僕がテクノを聴き始めたのは1996年のこと。情報を得るため、クラブ系の雑誌などをよく読んでいました。
そこで、Steve Reich(スティーヴ・ライヒ)の名前を頻繁に目にしました。テクノを初めとしたクラブ系のアーティストの多くが、彼の影響をつよく受けているというのです。
たしかに、記憶を辿ると、YMOの「体操」や、細野晴臣のアルバム「PHILHARMONY」にも、「ライヒ的」だとか、「ライヒの影響がつよい」といった論評がありました。
「体操」では、ベースとなる四つ打ちのリズムの上で、ピアノのラインのひとつが3拍子のフレーズを延々と繰り返します。ライヒ的です。
「PHILHARMONY」の中の「LUMINESCENT/HOTARU」でも、複数の異なった拍子のフレーズの重なりが見られます。これもライヒ的です。
そして、これらの曲に、僕はかつて不思議な陶酔を感じてもいました。
なお、Steve Reich 自身は、ロックやポップスの人ではなく、クラブ系でもなく、1936年生まれのクラシック系の現代音楽家とのこと。
「多分、難しい音楽をつくる人なんだろう」との先入観もあり、興味は持ったものの、そのときはわざわざライヒを聴いてみようとは思いませんでした。
その後しばらくしてから、「Reich Remixed」(邦題 ライヒ:リミックス)というアルバムが発売されることを知りました。文字どおり、Steve Reich の作品をクラブ系のアーティストがリミックスしたオムニバス・アルバムです。
Coldcut、DJ Spooky、Ken Ishii など、当時よく聴いていた名前がリミクサーとして並んでいます。そこで、「だったら試しに…」といった感じで手に取ったのですが、冒頭からすんなりと引き込まれました。
1曲目は「Music for 18 Musicians」。Coldcut のリミックスです。
さまざまな楽器による、ごく短いフレーズの繰り返しで始まる曲です。各楽器の音のタイミングが違うためか、それらが微妙にズレながら重なっていきます。例えるならば、湖畔に寄せるさざ波のようなイメージです。ちなみにこの部分、原曲に何も加えずにサンプリングされているようです。
次いでそのあと、Coldcut によるシンセのフレーズや、打ち込みのドラム、パーカッションが重なりますが、これらも、原曲にまったく違和感なくマッチしています。
Steve Reich は、同じパターンを執拗に繰り返す音楽、すなわちミニマル・ミュージックの先駆者といわれています。また、同じ音声を録音した複数のテープを同時に鳴らすなどして、故意に「同期ズレ」を生み出す手法でも有名です。
そのため、これらを採用した彼の音楽は、クラブ系音楽の元祖といえるものになっています。数多くのクラブ系アーティストから、ライヒはリスペクトされています。
ちなみに、そういった話は、僕の頭には先に知識として入っていました。そのうえで、この「Music for 18 Musicians」を聴き、「こういうことだったか」と、初めて実感したものです。
2曲目「Eight Lines」や、3曲目「Four Sections」は、なるほどこれは現代音楽だ、といった感じですが、リミクサーの加えた音や編集のためか、難解なところはありません。
5曲目の「Drumming」に至っては、現代音楽らしい部分をまったく感じさせず、正真正銘のエレクトロ・トラックといった印象を受けました。
9曲目の「Come Out」は、ミニマリズムと「同期ズレ」の効果が発揮された Steve Reich の代表曲です。リミックスは、当時テクノ・ゴッドと呼ばれていた Ken Ishii です。
なお、この曲では「come out to show them~」と、テープの声がひたすら繰り返される原曲に、どんよりとした感じのリズム・トラックが重なっています。不穏で不気味な印象すらありますが、このアルバムの中では、1曲目と並ぶ僕のお気に入りです。
全体を通して、サウンドは「アンビエントでアーティスティックなテクノ」といった感じです。
作品としては、「ちょっと変わったテクノのオムニバス」あたりが、僕のイメージとするところです。
ちなみに、やっと昨年になって、僕は初めて Steve Reich 本人の曲集を聴いてみました。「Come Out」を初めとして「Reich Remixed」に採用された曲のうち半分くらいを聴いたのですが…
やはり、こちらは難解でした。十分に楽しめませんでした。
「Reich Remixed」を聴いている方が、僕には合っているようです。
Reich Reimixed(ライヒ:リミックス)(1999年)
1:Music for 18 Musicians / Coldcut
2:Eight Lines / Howie B
3:For Sections / Andrea Parker
4:Megamix / Tranquility Bass
5:Drumming / Mantronik
6:Proverb / Nobukazu Takemura
7:Piano Phase / D*Note
8:City Life / DJ Spooky that Subliminal Kid
9:Come Out / Ken Ishii
10:The Desert Music / freQ. Nasty & B.L.I.M.
「/」のあとの名前がリミクサーです。CDと2枚組LPがあります。10は、日本盤CDとLPにのみ収録されています。