Moodymann(Kenny Dixon Jr.)の「Silence In The Secret Garden」を初めて聴いた時、それまで経験のないサウンドの雰囲気に、強く惹き付けられました。
1曲目「Entrance 2 the Garden」では、漂うようなイメージの軽やかなドラムが印象的です。そこに、小さく鳴るストリングス・シンセや、クラビネット、ピアノが控え目に配置された静かな曲です。
ノンストップで2曲目「People」に続きます。ワン・ツー、ワン・ツーと、ドラムが軽快なリズムに変わり、明瞭な長調のメロディーで、エレピやサックスのソロが加わります。掛け声のような男声のサンプリングも入ります。
なお、このように書くと、爽快で明るいフュージョンのような印象ですが、実際は違います。どこか奇妙で暗い感じがするのです。
3曲目「Backagainforthefirsttime?」では、さらにそれが際立ちます。背景には鳥の声。ベースとシンセがユニゾンで短いリフを繰り返し、バス・ドラムとシンバルだけのシンプルなドラムがそれを支えます。
この、シンバルの細かく刻むリズムや、鳥の声のサンプリングが、どういうわけか僕をイラ立つような不思議な気分に誘い込みます。
後半は赤ん坊の声のサンプリングが続く展開です。この声も、僕にはホラー映画のサウンドエフェクトのような不気味なものに感じられてしまいます。
4曲目の「LIVEINLA 1998」では、テクノ的なドラム・マシーンの音が前面に出てきます。ドラムとベース、女声のハミングが同じフレーズを繰り返します。3曲目の赤ん坊の声と同じく、不気味な印象です。
また、途中からはアコースティック・ピアノも加わります。ゴスペルのピアノのような、地の底から響いてくるような音色です。
チープなドラム・マシーンの音が主体の5曲目「P.B.C」に続いて、6曲目「Shine」が始まります。
CDの解説を書いている野田務は、この曲について、「思わずビューティフォー!と唸ってしまう。何て美しいディープ・ハウスだろう」と、絶賛しています。僕もまったく同感です。
なお、この曲では、4曲目と同じくピアノが活躍します。リズム・ギターのように一定のリズム・パターンを刻むと同時に、断片的なフレーズのソロを散りばめます。バス・ドラムと多数のパーカッションも折り重なり、男声ボーカルのリフも加わります。一つ一つの音がクリアに際立っているのではなく、それらが織物のように1枚に編み込まれている感じです。
このアルバムは、デトロイト・テクノや、ディープ・ハウスといったジャンルに位置づけられている作品です。
しかし、6曲目までは(レコードでは2枚組の1枚目)、それがしっくり来ません。むしろ、ソウルやアコースティックなジャズに近いテイストを感じます。
一方、続く7曲目以降では、ハウスやテクノにすんなりと収まるような曲が続きます。とはいっても、独特で奇妙な、そして暗いサウンドであることには変わりがありません。
7曲目「Yesterdays Party Watta Bout It」では、後ろにアクセントのあるゆったりとしたドラムが打ち出されます。トライバルで、どこか祭囃子を連想させるようなリズムに、男声ボーカルのサンプリングがシンクロします。背後には、会話のような、ざわめきのような男声も聞こえ、少しユーモラスな印象を受けたりもします。
8曲目「Silence In The Secret Garden」は、ずっしりと重いドラムの曲です。破裂するような低音や、せわしなく高音な打楽器音も加わります。エレクトリック・ファンク、といった曲調です。もっとも、激しさは感じられず、挿入される女声ボーカルやサックス、ピアノは、やはり暗く不気味な印象です。
9曲目「On May Way Home」は、シンバルとバスドラムのシンプルなパターンの上で、断片的なシンセや打楽器音が飛び跳ねる、実験的な感じのする曲です。
最後は、唯一の歌もの「Sweet Yesterday」で、静かに幕を閉じます。
ちなみに、何度もふれていますが、このアルバム全体を通して感じるのは「暗さ」です。ですが、その中にどこかホッとしたり、リラックスする感じを覚えたりもします。
個々の音からは激しさや攻撃性といったものが感じられず、繊細なエフェクト処理のためか、柔らかく、しなやかに耳に響いてくるのが、その理由でしょう。
タイトルどおりの、秘密めいた静寂さが印象的なアルバムです。
Moodymann / Silence In The Secret Garden(2003年)
1:Entrance 2 the Garden
2:People
3:Backagainforthefirsttime?
4:LIVEINLA 1998
5:P.B.C
6:Shine
7:Yesterdays Party Watta Bout It
8:Silence In The Secret Garden
9:On May Way Home
10:Sweet Yesterday
*CDと2枚組のLPがあります。LPでは1,2,3がA面、4,5,6がB面、7,8がC面、9,10がD面です。CDでは曲間がなく、全曲がノンストップです。LPの各面もノンストップです。