「とにかく暗い…」
それが、BURIAL(ブリアル)(William Bevan:ウィリアム・ビヴァン)の「Street Halo / Kindred」を聴いた第一印象です。
まず、目立つのは、意図的に加えられた、チリチリ、パチパチと鳴るノイズです。聴き込んだレコードが発する静電気の音です。
これは、'80年代からヒップ・ホップなどのクラブ系トラックで導入されている手法ですが、これほど全面的に使われているアルバムは初めてでした。
シンセなどと同様、アクセントや装飾ではなく、サウンドの重要な要素になっています。ザラザラとした質感と暗さを演出しています。
それだけではありません。すべての曲にサンプリング・ボーカルが入りますが、ピッチが変えられたり、エフェクトがかけられたりすることで、霧がかかったような不鮮明な響きになっています。不自然で、不気味な感じもします。
ボーカル同様に、低く立ち込めたようなシンセの音も入ります。スネア・ドラムの抜けのよい音、といったものは無く、バス・ドラムやシンバルも明瞭ではありません。
要するに、クリアな音がひとつもないのです。それでも、魅力的なサウンドです。僕にとっては病みつきになるアルバムです。
Burial は、ダブ・ステップのアーティストとして扱われています。ダブ・ステップは、レゲエから派生した音楽スタイルです。ですが、僕の印象では、このアルバムからレゲエ的サウンドを感じることはありません。それよりも、テクノ系の音楽に聴こえます。
どの曲にも、不鮮明ながらシンプルで骨太な「4つ打ち」のテクノ的ビートが存在しています。すべての曲に暗さが通底するにも関わらず、ダンス・フロアでほかのクラブ・トラックと一緒にかかったとしても、違和感がなさそうです。
最初の「Street Halo」から、そうした特徴的なサウンドが前面に出てきます。
冒頭から、チリチリ・ノイズと霧の立ち込めるようなシンセ、重く不鮮明なバス・ドラムという展開です。4つ打ちのビートにシンクロして、音数の少ない、唸るような低音も重なりますが、ベース・ラインといえるような明確な音ではありません。
さらに、小さく断続的に女性ボーカルが加わります。同じメロディーを繰り返しながら、少しずつ変化していきます。
2曲目「NYC」、3曲目「Stolen Dog」は、「Street Halo」よりもゆったりしたテンポです。そのせいか、ボーカルやメロディーがより目立つように感じられます。
なお、このアルバム(CD)は、「Street Halo」および「Kindred」、2枚の別個のEPレコードの中身を1枚にまとめたものです。
ここまでに紹介した1~3曲目は、そのうちの「Street Halo」の収録曲です。3曲で約21分=1曲約7分です。
次いで、4曲目からは「Kindred」の収録曲が始まります。こちらは3曲で約31分です。3曲目までよりもさらにクラブ・トラック的です。
4曲目「Kindred」では、BPM140くらいの速いテンポで、細かく鳴るパーカッションが入ります。ですが、突き上げるような感覚や、せかされるような感じはありません。バス・ドラムが不鮮明でキックが弱く、ベース・ラインと呼べる音も無いせいでしょうか。
同じメロディの繰り返しによるミニマル的展開が続きますが、途中に長めのリズム・ブレイクが入ったり、チリチリ・ノイズを含むさまざまな音があったり、少しづつ曲の表情が変わります。そのため、11分を超える長い作品ですが、飽きさせません。
5曲目「Loner」、6曲目「Ashtray Wasp」では、シンセのシークエンスが挿入される箇所もあり、さらにクラブ・トラック的です。それでも、チリチリ・ノイズ、不鮮明な音、暗さといったこのアルバムの特徴は、やはり変わりません。
以上、歌もメロディも不鮮明、短調で暗く、デカダンスな響きすら醸し出すこのアルバムです。
それでも、なぜか心穏やかにさせられる抒情性も感じます。聴いていて、不安な気分になるようなことはありません。
むしろ、気持ちがほっとさせられるようなところもあり、「アンビエント」あるいは「チル・アウト」だといっても、間違いではない印象です。
アーティスト名「burial」を辞書でひくと、「埋葬、土葬」とあります。サウンドに相応しい名前です。
ただし、BURIAL 自身の言葉によれば、「本当は別の名前でデモ・テープを送ったけれど、レーベルのボスが『Burial』と読み間違えた」「言葉のダークな意味なども考えて、それでいいんじゃないかという感じだった」とのことです。(CD解説書より)
BURIAL / Street Halo / Kindred(2012)
1:Street Halo
2:NYC
3:Stolen Dog
4:Kindred
5:Loner
6:Ashtray Wasp
以下は、当アルバムに収録された2つのEPレコードの構成です。
burial / street halo(2011)
a:street halo
b1:nyc
b2:stolen dog
burial / kindred(2012)
a:kindred
b1:loner
b2:ashtray wasp
なお、僕はこの2枚を相当の時間をかけて、数年前に中古で揃えましたが、現在購入するのはさらに困難なようです。