KID CREOLE & THE COCONUTS(キッド・クレオール&ザ・ココナッツ)のアルバム「TROPICAL GANGSTERS」のLPのインナー・ジャケット(CDではブックレット)に、こんな記載があります。
「2月15日。バナナ・ボートはブリンディシ・リーフにて難破。生存者はB・ディリー・ベイで目覚める。彼らはそこに約6ヶ月滞在。さてこれは彼らの身の毛もよだつ試練の語られざる物語――彼らが演奏を強制された音楽、選ぶことを許された相手たち、そして決死の脱出」(翻訳はLP解説執筆者の今野雄二)
KID CREOLE こと August Darnell 自身の手によるこの文章は、「TROPICAL GANGSTERS」のモチーフであり、コンセプトです。B級感の漂う、南洋冒険活劇的な面白さを期待させてくれます。
実際に聴いてみると、サウンドも、メロディーも、歌詞も、想像以上に楽しく爽快なものでした。
1曲目は「Annie, I’m not your daddy」です。きらびやかなシンセとシャカシャカ鳴るパーカッション、ドラムでの幕開けです。スネア・ドラムには、当時のファンクらしいエコーがかけられています。
そこに、ギターとベースが加わり、トロンボーンがメロディーを奏でます。盛り上がったところで KID CREOLE の歌が入ってきます。
THE COCONUTS の女声コーラスに、スティール・ドラムのような音も加わり、トロピカルなイメージが高まります。いかにもファンカラティーナ(ファンク+ラテン)と、いったサウンドです。
シンプルで覚えやすい、音数が少ないメロディーは、リズムに乗るというよりも、リズムを加速させている感じです。
2曲目「I’m a Wonderfull thing, Baby」は、ラテン色の無いファンク・ナンバーです。ずっしりと重いドラムに、ユーモラスな響きのクラリネットなど、管楽器が絡むサウンドです。軽快なボーカル、2つのギター、シンセも加わります。それでも厚ぼったくならない、ゆったりとした辺りが、涼し気な雰囲気を醸し出しています。
同じく、重いファンク・ドラムが主体の3曲目「Imitation」に続き、4曲目は「I'm Corrupt」です。ティンパレスやコンガなどのパーカッションが目立つ、インスト主体のラテン・ナンバーです。
さらに、5曲目「Loving you made a fool out of me」、6曲目「Stool Pigeon」と、ファンク的な作品が続きます。特に「Stool Pigeon」のイントロは、このアルバムの中で僕がもっとも好きな部分です。
クールなカッティング・ギターと、ドラム、タンバリンのリフに続いて、ジャズのビッグバンドのようなブラスが奏でられます。ボーカルは、1分を過ぎたところから入ります。
ちなみに、この曲だけでなく、紹介した1曲目、2曲目などでも、前奏は長めになっています。音楽が十分に盛り上がったあと、いよいよという感じでボーカルが入るかたちです。
7曲目「The Love we have」もそうです。1分間以上の前奏が入ります。多数のパーカッションが加わったファンカラティーナです。伸びやかなストリングス(シンセ?)の上に、明るいメロディーが乗ってきます。繰り返しが多く、リズミックな、憶えやすいメロディーです。
最後の「No fish today」では、ゆったりとしたトロピカルなサウンドが展開します。“I’m sorry ma’am, No fish today” の繰り返しでフェード・アウトする、ユーモアとペーソスに満ちた作品です。
ちなみに、August Darnell は、2つの大学で英語と英文学を学び、博士号も取得しています。約3年の間、英語教師として教壇に立ったこともあるそうです。
そのためか、多くの作品に、ユーモアの効いた詞と耳に心地よい韻が散りばめられています。韻がつくりだすノリが、曲のリズムと効果的にシンクロしています。
「TROPICAL GANGSTERS」は、KID CREOLE & THE COCONUTS の3rdアルバムです。僕は、彼らのアルバムを5、6枚聴いていますが、これが一番好きです。
ファンの間での評価も高いようで、CDが何回か再発売されているほか、昨年(2019)はLPも再リリースされています。
KID CREOLE & THE COCONUTS / TROPICAL GANGSTERS(1982年)
1:Annie, I’m not your daddy
2:I’m a Wonderful thing, Baby
3:Imitation
4:I’m Corrupt
5:Loving you made a fool out of me
6:Stool Pigeon
7:The Love we have
8:No fish today
LPでは上記1~4がA面、5~8がB面です。下記9~14は、2002年に再発売されたCDに、ボーナス・トラックとして収録されているものです。
9:Christmas on riverside drive
10:You had no intention
11:Annie, I’m not your daddy(remix)
12:I’m a Wonderful thing, Baby(original 12inch mix)
13:Stool Pigeon(12inch mix)
14:Double on back
なお、事情はわかりませんが、KID CREOLE & THE COCONUTS の名前で、1~8とまったく同じ曲が同じ曲順で収録されながら、「Wise Guy」と題された、ジャケットも違う作品が存在します。