「THERMONUCLEAR SWEAT」は、僕が初めて聴いたファンクのアルバムです。衝撃的な作品でした。Defunkt(デファンクト)による'82年リリースの2ndアルバムです(日本盤は'83年に発売)。
きっかけは当時の音楽雑誌の記事でした。「フリージャズ系のミュージシャンがファンクやソウルなどに続々転向しはじめている」と、書かれた中で、Jamaaladeen Tacuma らとともに、Defunkt のリーダー・Joseph Bowie(ジョセフ・ボウイまたはジョー・ボウイ)が紹介されていたのです。
僕は、このうち Jamaaladeen Tacuma のアルバムを聴いてとても気に入っていました。次に、一緒に採り上げられている Defunkt とはどんなグループなのかと思い、「THERMONUCLEAR SWEAT」を手にしたのです。買ったのはLPでした。'84年のことです。なお、その後もいまに至るまでこのアルバムはCD化されていません。
1曲目は「Illusion」です。イントロでは、複雑なパターンのリズミカルなドラムと、クールなカッティング・ギターが前面に出てきます。ギターは2名での演奏です。三管のブラスによる前奏に続いてボーカルが入ります。
ボーカルは、メロディーはあるものの音程が曖昧で、かつ、こちらに投げつけてくるような印象です。「ラップのような唄」といったところでしょうか。のちのちよく耳にすることになる唱法なのですが、当時の僕にとってはまさに新鮮でした。
間奏はトロンボーンのソロです。こちらもラップ的な印象です。細切れで力強く跳ね、調性も希薄です。
なお、これらメインのボーカルとトロンボーンは、リーダーの Joseph Bowie によるものです。フリージャズ出身だけあってソロも個性的で自由です。さらにその後は、唄とブラスのリフと、ギターやトランペットによるパンキッシュに歪んだソロが、交互に展開するかたちです。
この冒頭の1曲から、僕は完全にノックアウトされてしまいました。ところが、まだまだそれはほんの序の口でした。
4曲目「Ooh Baby」。16ビートのパターンが延々と繰り返される中で、吠えるのはクレイジーなギター・ソロです。唸り続けるベース、幾度も差し込まれる「Ooh、Baby」の短いコーラス、曲の終わりのノイズ的な音処理など、ドラッギーな印象を醸し出す作品です。
5曲目(B1)「Avoid the Funk」は、冒頭、曲名と同じ小声のシャウトと、ボイス・パーカッションの反復で始まります。これがとてもカッコよく、当時僕はレコード針を何度も置き直して聴き入りました。
なおそのあとは、クールなリフと短いコーラスが繰り返されます。後半には、ギター、サックス、ベース、トロンボーンの奔放なソロが炸裂するかたちです。
7曲目「For the Love of Money」は、単音の細かなカッティング・ギターに、曲名がそのままコーラスとなって重なるイントロがクールです。「マネ、マネ、マネ、Money!」「マーネー!」と、ユーモラスな掛け合いがそれに続きます。
8曲目「Believing in love」には、ちょっとシニカルな歌詞がのせられています。「Believing in love, It’s just a fantasy」~愛を信じること、それはまさに空想と、いったところでしょうか。なお、ほかの曲にもニヒルでシニカルな詞がいくつものせられているようですが、残念ながら僕には聴き取れないものも少なくありません。
ちなみに、3曲目「Cocktail Hour(Blue Bossa)」と、6曲目「Big Bird(Au Private)」では、ビー・バップが奏でられます。こういった曲もあるせいか、アルバム全体の雰囲気をいえば「ファンキーな中にもスマート&スタイリッシュな面もアリ」といったところです。
ともあれ、それまでファンクと呼ばれる音楽を聴いたことがなかった僕にとって、このアルバムは鮮烈かつ衝撃的でした。
当時はまだ手持ちのレコードが少なかったこともあって、まさに聴き倒すほどに繰り返し聴いたものです。
そして現在も、飽くことなく聴き続けているのがこのアルバムです。
DEFUNKT / THERMONUCLEAR SWEAT(1982年)(邦題:熱・核・発・汗 ~1983年)
1:Illusion
2:I Tried to Live Alone
3:Cocktail Hour(Blue Bossa)
4:Ooh Baby
5:Avoid the Funk
6:Big Bird(Au Private)
7:For the Love of Money
8:Believing in Love
当アルバムはLPのみの発売で、再発売やCD化はされておらず、配信もありません。しかしながら、2005年に発売された2枚組CD「DEFUNKT+ THERMONUCLEAR SWEAT+」に、全曲同じ曲順で収録されています。よって、同CDを購入すれば「THERMONUCLEAR SWEAT」が一応手に入るかたちです。
なお「DEFUNKT+ THERMONUCLEAR SWEAT+」の1枚目には、Defunkt の'80年の1stアルバムもそっくり収録されています。「THERMONUCLEAR SWEAT」より派手めでややトラディショナルな印象ですが、こちらも傑作です。
(以下参考:「DEFUNKT+ THERMONUCLEAR SWEAT+」の内容)
CD1枚目(1stアルバム「DEFUNKT」に4トラックを追加したかたち)
1:Make Them Dance
2:Strangling Me With Your Love
3:In the Good Times
4:Blues
5:Defunkt
6:Thermonuclear Sweat
7:Melvin’s Tune
8:We All Dance Together
9:Razor’s Edge 12’’ version *
10:Strangling Me With Your Love Revisited(Live 1983)*
11:Defunkt(Live 1983)*
12:In The Good Times(Live 1983)*
CD2枚目(2ndアルバム「THERMONUCLEAR SWEAT」に1トラックを追加)
1:Illusion
2:I Tried to Live Alone
3:Cocktail Hour(Blue Bossa)
4:Ooh Baby
5:Avoid the Funk
6:Big Bird(Au Private)
7:For the Love of Money
8:Believing in Love
9:Big Bird(Au Private)(Live 1983)*
「*」~CD1枚目の追加分のうち9曲目はシングル曲、10、11、12曲目はライブ音源です。2枚目の追加分となる9曲目もライブ音源です。
なお、前記のとおり「THERMONUCLEAR SWEAT」単独での配信はありませんが、「DEFUNKT+ THERMONUCLEAR SWEAT+」および、1stアルバム「DEFUNKT」単独での配信は行われています。