僕が初めてディスコではなく「クラブ」に足を踏み入れたのは、1998年の夏のことでした。
「Maniac Love」という店です。
東京の南青山にありました。2005年に閉店しています。
僕はその頃、すでに30代後半でした。現在よりもさらに若者の多い場所だったクラブに行く勇気がなかなか持てませんでした。
それでも、ある土曜日、ほぼ同い年の友人を誘い、意を決して突入してみました。
友人は会社の同僚でした。クラブでプレイされるような曲は聴かないものの、とりあえず音楽好きの男でした。
きっかけは、Co-fusion でした。DJ WADA、Heigo Tani によるテクノ・ユニットです。
僕は、この Co-fusion の「torn open」が大好きでした。
トリッキーなドラムパターン、思わず高揚させられるシンセ、エフェクトの効いた音や全体の構成、すべてがめちゃくちゃにカッコいい曲でした。
いまもそう感じます。90年代テクノの中で、僕がもっとも好きな曲といっていいでしょう。
Maniac Love は、その Co-fusion が、当時拠点としていたクラブです。
さらに、僕が意を決してそこに向かった土曜日というのは、Co-fusion の DJ Wada が、Sublime Records 主宰の山崎マナブとともに、メインのDJをつとめるライブ「CYCLE」が行われる日でした。
初めてのクラブでは、初っ端から面食らいました。
住所を頼りに、ビルの前に着いたものの、そこには看板も何もありません。
地下へと続く階段をおそるおそる下った先の扉を開くと、そこが Maniac Love でした。
しかも、クラブを知らないわれわれの訪問は時間が早過ぎました。中では、まだ開店準備が真っ最中でした。
そこで、一旦出直しと決め、時間を潰してから再訪問。夜12時から朝の5時頃まで、たっぷりと初めてのクラブを楽しみました。
友人は「先に帰る」と言って途中で消えましたが、僕はとてもそんな気にはなれず、DJ Wada のプレイもしっかりと堪能しました。
フロアを見下ろす回廊から、鮮やかな手つきでターンテーブルやミキサーを操る様子を眺めながら、
「これがDJのプレイか。まるで楽器を演奏するようだな」
と、感心したことをよく覚えています。
さて、そんな一夜を少し過ぎた1998年の9月にリリースされたのが、Co-fusion のファーストアルバム「Co-fu」です。さきほど触れた「torn open」も収録されています。
ほかにも、
地を這うベース・ラインとサックスが強い印象を残す1曲目
「strutin’」
ミュート・トランペットと人の声がリズミカルに響き合う3曲目
「you looking for」
ノイジーなシンセとワイルドなドラムが暴れまくる4曲目
「cycle」
曲の終盤でギターが華やかに奏でられる8曲目
「jungler gray」
torn open に劣らずクールな曲が揃っています。
いずれも、さまざまなレコードからのサンプリングと打ち込みによる、ブレイク・ビーツと呼ばれるスタイルです。
どの曲も、ドラムのパターンは、ミニマル・テクノのようなシンプルな四つ打ちではなく、torn open と同様に複雑でトリッキー、しかもノリのよいリズムです。
まさに、DJ Wada のプレイが醸し出すとおりの、ダンサブルなビートでまとまったアルバムです。
ところで、上記の Maniac Love 訪問以来、僕はたびたびクラブに出かけるようになりました。40歳くらいまでそれが続きました。
周りに付き合ってくれる人はほとんどいませんでしたが、当時ハマったひとりでの夜遊びは、いまもいい思い出です。
そのきっかけとなった Co-fusion ですが、その後、一旦活動を停止したものの、昨年(2019)10月から再開、配信で曲を提供しているとのニュースを知りました。
レコード・CDオンリーの僕も、これを期にいよいよ音楽配信を試してみようと思っています。
Co-fusion は、またまた僕に新しいきっかけをつくってくれたようです。
Co-fusion / Co-fu(1998年)
01:strutin’
02:zit’r bug
03:you looking for
04:cycle
05:dizzy
06:a.t.p
07:early summer daze
08:jungler gray
09:wilbee wilbee
10:five forty
11:torn open
「torn open」は、1997年発売のコンピレーション・アルバム「Sublime the Adolescence」に収録されているほか、4曲収録の12inchレコード「Co-fusion / 180 EP」にも収録されています。