「しなやかで繊細」「でありながら、力強い歌声」
DJavanの「Luz」を初めて聴いたときの印象です。
アルバムの紹介記事を見たのは、フュージョン系の雑誌「ADLIB」だったと記憶しています。
プロデューサー Ronnie Foster
ドラム Harvey Mason
ベース Abraham Laboriel …
多くのフュージョンプレイヤーが参加していたためでしょう。
さらに、僕にとっての決め手は Stevie Wonder でした。
「ハーモニカで参加している」とのことでした。
早速、「Luz」を購入しました。
「Luz」は、MPBのアルバムです。
MPBとは、Música Popular Brasileira ~ブラジルのポピュラーミュージックのことです。
1983年にこの「Luz」を聴くまで、僕はMPBはまったく聴いたことがありませんでした。
MPBという略称も、当時、日本ではまだ定着していなかったと思います。
ブラジル音楽のイメージと言えば、大抵は僕も含め、サンバかボサノバのどちらかが頭に浮かぶ程度だったように思います。
「Luz」を聴いてみました。
もちろん、サンバでもなく、ボサノバでもありませんでした。
まず、1曲目は「Samurai」です。
アコースティック・ギターとエレピが、ゆったりと、シャッフルするフレーズを奏で始めます。
間もなく、「ア――イ」と、Djavanが唄い出します。
ささやくのとも違う、シャウトするのでもない、伸びやかな声です。短調ですが、暗い印象は受けません。
曲の後半に、Stevie のハーモニカが加わります。それに応じて、Djavanは、スキャットで楽器のような掛け合いを展開します
ドラムは、軽快でありながら、腰が座ったリズムを奏でます。
サウンドは、アドリブ誌で採り上げるのも当然と思えるほど、フュージョン的です。
それでも、ボーカルとメロディー・ラインに関しては、それまでに聴いた音楽とはやはり違う、独特なものに感じられました。
なお、僕が思うに、こうした印象の一因として、歌詞がポルトガル語であることを挙げてもいいのかもしれません。
'99年発売のCDの解説にはこうあります。
「ポルトガル語はスペイン語とフランス語の中間的な響きを持ち、世界でいちばん官能的で音楽的な言葉」―――。
2曲目はタイトル曲の「Luz」です。
軽快で明るいボサノバ風のイントロから始まります。さらには、フルートと言えばこの人、 Hubert Laws のソロ。ここでも Djavan のスキャット・ソロが入ります。
3曲目、短いバラードの「Nobreza」に続く、4曲目「Capim」では、それまでの伸びやかな歌唱とは一転、早口言葉のように言葉が続く展開となります。
語呂がよく、響きも美しくなるように、言葉を慎重に選んでいるように思えます。
冒頭のブラスを初めとしたオーケストラのサウンドが、魅力的に配置されている点も、この曲の大きな魅力です。
5曲目の「Sina」は、ギターが奏でる変則的なリズムが特徴的な作品です。多数のパーカッションが前面に出て来る、スローなサンバといった印象の曲です。
歌詞は、短いセンテンスの、ほとんど単語といっていいような言葉の羅列になっています。それを細切れにさせることなく、美しく繋げているところに魅せられます。
さらに、この「Sina」の魅力、それはアカペラの男声コーラスです。擬態語的な表現がどこかユーモラスです。
B面では、一転してスローテンポの曲が続きます。メロー過ぎる感じがして、当初あまりこのB面は聴きませんでした。
それでも、8曲目(B3)「Açaí」だけはよく聴いたものです。
これも、ゆったりとしたリズムの曲で、ドラムは、ほとんど聴き取れないくらいの小さなシンバルと、4拍に1拍、バス・ドラムを打つだけです。そのうえで、伸びやかなボーカルとストリングスが響き渡ります。
'86年の初来日ライブの際、聴衆がこの曲を合唱するという「事件」が起こり、 Djavan 本人を感激させたそうです(CD解説書より)。
ちなみに、僕がこのアルバムで、Djavan の唄と曲を除いた部分に感じたさらなる魅力といえば、それは演奏とアレンジの素晴らしさです。
基本的なアレンジは Djavan ですが、ブラスやオーケストラはゲスト・アーティストの手によるものです。Djavan の曲とボーカルに大いに触発されての仕事でしょう。
レコードの帯に、プロデューサー Ronnie Foster の言葉が記されています。
「ジャヴァン(Djavan)と私の感じた愛と幸福は、このレコードだけでは、表現できないほどです」
「彼のもっている愛と情熱は、この仕事に参加した全ての人々を感激させました」
宣伝のみのためでなく、心からの言葉でしょう。
そうしたわけで、僕もこのアルバムに魅了されました。
Djavan の次回作「Lilás」を続けて購入。さらにその後は、Milton Nascimento、João Bosco、Simone など、MPBを次々と聴くことになっていったのです。
Djavan / Luz(1983年・日本盤)
A1:Samurai
A2:Luz
A3:Nobreza
A4:Capim
A5:Sina
B1:Pétala
B2:Banho De Rio
B3:Açaí
B4:Esfinge
B5:Minha Irmã