洋楽を初めて聴いたのは小学5、6年、1972年か73年の頃だったと思います。
兄の部屋のラジカセから流れてくるのを聴いたり、友だちの部屋で聴いたりしていましたが、最初は好きになれませんでした。
当時の洋楽と言えば、Led Zeppelin、Jeff Beck、Deep Purple など、白人のロックが中心でした。そういう曲の中でかき鳴らされるエレキ・ギターの音と、叫ぶようなボーカルが嫌いでした。
母親は、「うるさい!」「騒音!」「消しなさい!」と、兄に口うるさく言っていました。
周りにダサイと思われるのがイヤなので口に出して言うことはなかったですが、当時の僕の本音は、母と全く同じでした。
そんなある日、兄の部屋からそれまで聴いたことのない音楽が流れてきました。
ロックとは少し違ったノリのドラムから始まり、そこに不思議な電子音のリズミカルなフレーズが重なっていきました。
ロックの叫ぶようなボーカルとはちがう、ヌケのよい声も。
はじめて洋楽を心地よく感じ、自然に身体が動き出すような感覚も覚え、ドキドキするくらいでした。
そして、中学に入ったばかりの頃、「セサミ・ストリート」の中で、黒人のミュージシャンがキーボードを弾きながら、同じ曲を唄うのを見ました。
ミュージシャンの名は Stevie Wonder。曲は、Superstition。
のちに彼のトレード・マークとなった、頭を振る動きや、鍵盤上を飛び跳ねるような指の動きが、目に焼き付いています。
この「セサミ・ストリート」への出演は、いまではファンの間では語り草になっています。
ネットもなく、ビデオも普及していない時代、偶然にもリアルタイムで見られたのは幸運でした。
エレキ・ギターのノイジーな音は苦手でも、Stevie の曲で使われるクラビネットや初期のシンセサイザーの電子音、エレピの音は、僕の耳に心地よく響きました。
高校に入る頃からは、ディスコ・ブームが始まりました。Bee Gees や Earth Wind & Fire など、ソウル系の音が自然と耳に入ってきます。
クラビネットやシンセサイザーだけでなく、コーラス、ブラス、パーカッション、リズム・ギター(同じギターでも、こっちの方は好きでした)の音色、そして、ついつい身体が動きだしてしまうようなリズムにも魅了されました。
80年代になってからはロックも聴くようになりますが、最初は、Blue Eye'd Soul と言われた Hall&Oats や、David Bowie が Nile Rodgers と共作した「Let's Dance」など、ソウル色の強いものが中心でした。
昔聴くことのなかった60~70年代のロックを遡って聴くということはなく、僕の音楽ライブラリーの中では、そのあたりはいまでもポッカリ空白になっています。
ただ不思議なことに、Jimi Hendrix は、生前に発売されたアルバムはすべて持っているくらいで、好きな部類に入ります。
また、いまの目と耳で Stevie のセサミ・ストリート出演時の映像を見ると、かなりウルサい感じがします。なので、うるさいから60~70年代のロックを聴かない、とも言いがたい。
こうして振り返ってみても、僕がロックを聴かなかった理由は、結局よくわかりません。
ボーカルや楽器の音色と、リズムのノリが好みではなかったから、という気もするし、そうではなく、時代や当時の個人的環境から来る、単なる偶然とも思えてきます。
どんな音楽が好きか?ということには、つまるところ特別な理由などないのかもしれません。
Stevie Wonder / Talking Book(1972年)
A1:You Are The Sunshine Of My Life
A2:Maybe Your Baby
A3:You And I
A4:Tuesday Heartbreak
A5:You've Got It Bad Girl
B1:Superstition
B2:Big Brother
B3:Blame It On The Sun
B4:Lookin' For Another Pure Love
B5:I Believe(When I Fall In Love It Will Be Forever)