Jeff Mills の音楽との初めての出会いは、田中フミヤのMIX-CDでした。(MiX-UP vol.4の項参照)
全34曲のうちの8曲が、Jeff Mills の曲や彼がリミックスした曲。クライマックス部分に集中的に配置され、田中フミヤの素晴らしいテクニックとあいまって、34曲の中でも特に魅力的に響いていました。
その後、ライブで Jeff Mills を体験する機会がありました。1998年の夏、彼が来日してテクノ系のイベントに出演したのです。
「90秒ごとにレコードをかけ替える」といわれる超絶的DJテクニックだけでなく、音楽に対するストイックな姿勢、哲学的な発言などから、この当時、彼はすでに半ば伝説化された存在でした。そのDJプレイを一度は生で見てみようと思ったのです。
もちろん、彼はこのイベントのトリです。最後の2時間弱、たっぷり堪能しました。広大な会場のあちこちに設置されたTVモニターで見たのですが、音がなくても、その動きだけで楽しめるほどの驚愕の映像でした。
レコードを取り出してターンテーブルの上に置く、ピッチ・コントローラーを操作してテンポを合わせる、レコードをこすって「頭出し」する、イコライザーやエフェクターを操作して音質やバランスを変える…
そのすべての動きが、とにかく速い。「90秒ごとに1枚」よりも速く感じました。
一旦ターンテーブルに置いてテンポなどを調整したレコードを「コレ、やめとこう」といった感じでレコード・ボックスに戻し、他のレコードに替えることもたびたびありました。その場で即興的にレコードを変更しているようです。まるでジャズの即興演奏のようでした。
音とパフォーマンスに圧倒され、ここちよく踊らされる。まさに「Jeff Mills 体験」というべきものでした。
でも、この体験のあとになっても、Jeff Mills の音楽を自室で好んで聴くようになったわけではありません。
Jeff Mills が主に作っていた曲は「ミニマル・テクノ」と呼ばれるものの典型です。音色やリズム自体は大変魅力的ですが、メロディーは断片的で、目立った展開の少ない曲です。
MIX-CDやクラブで「体験」するのには適していますが、一つ一つの曲を単独で聴くと、単調な印象が目立ち、魅力が半減するように思ったのです。
その当時、Jeff Mills のミニマル曲を集めたCDも何枚か持っていましたが、好んで聴くといった感じではありませんでした。
そういう感じで2年ほど経った2000年頃、レコード・プレイヤーを買い(Luciano / Yamoré Remix の項参照)、十数年ぶりにレコードを聴きはじめました。昔聴いていたLPなどとともに真っ先に聴いたのは、何故か、敬遠していたはずの Jeff Mills のミニマル・テクノでした。
不思議なことに、レコードで聴くとミニマルでもすんなり耳に入り、そして病みつきになりました。
収録時間が60分を超え、10曲以上は入っているCDに比べ、テクノ系のレコードは両面で15分から20分、3~4曲。飽きがくることもなく、むしろ1曲づつじっくり聴くのに向いているのかもしれません。
また、90年代くらいのCDに比べると、レコードは音質が格段にいい。テクノの生命線のひとつでもある、一つ一つの音の細かな質感が味わえるということが、ミニマル・テクノを聴くのに向いている、ということなのかもしれません。
強靭でファンキーだけれど、ゴリ押し感のない、しなやかなリズム。印象的で耳に残る、断片的なメロディーとリフ。ヒンヤリするほど金属的でクールな音の質感。Jeff Mills の曲に共通するこのようなサウンドが、レコードから伝わってきます。
そして、それはどこか、70年代の Miles Davis のサウンドに、とてもよく似ているように感じられました。
このことを一番感じたのは、田中フミヤや Jeff Mills 自身のMIX-CDにも入っている「i9」という曲です。打楽器的で金属的な高音とバスドラの音から、フェイド・イン。そこに金属的なストリングスや、ゆれながら細かくリズムを刻むシンバル音が重なり、終始ヒンヤリした感じで曲が進行します。
全体的な音の雰囲気や、ところどころ、ザーというノイズ的なシンセが入ったり、中盤でブレイクが効果的に入ってくるところが、Miles サウンドを思わせます。
70年代 Miles の大ファンである僕は、こうして Jeff Mills にもハマっていったのです。
JEFF MILLS Presents MIX-UP Vol.2 LIMITED EDITION VINKL
A1:CHANGES OF LIFE / JEFF MILLS
A2:CASA / PURPOSE MAKER(JEFF MILLS)
AA1:i9 / JEFF MILLS
AA2:UTOPA / JEFF MILLS
*Jeff Mills のミニマル・テクノのレコードは膨大な数があり、またどれも素晴らしいものばかりです。なので、これが代表的なレコードというつもりはありません。彼の曲のなかでも特に有名な「Changes of Life」と、本文中に書いた僕が一番好きな曲「i9」が入っているため、選んだものです。
*このレコードは、1995年の新宿のリキッド・ルームでのDJ-Mixライブを収録したMIX-CD「JEFF MILLS MIX-UP Vol.2」に入っている曲の中から、4曲をピック・アップしたものです。