Four Tet(Kieran Hebden のソロ・プロジェクト)の「MORNING / EVENING」は、同じパターンを延々と繰り返すタイプの音楽です。
ただし、4拍から8拍くらいの短いパターンを快速で繰り返すミニマル・テクノとはかなり趣が異なっています。
A面「Morning Side」は、1拍ずつ打つドラムの音から静かに始まります。BPMは127です。ゆったりめのテクノといった感じでしょう。
やがて、低くのたうつような音に先導されて、1分過ぎから女声のサンプリングが現れます。
歌は約30秒で完結しますが、これが14回も繰り返されます。この間、ドラムのパターンに変化はありません。
さらに、歌とドラム以外にも、さまざまな音が交錯し、共鳴します。低く立ち込めるような持続音、ストリングスのような音、細切れなサブ・メロディーを奏でる80年代風な電子音、細やかなパーカッションなどです。
加えて、アナログ・レコードのノイズのような音も。僕は、当初レコードを購入し、この曲を聴いたのですが、「ノイズが耳につく」と感じ、CDを買い直しました。すると、こちらにも同じ「ノイズ」が入っていたのです。
レコード特有のノイズを意図的に入れておく手法は80年代からあります。僕も、それには慣れていたつもりだったのに、誤認してしまいました。それくらい、音の入り方が作為的でなく、自然に聴こえたということです。
なお、同じ歌を繰り返すボーカルも、エフェクトをかけたり、少しずらして重ねられたりと、変化がつけられています。
このように、同じパターンを繰り返してはいても単調にしない工夫が、曲中あちらこちらに見られます。聴いていて退屈することがありません。
さらに、歌のメロディーや言葉が民俗音楽的で、どこか懐かしい感じがするのも気になりました。調べてみると、インドの歌手 Lata Mangeshkar の歌のサンプリングでした。ヒンディー語の映画「Souten」のために録音された一部とのこと。
Kieran Hebden の母親は南アフリカ系のインド人です。彼は、おそらく母方の祖父から、インドの宗教音楽や映画音楽のレコードのコレクションを引き継いでいます。この歌も、その中にあったもののようです。
歌は、さきほどもふれたとおり、14回繰り返し、一旦終ります。そのあとは、パーカッションがさまざまなフレーズを躍動的に打ち出すパートとなります。終わると、曲の初めのような静かな調子に戻ります。
すなわち、音楽がリセットされ、新鮮な状態に戻る感じです。そして、再び同じ歌が始まります。
すると今度は、歌は7回繰り返したあと、断片的に切りきざまれ、ドラムの音も徐々に小さくなっていきます。最後には両方とも消え、シンセによる即興演奏のようなフレーズの共演となります。
曲の最後では、名残惜しそうにゆったりと退場していくシンセの音が印象的です。約22分間の長い作品もこれで終わりです。
以上、A面「Morning Side」は、ミニマル・テクノのような明確な「四つ打ち」のバス・ドラムもあり、要はクラブ・トラックといってよいサウンドです。
一方、B面「Evening Side」は、繰り返す展開が目立つのはA面と同じですが、こちらは「アンビエント」の語がよくフィットする、リスニング・ミュージックです。
冒頭、細かく小さな音のパーカッションが、3拍子のリズムを打ち出します。短音で高い音のシンセが、パーカッションと入れ替わるように入り、やがてベース・ラインのような別のシンセも加わります。
ドラムはなく、とてもゆったりとしたテンポです。深いエコーもかかっていて、自然音のような音がアクセント的に現れては消えていきます。まさにアンビエントです。
4分40秒くらいから、ボーカルのサンプリングが入ります。A面と同じ Lata Mangeshkar の歌のようです。同じメロディーの繰り返しです。歌詞はありません。
その後は、徐々に高揚しながらも、同じようなメロディ―が続きます。やがてボーカルが消え、静かになってくると、12分近くのあたりから、途切れ途切れに音が減っていきます。
ただし、「曲が終わるのかな?」と思うと、そうではありません。このあと再び音が増え、ノイズ的なものも加わったかと思うと、13分過ぎからはドラムがフェイド・インしてきます。最後はクラブ・トラック的な展開です。
なるほど、Evening の終わりで夜が明け、ふたたびA面の Morning に続いているのだなと、ここで納得です。
Four Tet(Kieran Hebden)/ MORNING / EVENING(2015年)
A:Morning Side
B:Evening Side
レコードとCDがあり、いずれも2019年10月にリプレス(再発売)されています。