「Romance 1600」は、Sheila E.(シーラ・E)のセカンド・アルバムです。発売と同時に、僕は買いに走りました。1985年の作品です。
Sheila E. が演奏する姿を初めて観たのは、TVで放映されたライブ映像でのことです。彼女がメインのライブではなく、Prince のライブでした。その映像はオフィシャル動画として、いまも YouTubeで観ることができます(下記)。
「I Would Die 4 U」
「Baby I'm a Star」
この中で、Sheila E. は、スレンダーな身体をシルバーのドレスと毛皮のショールで包み、リズミカルにステップを踏んでいます。右腕に派手なアーム・カバーをまとわせながら、ティンパレスやボンゴを叩いています。
“Action Sheila ! ”という Prince の呼びかけに応じて、軽やかな手さばきでソロをとる様子は「元気でカッコイイお姉さん」と、いった感じです。
「Romance 1600」を手に、家へ戻ったそのあと、早速レコード盤をプレーヤーにのせ、針を落としました。すると、いきなり冒頭から高速・複雑なユニゾンでの始まりです。1曲目「Sister Fate」です。
テープを早回しするなどしてこしらえたものなのでしょうが、衝撃的でした。「間違って(LPを)45回転でかけたかな?」と、思ったくらいでした。
続けて、バス・ドラムの連打が始まります。当時のヒップ・ホップで多用されたリズム・マシーンによるものです。サックスの軽快な前奏が続き、唄に入ります。
スキャットやシャウトを交えたヴォーカルも、サウンドも、まさに「元気でカッコいい」イメージです。さきほどのライブ映像そのものです。
2曲目「Dear Michaelangelo」は、静かなシンセサイザーにヴォーカルが乗り、ドラムがフェード・インする展開です。サブ・メロディー的に入るサックスが心地よく絡んできます。
3曲目「A Love Bizarre」は、唐突にリズムが変わって始まります。クレジット上、この曲のみが Prince との共作となっています。
なので、「A Love Bizarre」では、いかにも Prince といった感じのリズム・パターンやメロディーが進行します。アルバム全体の中で少し浮いている印象です。本当は Prince 単独の作品なのかもしれません。
B面です。特徴的かつ個性的な曲が続きます。
1曲目は、リズム・パターンとメロディーが風変わりな「Toy Box」。
続いて、ビッグ・バンド風のブラスが加わるマイナー・4ビートの「Yellow」。
ニュー・ウェーブ的なリズムの「Romance 1600」。アルバムタイトル曲です。
「Merci for the Speed of a Mad Clown In Summer」は、高音で突き刺さるようなサックスによるエキセントリックなソロが印象的な、インスト曲です。
ラストはバラード、「Bedtime Story」となっています。
アルバム全体として、インスト部分が目立ちます。
Sheila E. のパーカッションのほか、Eddie M. のサックスなどがそれらを構成しています。Eddie M. は、Sheila E. と同じく、Prince のバンドの一員として活躍していた人です。
以上、このアルバムのサウンドをひと言にまとめると、
「フュージョン+ファンク+エレクトロ・ビート」
と、いったところです。
当時、僕は知らなかったのですが、Sheila E. は Sheila Escovedo という名前で、二十歳前からパーカッション奏者として多くの作品に参加しています。
手元にあるだけでも、Herbie Hancock の3枚のアルバム、George Duke の「A Brazilian Love Affair(記事がこちらにあります)」に、彼女の名前がクレジットされています。Marvin Gaye、Diana Ross、高中正義とも共演しています。これらに加えて、さらに Prince です。
このような、さまざまなジャンルのアーティストとの豊富な共演経験が「Romance 1600」には見事に結実していると僕は感じています。それでも、当時彼女はまだ27歳だったのですが…。
ところで、Sheila E. は、Prince と音楽活動を共にしている時代に、
「The Glamorous Life」('84年)
「Romance 1600」('85年)
「Sheila E.」('87年)
3枚のアルバムを出しています。
ただし、これらに収められた曲は、クレジットに Prince の名前はなくとも、実際にはほとんどが Prince 作だといわれています。
そのため、「Romance 1600」のアルバム・クレジットでは、A3(「A LOVE BIZARRE」)が Prince と Sheila E. の共作、他7曲は Sheila E. 単独の作品となっているにもかかわらず、
「実際には1曲を除いてほかは全て Prince 作」
と、する見解がネット上などに見られます。
また、日本版LPの解説にも、「前作よりも Prince の影響が強い」といった意味のことが書かれています。
ですが、一方でこんなデータもあります。
「レコード・コレクターズ」誌1999年12月号のプリンス特集に記されている、アメリカの著作権団体ASCAPの著作権登録データです。
これによると、上記「The Glamorous Life」の6曲すべてと、「Sheila E.」の10曲中5曲で、Prince が共作者として登録されています。
対して「Romance 1600」では、A3のみです。他では Prince は共作者として登録されていません。つまり、クレジットどおりです。
そのため、以上を見るかぎり、「Romance 1600」は、3枚の中ではもっともプリンス色が薄いアルバムとなっているわけです。
このことは、僕の印象とも合致します。
もちろん、著作権の登録が実態を反映していることへの確証があるわけではないのですが、たしかに上記のデータは、僕の印象どおりです。
ともあれ、「Romance 1600」が、Prince の影響を少なからず受けたアルバムであることは間違いありません。ですが、決してそこまでに留まる作品ではないと、僕には思えます。
Sheila E. / ROMANCE 1600(1985年)
A1 SCENES 1:SISTER FATE
A2 SCENES 2:DEAR MICHAELANGELO
A3 SCENES 3:A LOVE BIZARRE
B1 SCENES 4:TOY BOX
B2 SCENES 5:YELLOW
B3 SCENES 6:ROMANCE 1600
B4 SCENES 7:MERCI FOR THE SPEED OF A MAD CLOWN IN SUMMER
B5 SCENES 8:BEDTIME STORY
(上記 SCENES~は、CDでは表記がありません)