TOKiMONSTA(トキモンスタ、本名 Jennifer Lee / ジェニファー・リー)の1stアルバム「MIDNIGHT MENU」を購入したきっかけは、CDショップのポップでした。
「コリア系アメリカ人で、宅録女子」と、ありました。このプロフィールにまずは興味をひかれました。
次に、ジャケットのデザインです。ひとりの女の子(?)が、両膝の間に皿を抱えています。皿には白いウサギが乗っています。女の子の顔は隠されていて見えません。そこに、数字や小さな〇、△が散りばめられています。何やら暗号めいていて魅力的です。なお、韓国語でウサギのことを「トッキ」(=トキモンスタのトキ)というそうです。
そんなわけで、要はジャケ買い、ポップ買いをしたかたちです。ちなみにこの時はCDを購入しましたが、半年後くらいに、遅れて出たLPも買いました。
ところで、上記ポップの記載によれば、彼女は「LAビート」のアーティストとのこと。さらに、LAビートの中心的人物である Flying Lotus のレーベル Brainfeeder から、次回作をリリースする予定(当時)とのこと。
その頃、僕は、Flying Lotus をはじめ、LAビート(またビート・シーン、LAビート・シーン)をよく聴いていました。アーティストや作品ごとに、ジャズ的であったり、BGM的だったりする、その多彩なサウンドに魅了されていた時期でもありました。なお、この翌年(2011)、TOKiMONSTA は、実際に「Creature Dreams」を上記 Brainfeeder レーベルから出しています。
さっそく「MIDNIGHT MENU」を聴いてみました。
1曲目「GAMBLE」は、シンセサイザーによる抒情的な単音のメロディーで始まります。程よいエフェクトとノイズによって、柔らかでくすんだ、懐かしさすら感じる音色が醸し出されています。
そこに、ゆったりとしたドラムとパーカッションが重なります。ヒップ・ホップ的な力強いビートですが、メロディーと同じような音処理がされているので、激しさや硬さは感じられません。
さらには、リズムとメロディーが一体化した感覚も特徴的です。心なしか、メロディーとビートの同期に微妙なズレも感じられるのですが、それがかえって曲に一体感を与え、生き生きとしつつも自然な印象を生んでいるようです。なお、1曲目のこのような特徴は、アルバム全ての曲に通底しています。
2曲目「SWEET DAY」では、トランペットのサンプリングが使われています。しかしながら、トランペット特有の鋭く突き抜けるような音は消され、柔らかな音色が楽しめるものになっています。
3曲目「SAM MO JUNG(思母亭)」では、琴のような音、鳥の声のようなループなど、さまざまな音が、祭囃子のような、トライバルなリズムに乗っています。東アジア的なテイストが醸し出されています。
7曲目(LPではA面6曲目)「LUCID WAKING」には、サムルノリ(韓国の伝統的な農楽で使用される4種の打楽器によるアンサンブル)と思われるサンプリングが入ります。ここでも、サムルノリ特有の脳天に響くような響きは柔らげられ、ほかの音の中に溶け込んでいるといったかたちです。
8曲目(LPのB1)「SOLITARY JOY」には、女性ボーカルが入ります。アンニュイな雰囲気のミニマルなメロディの歌が、柔らかなサウンドに控え目に重ねられています。
以上、それぞれの曲いずれでも、サンプリングや打ち込み、シンセサイザーの手弾きによるさまざまなリズムやメロディー、ビート、音色が重なっています。しかし、それらはバラバラな様子でもなく、ぶつかり合うこともありません。まるで一個の生き物のようにひとつになり、躍動している印象です。
そのうえで、このアルバムの曲は、1曲ごとに明確な個性も備えています。なので、通しで聴いていても飽きることがありません。購入した当時は、何度も何度も、続けて再生を繰り返したものです。
ちなみに TOKiMONSTA は、2015年に難病を患い、音楽活動の中断を余儀なくされました。その後克服し、いまでは押しも押されもせぬLAビートの中心人物として活躍しています。
TOKiMONSTA / MIDNIGHT MENU(2010年)
1:GAMBLE
2:SWEET DAY
3:SA MO JUNG(思母亭)
4:DEATH BY DISCO
5:LOOK-A-LIKE
6:CHEESE SMOOTHIE
7:LUCID WAKING
8:SOLITARY JOY(FT.SHUANISE)
9:SIMPLE REMINDER
10:QUESTING
11:MADNESS
12:BREADY SOUL
13:LOVELY SOUL
14:SOLITARY JOY(FT.SHUANISE)RLP&SAUCE81 REMIX
CDとLPがあります。LPには4、9、14が入っていません。1、2、3、5、6、7がA面、8、10、11、12、13がB面に収録されています。