テクノを初めて聴いたとき、感じたのはテンポの速さでした。
33回転=1分間に33回転半回るレコードが、1周する間に4拍を打つとして、BPMは134です。テクノはこのくらいのテンポが普通です。
120台だと、随分ゆっくりとした曲に感じてしまいます。
一昨年、映画館で、スピルバーグ監督の「レディー・プレイヤー1」を観ていたところ、劇中に Bee Gees のディスコ・クラシック「Stayin’ Alive」が流れていました。
「あれ、こんなに遅かったっけ」と、そのとき感じました。
そこで、帰宅してから Bee Gees のベスト盤をCDプレイヤーにかけてみると、BPMは109でした。
'78年当時のディスコ音楽といえば、このくらいが、遅すぎも速すぎもしない標準的なテンポだったと思われます。
テクノにすっかり慣れた現在の耳で聴いてみて、遅く感じてしまったのも、当然といえそうです。
Machine Drum(マシーンドラム)~Travis Stewart(トラヴィス・スチュアート)のアーティスト・ネーム~ のアルバム「ROOM(S)」では、標準的なテクノよりもさらに速いビートの曲が連続します。
1曲目「She Died There」は、快速で連打されるバス・ドラムと、レコードのノイズ音で始まります。そこに、エフェクトをかけたボイス・サンプルがフェード・インしてきます。カタカタと細かく刻むパーカッションも加わります。
BPMは142です。ですが、数字ほどにセカセカした感じはありません。聴いている方の身体が、2拍分を1拍に感じているからかもしれません。
速い以上に、「She Died There」は、サウンドの新鮮さが印象的な曲です。ただし、発売された2011年当時を振り返っても、特に斬新な手法が用いられていたということでもありません。それでも、どこか未来的です。
BPMに絡めて、紹介を続けます。
2曲目の「Now U Know Tha Deal 4 Real」は145です。続く「Sacred Frequency」では76に下がります。大きな差ですが、後者ではあまり遅さを感じません。
ゆったりとした曲ですが、それよりも、ドラムの力強いビートが印象的です。
そこに、澄んだ音のシンセ、パーカッシブなシークエンス音、ミニマルなメロディーのボーカルが重なります。聴いていて、陶然とした気分にさせられます。
5曲目「Come1」はBPM96です。この曲も、数字上は遅い筈なのですが、実際には急かされるようなスピード感があります。
イントロは1拍ごとに同じ和音を連打するピアノとバスドラム、そこに、パーカッション、ボーカル、James Brown の声と思われるサンプリングも加わります。
リズムの基本が3連符になっていることや、背景に加わる細かいビートのパーカッションが、数字以上の速さを醸し出しているようです。
なお、このアルバムでは、すべての曲にボーカルが入ります。ただし、歌い上げるような様子ではなくミニマルな展開です。
どれも、エフェクトがかけられ、ビートを加速させるように配置されているところが絶妙です。それが、アルバム全体の聴きやすさを生んでいます。
ちなみに、BPMが一番大きい曲は、8曲目の「The Statue」です。160です。
ですが、僕が一番速さを感じるのは、7曲目の「GBYE」です。148です。
「GBYE」では、ベースとなっているドラムパターンの上で、連続性を持たないいくつかのミニマルなパターンが唐突に入れ替わります。この展開こそが、スピード感を生む理由のようです。
と、いうわけで、人間が実際に感じる音楽のテンポやスピード感と、機械的に測定される数字には、結局のところズレがあるようです。
もっとも、「Stayin’ Alive」の遅さは、やはりBPMどおりです。
「ROOM(S)」最後の曲は、「Where Did We Go Wrong?」です。とてもゆったりとした曲です。
僕のCDデッキのカウンターでは、この曲のBPMは測定不能です。バラバラな数値が、頻繁に切り替わりつつ表示される状態です。
全体を覆うノイズの上に、遠くから聴こえてくるようなエコーのかかったボーカルが乗る曲です。締めくくりにふさわしい1曲です。
Machine Drum(Travis Stewart)/ ROOM(S)
1:She Died There
2:Now U Know Tha Deal 4 Real
3:Sacred Frequency
4:U Don’t Survive
5:Come1
6:Youniverse
7:GBYE
8:The Statue
9:Lay Me Down
10:Door(s)
11:Where Did We Go Wrong?
CDとLPがあります。LPは2枚組ですが、収録曲も曲順もCDと同じです。ただし、日本盤CDには、ボーナス・トラックとして12曲目に「TMPL」が入ります。