささか飽きが出始めました。多少は違った音楽も聴いてみようかと思い始めた頃、日本でも話題になっていたのが Skrillex でした。
話題の中心は、彼が2012年のグラミー賞3部門で受賞(受賞作は「Bangarang」以前の作品)したことや、同年11月に初来日することなどでした。そこで、当時の彼の最新作「Bangarang」を僕は聴くことにしたのです。同年末頃のことでした(アルバムの発売は前年の12月)。
なお、その際ネットで色々な記事を探してみると、このアルバムのサウンドはやはり僕が避けてきたハード・ロック的なもののようでした。しかし、目先を変えてみるのが今回の目的ということで、迷わずCDを購入しました。
実際に聴いてみると、「Bangarang」に収められたサウンドは、僕の想像を超えて新鮮なものでした。
2曲目の「Bangarang」(アルバムタイトル曲)も1曲目同様、強烈なサウンドで圧倒してきます。
しかし、3曲目以降は、基本線は維持されながらも、曲ごとに少しずつ変化を見せてきます。
3曲目「Breakn’ a Sweat」は、1965年結成の伝説的ロックバンド、ドアーズのメンバーが参加している曲です。ギターを歪ませたような音が耳に突き刺さっては来るのですが、冒頭にパーカッションの音が入るなど、ややソフトなところも感じられます。
4曲目「The Devil’s Den」では、途中にドラムの入らない比較的静かなパートや、レゲエ的ビートのパートなども盛り込まれます。
5曲目「Right on time」では、軽快なドラムが楽しめます。タイトルを唄うボーカルのリフと、エキサイティングな音階のせり上がりが繰り返される展開です。
6曲目「Kyoto(=京都)」は、僕には京都のイメージは浮かびません。それでも静かで悪くない1曲です。
7曲目「Summit」は、他の曲よりも音のすき間が多く、さらにのんびりとした印象です。
このように、曲ごとに微妙にサウンドは違います。しかし、面白いことにそれをはっきりと感じ取れるようになったのは、このアルバムを繰り返し何度か聴いたあとでした。それまでは、強烈な音の洪水にただただ圧倒され、疲労困憊の状態でした。
それでも「今回はあえて苦手なタイプの音に挑戦」ということで、粘ってみた結果、作品の新鮮さが感じられるようになったのです。僕にとって、これはよい経験であり、とてもよいチャレンジでした。
ちなみに、それを助けてくれたのはこのアルバムの収録時間です。とても短く、全7曲・30分9秒となっています。50分~60分、それ以上と続くアルバムであれば、ひょっとすると途中で挫折していたかもしれません。
Skrillex は、2013年のグラミー賞でも、前年と同じ3部門で受賞しています。このうち2部門は、下記のとおり、当アルバムが対象となっています。
最優秀ダンス/エレクトロニカ・アルバム賞 「Bangarang」
最優秀ダンス・レコーディング賞 「Bangarang」
最優秀リミックス・レコーディング賞 「Promises(Skrillex & Nero Remix)」
SKRILLEX / BANGARANG(2011年)
1:RIGHT IN
2:BANGARANG(feat. Sirah)
3:BREAKN’ A SWEAT(Skrillex & The Doors)
4:THE DEVIL’S DEN(Skrillex & Wolfgang Garter)
5:RIGHT ON TIME(Skrillex, 12th Planet & Kill The Noise)
6:KYOTO(feat. Sirah)
7:SUMMIT(feat. Ellie Goulding)
CDと配信、アナログレコードがあります(本作品は収録時間が短いため、LPではなくEPと分類されることが多いようです)。レコードでは1~4がA面、5~7がB面です。