João Bosco(ジョアン・ボスコ) の「GAGABIRÔ」(邦題:タフタのドレス)は、1曲目の「BATE UM BALAIO ou Rockson do Pandeiro」(邦題:バライオのリズム)から、圧倒されるアルバムです。
アコースティック・ギターのテクニカルで素早いコード弾きに続き、掛け声のようなボーカルが始まります。
エーィ、エーエーィ、といった叩きつけるような声に続いて、短いフレーズの歌詞が繰り返し唄われます。同じメロディーかと思うと高音にジャンプしたり、目まぐるしい展開です。途中からキーボード(オルガン?)も加わりますが、同じようにリズミックです。
ベース、ドラムなどのリズム楽器は使われず、エレキ・ギターのカッティングもありません。にもかかわらず、強烈なドライブ感があり、ファンキーと形容したいくらいです。
それまでに聴いていた、ほかのどの音楽とも違う、乾いた熱風が吹きまくるような独特な曲調に、とても驚かされました。
2曲目「PAPEL MARCHÉ」(紙細工)では、曲調が一転します。爽やかな空気が漂うサウンドです。
ギターとキーボードに加え、ベース、ドラム、パーカッションも加わった、ごく普通のバンド編成です。音数が少ないせいか、広がりを感じます。ボーカルも、ファルセットの入る伸びやかな声です。それでも、終盤に加わる掛け声のような歌唱は、1曲目と共通するテイストです。
3曲目「PRETA-PORTER DE TAFETÁ」(タフタのドレス=日本盤のアルバムタイトル)は、快速のボサノバといった曲調です。
ギターとパーカッションのみの編成で、ボーカルは口元で軽く跳ねるような発声、パーカッシブな感じがします。
ここまで聴いて、このアルバムでは、何よりもボーカルの魅力に惹きつけられました。それぞれの曲調によって、微妙にテイストが異なります。メロディーだけでなく、曲のリズムをも、ボーカルが牽引しているような印象です。
また、多くの曲で、擬声語とも擬態語とも、スキャットともつかない、不思議な掛け声のような発声が加わります。
5曲目「GAGABIRÔ」(ガガビロ、原盤のアルバムタイトル)は、こうした魅力的なボーカルから始まります。断片的な歌詞があるようですが、ほとんどが掛け声のように聴こえます。(日本盤の解説では、1曲目とこの5曲目については歌詞の記載がありません)
途中から、ギターのアルペジオが。終盤には、ベースとパーカッションが加わります。同じパターンが繰り返される展開が、催眠風、幻想的に響いてきます。
なお、このアルバムでは、ボーカルだけでなく、バックのサウンドも独特です。編成が少人数である上に、音数も少ないため、そぎ落とされたような感じです。
にもかかわらず、広がりがあります。曲ごとに異なるカラフルなサウンドが展開します。
かといって、難解ではありません。先鋭的でもありません。のんびりとBGM的に聴くこともできますし、さらに、何度聴いても飽きない深みもある作品です。
後半(LPではB面)でも、このようなサウンドや独特なボーカルが続きます。
7曲目(B2)「TAMBORES」(タンボリス)では、ギターとベースのバックの上で、さきほどの「掛け声」的ボーカルが飛び跳ねます。
9曲目(B4)「SENHORAS DO AMAZONAS」(アマゾンの御婦人達)は、ギターとストリングスがバックの、物悲しく抒情的な曲となっています。歌詞の邦訳を読むと、アマゾン川に関するメッセージ色の強い内容のようです。
6曲目(B1)「JEITINHO BRASILEIRO」(ブラジル風の楽しみ方)、8曲目(B3)「RETORNO DE JEDAI」(ジェダイの帰還)、10曲目(B5)「DOIS MIL E ÍNDIO」(2000年のインディオ)は、いずれもサンバ的な曲ですが、それぞれ楽器編成もサウンドも異なり、個性的です。
以上のとおり、このアルバムでは、曲ごとに楽器編成が異なっていますが、すべての曲にアコースティック・ギターが入ります。ボーカルとギターが、作品の核をかたちづくっているようです。
このアルバムを買った当時の雑誌記事には、「João Bosco はギターだけを持って、ひとりで世界中をライブで巡っている」と、書かれていました。「ギターを持った渡り鳥」的なカッコよさを感じたことを憶えています。
JOÃO BOSCO / GAGABIRÔ(邦題:タフタのドレス)(1984年)
A1:BATE UM BALAIO ou Rockson do Pandeiro(バライオのリズム)
A2:PAPEL MARCHÉ(紙細工)
A3:PRETA-PORTER DE TAFETÁ(タフタのドレス)
A4:IMÃ DOS AIS(哀しみの磁力)
A5:GAGABIRÔ(ガガビロ)
B1:JEITINHO BRASILEIRO(ブラジル風の楽しみ方)
B2:TAMBORES(タンボリス)
B3:RETORNO DE JEDAI(ジェダイの帰還)
B4:SENHORAS DO AMAZONAS(アマゾンの御婦人達)
B5:DOIS MIL E ÍNDIO(2000年のインディオ)
CDとLPがありますが、1990年を最後に再発売はされていないようです。Spotify、Apple、Amasonなどの配信、スクリーミングがあります。