The Chemical Brothers(ケミカル・ブラザーズ)の2ndアルバム「dig your own hole」を最初に聴いたのは1998年のこと。前年に発売されたCDを1年遅れで購入しました。
全11曲、63分のアルバムです。曲が間を空けず連続する構成。しかもサウンドはハードでヘビー。最後まで一気に聴いた結果、相当疲れました。もう十分、といった感じでした。
それでも、疲労が回復すると、またすぐに聴きたくなりました。麻薬的ともいえそうな高揚感、脳天がシャキッとさせられるような爽快感もあったからのようです。
The Chemical Brothers は、Tom Rowlands(トム・ローランズ)と、Ed Simons(エド・シモンズ)、2人のDJによるユニットです。その名は、僕がテクノを聴き始めた1996年頃、クラブ系音楽雑誌で頻繁に目にしました。当時は「デジタル・ロック」の代表的なアーティストと、いった扱いでした。
ところで、僕は、洋楽を聴き出した最初の頃から、ロックのサウンドが苦手でした。ノイジーなエレキ・ギターや、突き刺さるような裏声でシャウトするボーカルなど、どうも馴染めませんでした。
その傾向が当時もあったため、The Chemical Brothers の音楽も同様のものと疑い、敬遠していました。
とはいえ、本国イギリスで、シングルやアルバムのチャート1位を記録し、雑誌のレビューでも評価の高いユニットということで、そのうち、聴かず嫌いもどうかと思い直し、アルバムを手に取ってみました。
1曲目「block rockin' beats」は、低音のドローン(持続音)に、恐怖におびえたような高音のボイスが重なる不穏なイントロから始まります。そこに、硬質で乾いた音色のアルペジオがフェード・インします。ギターのようにも聴こえますが、実際はベースをギターのように鳴らしているのでしょう。これが、曲の核になっています。
ドラムは「これぞブレイク・ビーツ」といった感じです。サンプリングした音を細かく切り刻んで再構成した(打ち込みかもしれませんが)、複雑なパターンです。ロック的ではありません。ミドル・テンポで強くグルーブし、ベースとともに曲をリードするかたちです。
さらには、シャウトも無しです。ラップのような、短いボーカルのサンプルが繰り返されます。この辺りは、クラブ・トラック的といえそうです。
それでも、アクセント的に配置されたノイジーで強烈なロック・ギターの短いループからは、ロック感が強く印象づけられるといった作品です。
続く2曲目、タイトル曲である「dig your own hole」は、疾走感のある快速な1曲です。ブレイク・ビーツのドラムとギターのように吠えるベースが曲をリードします。ベースはサンプリングではなく、ゲスト・プレイヤーの演奏です。
なおかつ、クラブ・トラック的にさまざまな音も盛り込まれています。ホイッスルや、掛け声のような男声ボーカル、エレクトリック・ミュージック草創期のごとき懐かしい感じのするシンセのシークエンス・パターン、そのうえで、テイストは強烈なロック、といった作品です。
3曲目「elektrobank」では、ロック的な音色のギターのリフがリズムを刻みます。せわしないラップのループや、ドラム・パターンはヒップ・ホップ的です。それでも曲の後半では、ノイジーなロック・ギターのソロがやはり全開となります。
以上、強烈な3曲を聴くだけでも、最初はかなり疲れました。しかし、プレイヤーを一旦止めようかと思う間もなく、そのままシームレスに4曲目に突入してしまいました。
4曲目「piku」は、跳ねるようなビートのミドル・テンポの曲です。チリ・チリとしたノイズのリピートが際立ちますが、3曲目までに比べれば、静かで、中休み的な印象です。僕のような聴き手に「最後まで聴いてみるか」と思わせる仕掛けだったかもしれません。
そして、5曲目「setting sun」は、再びの強烈な曲です。そのあと結局のところ、9分以上におよぶハードな最終曲「the private psychedelic reel」まで、一気に聴かされてしまいました。
全曲、さまざまな音が、細かく切り刻まれたループとなって重ねられています。背景にも、小さなボリュームでノイズなどが加わります。これはミニマル・テクノなどと同じ手法です。リズムもロック的ではなく、やはりブレイク・ビーツです。
つまり、このアルバムのサウンド構成そのものは、DJが作るようなクラブ・トラックと同じなのです。それでも、やはりアルバムを通して受けた印象は「ハードなロック」でした。
The Chemical Brothers / dig your own hole(1997年)
1:block rockin' beats
2:dig your own hole
3:elektrobank
4:piku
5:setting sun
6:it doesn't matter
7:don't stop the rock
8:get up on it like this
9:lost in the k-hole
10:where do i began
11:the private psychedelic reel
CDとLPがあります。LPは2枚組で、1、2がA面、3、4、5がB面、6、7、8がC面、9、10、11がD面です。
曲間に空きがなく、CDはノン・ストップで全曲が続きます。LPも、各面ごとにノン・ストップです。