1993年のある日のこと。CDショップの店内を歩いていると、1枚のアルバムのジャケットが、不意に目に飛び込んできました。
「BOSSA NOVA 2001」です。
PIZZICATO FIVE(ピチカート・ファイヴ~'87までは「PIZZICATO V」)の作品です。
当時、化粧品メーカーの夏のイメージ・ソングに、彼らの曲が採用されていました。
思わず興味が湧き、レジに持ち込んでみました。
1曲目、タイトルは「ロックン・ロール」です。現代(当時)版ボサ・ノヴァという感じの曲です。
ラジオから流れてきそうな男声の英語アナウンスと、ファンファーレのサンプリングに続いて、曲が始まります。明るく軽快なメロディに、恋人と暮らしていたアパートを飛び出していく女性を唄った歌詞が乗せられています。
ちなみに、アルバムタイトルの「BOSSA NOVA 2001」は、この曲に付いていた方が、僕としてはフィットする感じです。
2曲目「スウィート・ソウル・レヴュー」が、'93カネボウ化粧品夏のイメージ・ソングだった曲です。先にシングルで発売されていますが、このアルバムにはオープニングとエンディングがやや異なるものが収録されています。
続く3曲目、「マジック・カーペット・ライド」では、タンバリンとインド楽器風のエスニックなサウンドの上に、ゆったりしたメロディが乗っています。後半、プログレ風のストリングス・サウンドが加わります。幻想的な1曲です。
4曲目「我が名はグルーヴィー」と、5曲目「ソフィスティケイテッド・キャッチー」の2曲は、ノンストップでつながっています。快速&Groovy な、クラブ系のサウンドです。購入当初、僕は何度も続けてこの2曲ばかりを聴いていました。
8曲目の「スリーパー」では、Sly & The Familiy Stone のサウンドのような音が、サンプリングされています。60年代後半〜70年代に活躍したファンク・ロックバンドです。これをバックに、Sly~とはイメージの異なる軽快なメロディーが流れる構成となっています。
さらに、11曲目「ゴー・ゴー・ダンサー」にも、James Brown のヴォーカルを変調させたと思われる音や、Quincy Jones の曲から拾ったブラスの音が入っています。
ちなみに、この曲には、
「これは恋ではなくって、ただの遊びよベイビー」
「君は彼氏じゃなくって、ただの友達ベイビー」
そんな、僕のような非モテを怒らせそうな歌詞が乗っています。それでも、前述4曲目の「我が名はグルーヴィー」と並んで、僕にとってはこの曲がこのアルバムの中でのTOP1です。
加えて、テクノ風のミニマルな展開、かつエフェクトの効いたリズムが、この「ゴー・ゴー・ダンサー」の魅力です。
14曲目の「ハレルヤ・ハレクリシュナ」も、楽しい曲です。身体が跳ね出すようなリズムに、意味深長な歌詞が乗っています。女性のバレエ教師が発する掛け声(?)のようなサンプリングに続く、フラメンコ的なアコースティック・ギター、パーカッション、ハンド・クラップが特徴的な1曲です。
以上、どの曲も明るく、音の響きが華やかです。スタイルもさまざまです。
また、触れた以外にも、僕が気づいていないだけで、さまざまな曲や音からの引用があるのだろうと思います。
このアルバムを聴いたあと、'91年頃のものまで遡って、次々と PIZZICATO FIVE の作品を聴きました。どれもが魅力的で、楽しいアルバムでした。
なお、すでに2001年に解散してしまった PIZZICATO FIVE ですが、多様な音楽スタイルに加え、映画等のセリフからのサンプリング、それらと歌詞との絶妙なシンクロ、さらには、カバー曲やオマージュといったユーザーへのプレゼンテーションなど、魅力はいまも色褪せません。
僕にとっては、優れたミュージシャンであるとともに、音や言葉を集めて料理をしてくれるシェフのようにも思える存在です。
ところで、僕と PIZZICATO FIVE の作品との間には、実はもっと以前に出会いと別れ(笑)がありました。
最初にアルバムを聴いたのは1987年のことです。
当時、気に入っていた、ノンスタンダード・レーベル(細野晴臣とテイチクによるレーベルです)からレコード・デビュー('85)した有望なバンド、ということから興味を持ち、ファーストアルバム「couples(カップルズ)」を購入したのです。
タイトルどおりのジャケット写真がお洒落でした。カップに刺した2人分の歯ブラシが写っています。サウンドも同様にソフトでお洒落なものでした。音楽雑誌での評価も高かったはずです。
ですが、実際に聴いてみると、「いい音楽だけどあまり引っかかってこないな~」と、いった感じがして、好きになれませんでした。
ところが、上記の「BOSSA NOVA 2001」では、その印象は払拭されました。
CDの入った袋を抱え、家へ帰ったその日、
「couples とはまったく違う…!」と驚きながら、全16曲・60分以上を最後まで一気に聴いた記憶があります。
PIZZICATO FIVE / BOSSA NOVA 2001(1993年)
1:ロックン・ロール
2:スウィート・ソウル・レヴュー
3:マジック・カーペット・ライド
4:我が名はグルーヴィー
5:ソフィスティケイテッド・キャッチー
6:ピース・ミュージック
7:ストロベリィ・スレイライド
8:スリーパー
9:優しい木曜日
10:レイン・ソング
11:ゴー・ゴー・ダンサー
12:皆既日食
13:愛の神話
14:ハレルヤ・ハレクリシュナ
15:プレイバック2001
16:クレオパトラ2001