The Police(ポリス)の「Every Breath You Take」(邦題:見つめていたい)といえば、発表された'83年当時、ラジオやTV、あるいは喫茶店で、それこそ耳にする日がないほど頻繁に流されていました。それでも、僕はそのたび聴き入っていました。
曲は、Stewart Copeland(スチュワート・コープランド)による乾いたスネア・ドラムの一打で始まります。Andy Summers(アンディ・サマーズ)のギターと Sting(スティング)のベースが、1拍に1音ずつ繰り返されます。シンバルやバスドラはほとんど目立たず、4拍に1打ずつ繰り返されるスネアの音だけが耳に残ります。
背後には、かすかにストリングス系の音、装飾的なギターの音、さらにコーラスも散りばめられています。転調して”熱くなる”数小節も、途中にはあったりします。
とはいえ、この曲の音の基本は、淡々としたギター、ベース、ドラムです。Sting の歌は、ロックというよりもポップスの語がぴったりくるような、長調のゆったりとした懐かしさを感じさせるメロディーです。
歌詞はラブソングです。と、言うと「それは間違いだ」と、たくさんの方から指摘を受けるはずですが(本当は別の意味がある旨 Sting 自身が語っています)、ここはあえて素直にラブソングと受け止めたうえで――、それでも、繊細な音処理がされているためか、曲の雰囲気は心が暖まるといった感じではなく、むしろひんやりとしています。
その響きには、当時としての新しさも感じられ、何度聴いても色褪せない魅力に、僕も大いに惹かれたものです。
もっとも、僕はこの当時、ロック系の音楽には基本として関心が薄く、「Every Breath You Take」が収録されたアルバム「Synchronicity(シンクロニシティー)」をすぐに買って聴こうとは思いませんでした。
その後、'85年の末か'86年の初めの頃、手に入れたばかりのCDプレイヤーで聴くためのCDを店で物色していたところ、「Synchronicity」が目にとまりました。
1曲目は「SynchronicityⅠ」です。シンセサイザーもしくはオルガンによる分厚いシークエンスが、いきなりもの凄いスピード感で飛び込んできます。シンバルの音に先導され、スネアとバスドラも激しく打ち始めます。特にスネアの音は強烈です。リズムは2拍×3=6拍子と変則的ですが、これはまごうことなきロック・ビートです。このイントロには思わず度肝を抜かれました。
さらに、跳ねるようなメロディーラインを唄うのは Sting です。彼の声は「塩カラ声」ともいわれますが、それでも高音の抜けはよく、特徴的で味わいに溢れたボーカルとなっています。
2曲目は「Walking In Your Footsteps」です。アフリカ系のパーカッションと、打ち込みと思われるシークエンスが、音の基本的構成となっています。そこにノイジーなギターやエスニックな笛によるフレーズの断片が散りばめられます。一方で、ベースやドラムの音はほとんど聴こえて来ないといっていいでしょう。
この曲では、歌詞もサウンドと同様独特です。サビは「Walking in Your Footsteps(お前の足跡をたどっている)」の繰り返しとなっていますが、この「お前」は「Mr. Dinosaur」を指しています。つまり「ミスター・恐竜」です。繁栄を極めたあと絶滅した恐竜に絡めて、人類の将来を暗示するといった内容のようです。
ちなみに、このアルバムのタイトル「Synchronicity」は、スイスの心理学者ユングの唱えた「意味のある偶然の一致」との概念から来ているとのこと。1曲目「SynchronicityⅠ」の歌詞も、この概念に関わるやや変わったものになっています。
以上、1曲目と2曲目のサウンドは、僕の感覚では「ニューウェーブ+ロック」といった感じです。そのうち「Walking in Your Footsteps」は、アフリカ音楽的でもあります。当時、僕が好んで聴いていた音楽のスタイルに近いものでした。
また、両作品とも、ロックやポップスではあまり見られないような、哲学的ともアカデミックともいえる歌詞が乗せられており、僕はそこにも新鮮な魅力を感じました。
というわけで、僕は当初、このアルバムの気に入った1、2曲目と、冒頭にふれた7曲目「Every Breath You Take」ばかりを繰り返し何度も聴いていました。
しかしながら、そのうち様子は変わってきました。エキセントリックな4曲目「Mother」、エスニックな5曲目「Miss Gradenko」、ストレートなロックとなる6曲目「Synchronicity Ⅱ」、ロックとレゲエを融合させた9曲目「Wrapped Around Your Finger」――と、多様で魅力的な他の曲にも次第に惹かれるようになりました。
そののち、全曲を通しで1日に何度も聴くようになるまで、さほど時間はかかりませんでした。
The Police / Synchronicity(1983年)
1:Synchronicity Ⅰ
2:Walking In Your Footsteps
3:O My God
4:Mother(Andy Summers)
5:Miss Gradenko(Stewart Copeland)
6:Synchronicity Ⅱ
7:Every Breath You Take(邦題:見つめていたい)
8:King Of Pain
9:Wrappped Around Your Finger
10:Tea In The Sahara(邦題:サハラ砂漠でお茶を)
11:Murder By Numbers(Sting / Andy Summers)
LPとCD、配信があります。なお、11曲目「Murder By Numbers」は、LPと初期のCDには収録されていません。従って、僕が最初に聴いたCD('85年か'86年に購入)でも、この曲は未収録でした。2003年以降に発売されたCDには入っているようです。LPでは1~6がA面、7~10がB面に収録されています。
4、5、11の各曲名のあとの()に書かれているのは、作詞・作曲者名です。その他の曲はいずれも、ベースとリードボーカルの Sting による作詞・作曲です。