Dollar Brand(Abdullah Ibrahim)の「African Piano」は、ピアノ演奏のみによる作品です。
コペンハーゲンの「Jazz-hus Montmatre」でのライブを録音したものです。さほど広くないライブハウスのようです。冒頭、人々のざわめきなども聞こえてきます。
1曲目「Bra Joe from Kilimanjaro」は、明るくはっきりとしたメロディーの曲です。タッチが強く、激しく鍵盤を叩きつけるようなところは、フリー・ジャズのようです。
最初は、左手が、ベース・ラインのような一定のラインを弾きはじめます。5拍子です。いわゆる変拍子ですが、とてもリズミカルに体を揺らされる感じがします。
そこに、右手によるメロディーが重なります。
あるときは左手のリズムに乗り、また、あるところでは関係なく、自由自在、即興的に曲が流れていきます。
次いで、演奏が途切れることなく、2曲目「Selby That The Eternal Spirit is The Only Reality」が始まります。ここで左手のパターンが変わります。3曲目「The Moon」につながります。
「The Moon」のあとは、つなぎ的な短い曲「Xaba」がフェード・アウトして、A面は終了です。B面は、1曲目「Sunset in Blue」のフェード・インから始まります。
以上の2曲目から5曲目(B面1曲目)までは、曲ごとにひとつのリズム・パターンに乗るかたちです。左手は、単音のベース・ラインや、和音による一定のパターンを躍動的に打ち出し続けます。
さらに、右手も、決まったメロディー・パターンを繰り返す展開となります。若干変化をつけながらではあるものの、1曲目で見られた即興的なラインは、ここでは影をひそめます。
音がよく反響し、聴いていると高揚してきます。外出中でも、イヤホンの音に乗せられ、ついメロディーを口ずさんでしまいます。
「Sunset in Blue」の最後では、テンポが少しずつ遅くなっていきます。
続く6曲目(B面2曲目)「Kippy」は、ゆったりとしたリズムに乗る曲です。タッチの強さこそ変わらないものの、メロディーはリリカルで、同じフレーズを弾くことがない展開です。
7曲目(B面3曲目)「Jabulani - Easter Joy」では、飛び跳ねるように両手で同時に和音をたたくフレーズが印象的です。そのあとは、フリージャズ的に、パターンも定型リズムもない展開となります。
最後の「Tintiyana」では、再び同じメロディーの連続に戻ります。合間にさまざまな即興的なフレーズが繰りこまれる内容のまま、華やかに終わります。
A面、B面それぞれ、間を置かず曲が続きます。A面はライブの始まりの部分、B面は終盤部分と思われます。
このアルバムを聴く以前にも、僕はほかのアーティストのピアノ・ソロ作品を何枚か聴いていました。
たとえば、Thelonious Monk の「Thelonious Himself」は、いまもよく聴いています。Dollar Brand に影響を与えたといわれる作品です。強いタッチで、静けさも感じさせながら、じんわりと効いてくるようなサウンドが持ち味です。
ただし、「Thelonious Himself」には、なにか強い緊張感のようなものも感じられ、長い時間音に身を浸してはいられません。実際、LPの両面を続けて聴くことがほとんどありません。
なお、僕にとってそれは、Herbie Hancock や Keith Jarret のソロ作品でもいえることです。
アーティストと、ピアノをはさんで一対一で対面し、曲を聴いているような気分になり、気疲れしてしまうのかもしれません。
ですが、それらに比べ、「African Piano」の場合、なぜかこの緊張感が感じられません。一旦レコードに針を落とせば、そのまま両面40分を一気に聴いてしまうばかりか、続けて2度、3度と、それを繰り返すこともたびたびです。
とにかく、数えきれないくらいの愛聴版ということで、ジャケットもあちこち色が剥がれてしまっています。(上の写真でご覧いただくとおりです。たくさんの白い点部分です)
ところで、Dollar Brand(ダラー・ブランド)は、南アフリカ共和国生まれのピアニストですが、1968年にイスラム教に改宗しました。その際、Abdullah Ibrahim (アブドゥーラ・イブラヒム)と改名しています。
そのため、近年再発売されているCDやLPでは、Dollar Brand ではなく、Abdullah Ibrahim の表示がされています。ただし、ショッピング・サイトなどでは、どちらの名前で検索しても彼の作品が出てきます。
ちなみに、「African Piano」の日本での発売は1973年でした。僕が購入したのは80年代になってからです。ですが、ジャケットにはまだ Dollar Brand と書かれています。
Dollar Brand(Abdullah Ibrahim)/ African Piano
(1969年10月22日 Jazz-hus Montmatre でのライブ録音)
A1:Bra Joe from Kilimanjaro
A2:Selby That The Eternal Spirit is The Only Reality
A3:The Moon
A4:Xaba
B1:Sunset in Blue
B2:Kippy
B3:Jabulani - Easter Joy
B4:Tintiyana
*A面B面がないCDでは「Xaba」と「Sunset in Blue」の間にも切れ目がありません。すべての曲がひと続きです。