「宇宙的なサウンドスケープ」「宇宙のストーリーのサウンドトラック」―――。
Mono/poly(モノ/ポリー)のアルバム「Golden Skies」に関するレコードショップの紹介文などには、大抵そんな言葉が並んでいます。(Mono/poly は Charles Dickerson=チャールズ・ディッカーソンのアーティスト・ネームです)
そこで、宇宙の話が好きな僕も、早速この「Golden Skies」を聴いてみることにしました。2014年の発売直後のことです。
もっとも、こういった流れで音楽を聴くと、事前の情報から浮かんだイメージと実際とが異なっていて、がっかりさせられることもよくあります。
ですが、このアルバムではそうはなりませんでした。SF映画などよりさらに科学的な、たとえば宇宙に関するドキュメンタリー映像にぴったりと合う作品のように思えました。
1曲目「Winds of Change」の冒頭では、ハウリングのような高音がフェード・インしてきます。続いて、太い音色のシークエンス、ストリングス系の音、ボーカルのような音など、さまざまな音が重ねられます。
これらは、アナログシンセサイザーによるものと思われますが、こうしたサウンドがアルバム全体を通した特徴になっています。まさに宇宙をイメージさせる音です。
打ち込みのドラムと多数のパーカッションが細かくリズムを刻みます。バス・ドラムの連打は、初期のヒップ・ホップを思い起こさせます。
ただし、テンポがとてもゆっくりなせいか、スタンダードなヒップ・ホップのような激しさはありません。重量感もなく、逆に浮遊感に包まれるといったかたちで、やはり宇宙空間を行くようなイメージです。
なお、こうしたゆったりなテンポは、リズムパターンこそさまざまですが、このアルバムの各曲で共通しています。
1曲目から7曲目までは、ドラムの入る曲と、短く間奏曲的なドラムの入らない曲が交互に続きます。
たとえば、2曲目「Transit to the Golden Planet」は、アコースティック・ピアノとハープを合わせたような音がメロディーを奏でる、短くドラムのない曲です。
3曲目「Ra Rise」では、太く澄んだ張りつめた高音がメロディーのシークエンスを奏でつつ、背後では女声ボーカルのような音が漂います。音数の少ないドラムがそれを支えています。
4曲目「Golden Gate」と、5曲目「Golden Skies」では、特徴的な音色が飛び交います。前者は細かく不規則に鳴る金属打楽器音、後者は無線通信のノイズを思わせる音などです。
ところで、以上1~7曲目までは、聴いていてやや疲れるタイプの音楽といえるかもしれません。音が耳に突き刺さる印象をたまに受けたりもします。
しかし、後半の8曲目「Urania」以降はそれが一変します。高音では音量が抑えめとなり、その背景では中音域の音が緩やかに漂っている感じです。落ち着いたサウンドです。
9曲目「Empyrean」には歌も入ります。しっとりとした、深い響きの女声ボーカルによるものです。
以上、僕のこのアルバムに関するイメージを映像的にまとめると、1~7曲目までは、多数の惑星や小惑星、彗星などが混み合う太陽系といったところです。一方、8曲目以降は、太陽系を外に抜けた先、星などがまばらな深宇宙といったところです。
そして、最後の13曲目「Gamma」で、われわれはさらに遠い宇宙の果てに向けて運ばれていく――そんな雰囲気です。
「Mono/Poly」というアーティスト名は、同名のアナログ・シンセサイザーの名機に由来するそうです。Mono/Poly = Charles Dickerson 本人がそう言っています。彼には、シンセサイザーの音に対して並々ならぬこだわりがあるようです。
そのシンセの音色に加え、浮遊感のあるドラム、深みや奥行きを感じさせる音の重ね方、エフェクトといった数々のワザが、このアルバムを聴く人の心に、宇宙のイメージを深く抱かせているようです。
ですが、そうはいっても、実際に宇宙に出てみれば、周りには音を伝える空気がありません。そこは無音の空間のはずです。
ですが、われわれはそれでも宇宙空間には何かの音が存在するように無意識のうちにイメージしているようです。しかも、その音のイメージは、なぜか世界中の多くの人に共通してもいるようです。
その結果、冒頭に挙げたコメントのように、このアルバム―― Golden Skies のサウンドなど、まさにそれだと感じてもしまうようです。そんな奇妙な共感が、僕にはとても不思議です。
MONO/POLY / GOLDEN SKIES(2014年)
1:Winds of Change
2:Transit to the Golden Planet
3:Ra Rise
4:Golden Gate
5:Golden Skies
6:Light Age
7:Alpha & Omega
8:Urania(What Tesla Showed Me)
9:Empyrean(ft. Mendee Ichikawa)
10:Dreamscape
11:Night Garden
12:Euphoria
13:Gamma
CDとLP、配信があります。LPでは1~7曲目がA面、8~13曲目がB面です。