立花ハジメの3rdアルバム「MR.TECHIE & MISS KIPPLE」は、僕が「サンプリング元年」であると、個人的に思っている1984年の作品です。
この年、Trevor Horn は、自身のユニット ART OF NOISE で、サンプリング主体のアルバム「(WHO'S AFRAID OF?)THE ART OF NOISE!」を発表しています。
さらに、Herbie Hancock は、サンプリング・シンセサイザー「Fairlight CMI」を駆使したアルバム「SOUND SYSTEM」をヒットさせました。
立花ハジメによる「MR.TECHIE & MISS KIPPLE」も、その”元年”を代表する、サンプリングを大胆に導入した作品です。
サンプリングされている音に、特徴があります。工場や工作機械、重金属といった辺りをイメージさせるものが目立つのです。いまの音楽用語でいえば、「インダストリアル系」ということになるのでしょうか?
なので、これを最初に聴いた時は驚きました。そして、何度も繰り返し聴いているうちに、やがてクセになりました。
「MR.TECHIE & MISS KIPPLE」では、立花ハジメにとっての大幅なサウンド・チェンジが行われました。この変化は、僕には合っていたようです。
彼は、'82年に1stアルバム「H」、翌'83年に「Hm(エイチ・マイナー)」を発表しています。この2つは、自身のサックスを含むサクソフォン・アンサンブルが前面に出た、アコーティック楽器が主体の作品でした。
ただし、サックス中心のインストといっても、ジャズ的なところはまったくありません。実験的なロックといった印象を受けるサウンドでしたが、これは、当時の僕にとってはやや取っつきにくいものだったのです。(現在は親しんでいます)
そこで、「MR.TECHIE & MISS KIPPLE」です。
1曲目「REPLICANT J.B.」から、サンプリング、インダストリアル系、2つの特徴が表れます。
シンプルに反復するドラムと、J.B.=James Brown の曲から採ったブラス・パターンのリフ(サンプリングのように聴こえますが、生演奏かもしれません)で始まります。
このブラス・リフにシンクロするように、James Brown の特徴的なシャウトのサンプリングが散りばめられます。
背後では、小型のエンジンのような機械音が小さく鳴り続けます。さらに、曲のところどころに、サンプリングによる金属音がアクセント的に配されます。要所で目立つベースの音にも、金属的な響きが感じられます。
2曲目「STEEL NECRO MUSIC」は、機械的に反復されるさまざまな打楽器の音が、ポリリズミックに、静かに、交錯する作品です。
続いて、ノン・ストップで始まる3曲目「THEME FROM BARRICADE」では、金属的な重低音が突き上げるように激しく鳴り響きます。ミニマルに反復する打音のリズムの上に、サクソフォンのリフ、重い扉が閉じるような音、細かく繰り返す機械音、といった構成です。不穏かつ、アバンギャルドなサウンドに仕上がっています。
7曲目(LPではB面2曲目)は、タイトル曲「MR.TECHIE & MISS KIPPLE」です。鉄琴のような音と、ベースのような音のシークエンスが核となっています。
そのうえで、重く低い打音と、鞭を打つような高い打音が機械的に繰り返されます。
そこに、ドスン!と、重い金属音がアクセントを加えます。中盤では、高音の金属的なシンセ音が、耳障りなくらいに鳴り響きます。
8曲目(B3)「STEEL NECRO MUSIC Ⅱ」は、さらに不気味さすら感じる曲です。シンプルな金属音が工作機械のように繰り返される四つ打ちのリズムに、奇妙に歪んだ子どもの泣き声のようなループが、延々と重ねられるといった内容です。
以上、挙げた4曲は、ポップさも感じられるものの、基本、アバンギャルドでヘビーな曲です。ですが、これらとはまた違うイメージの曲も、このアルバムには収録されています。
4曲目「MA TICARICA」は、シンプルなテクノ・ポップです。9曲目(B4)「ROCK」は、少しとぼけて、パンキッシュなロックになっています。
5曲目「LUNCHTIME DAPANPIS」は、柔らかいオルガンのようなシンセ音が中心の軽快な曲です。
6曲目(B1)「THERE'S NO DISAPPOINTMENT IN JESUS」も、同じく明るいシンセ音やアコーステック音に、テープ操作によって低く変調されたボーカルを重ねた、伸びやかな印象の1曲です。
ただし、これらソフトで明るい曲にも、どこか普通とは違ったエキセントリックな面が、やはり感じられます。
さらに、10曲目、オリジナルLPの最後「DAPANPIs」は、奇妙なフレーズを繰り返すシンセに、テープ操作でピッチを変えたピアノを重ねた作品となっています。
立花ハジメ / MR.TECHIE & MISS KIPPLE(1984年)
1:REPLICANT J.B.
2:STEEL NECRO MUSIC
3:THEME FROM BARRICADE
4:MA TICARICA
5:LUNCHTIME DAPANPIS
6:THERE'S NO DISAPPOINTMENT IN JESUS
7:MR.TECHIE & MISS KIPPLE
8:STEEL NECRO MUSIC Ⅱ
9:ROCK
10:DAPANPIs
(ボーナス・トラック)
11:THEME FROM BARRICADE(ANOTHER VERSION)
12:REPLICANT J.B.(TRA VERSION)
13:REPLICANT J.B.(TRA VERSION type B)
14:REPLICANT J.B.(REMIX VERSION)
15:REPLICANT J.B.(REMIX EDIT VERSION)
16:ROCK(NEW RECORDING)
オリジナルLPでは、1~5がA面、6~10がB面です。11~16は、2005年に再発売されたCDや配信に収録されているボーナストラックです。このうち14、15は、'85年に発売された12inchシングル・レコード「REPLICANT J.B. Remix Version」にも収録されています。