SANTANA のアルバム「Caravanserai」は、いきなり虫の音で始まります。
ノイズが目立たないので、野外で虫の声を録音した感じにも聴こえない。でもアルバム発売の1972年当時の電子機器では、こんな音は出ないはず。楽器の音をエフェクトで変調させているのかな?などと考えているうちに、静かにSAXが入ってきます。
CDの解説には「サンタナは『前世は日本人』と発言していて、SAXも尺八のようだ」とありますが、たしかにそんな雰囲気です。
「尺八サックス」に続き、アコースティック・ベース、エレピ、ドラムが加わり、ギターがゆったりとコードを弾きはじめます。
1曲目がフェード・アウトすると同時に2曲目がフェードイン。ゆっくりとしたややルーズなリズムの上で、パーカッションと、SANTANA 独特の太い音色で長く尾を引くリード・ギターが自由に跳ねまわります。
3曲目は一転してくっきりとしたリズム。SANTANAのギターだけでなく、ファンク的なリズム・ギターやオルガン、多数のパーカッションの躍動が目立ちます。
4曲目に入ってはじめて歌が入りますが、アクセント的に配置された感じで短め。インスト演奏のほうが耳に残ります。
やや静かな5曲目に続く6曲目。前奏に引き続き、高音の男性コーラスとともに、カスタネットの音が入ってきます。この音がとりわけ印象的です。
そして、ファルセットを交えた男性ヴォーカルも、オルガンのソロも、パーカッションをはじめとした楽器演奏も、もちろん SANTANA のリード・ギターも、高揚感にあふれて情熱的。A面の最後まで怒涛のように一気になだれこみます。
B面は、テープの逆回転によるエレピやマリンバの音ではじまり、ブラス・オーケストラの加わった9分におよぶ壮大な曲で終わります。
SANTANAの音楽をはじめて聴いたのは、1981年の「LIVE UNDER THE SKY」のテレビ中継でした。Herbie Hancock との共演で、SANTANAの「Europe」と Herbie の「Saturday Night」が放送されました。
録画してよく視聴していましたが、当時の僕はロック系のギターが好きではなく(Stevie Wonder / Talking Book の項参照)、Herbie や、SANTANA のバンドから参加した3人のパーカッションの演奏に魅了されていました。
とくに、パーカッションが打ち出す特定のパターンや掛け声で、全体の演奏が一気に変わるところにゾクゾクする魅力を感じていました。
SANTANA 自身の音を聴いてみようと思ったのはかなりあとになってから。80年代も半ば過ぎの頃だったと思います。Herbie のアルバム「Monster」に収録された「Saturday Night」を聴いたのがキッカケです。
そこで SANTANA のCDを3、4枚くらい買って聴いてみたのですが、「悪くはないもののピンと来ない」感じでした。この頃にはロック・ギターにも抵抗感は薄れていたので、ギターの音のせいではありません。
なので「Caravanserai」を買ったときは「SANTANAはこれで最後」くらいの気持ちでした。
ジャケットが印象的でした。他のアルバムはサイケデリックであったり、宇宙的なものでしたが、「Caravanserai」は東山魁夷を思わせるようなモチーフで、2色の濃淡で構成される、鮮やかでシンプルなジャケットです。中味に期待感を持たせます。
音を聴いてみました。どこかどう、とはハッキリ言えないけれど、それまで聴いた作品と比べて、ギター、パーカッションをはじめとしたインスト部分の演奏が素晴らしく、サウンドやアレンジにも様々な工夫がこらされているように感じました。
10曲中、歌が入るのは4曲だけ。歌だけが浮いてしまうこともなく、楽器の音に溶けこんでいる感じです。「泣きのギター」と呼ばれたSANTANAのリード・ギターも「泣き」がさほど目立たず、バックの音と一体化しています。バンドの音という感じなのです。
結局、高音質のCDが出るたびに買い替え、その後に中古レコードまで買ったのは、このアルバムと前々作の「Abraxas」(邦題:天の守護神)の2枚だけです。SANTANAのほかのCDは売ってしまって、今は持っていません。
こうした「この1、2枚しか聞かない」というアーティストが、僕にはSANTANA以外にも何人かいます。
SANTANA / CARAVANSERAI(1972年)
A1:ETERNAL CARAVAN OF REINCARNATION
A2:WAVES WIHTIN
A3:LOOK UP (TO SEE WHAT'S COMING DOWN)
A4:JUST IN TIME TO SEE THE SUN
A5:SONG OF THE WIND
A6:ALL THE LOVE OF THE UNIVERSE
B1:FUTURE PRIMITIVE
B2:STONE FLOWER
B3:LA FUENTE DEL RITMO
B4:EVERY STEP OF THE WAY