1980年代、「ワールド・ミュージック」が流行していた頃に、インドのポップ・ミュージック=「バングラ・ビート」というジャンルがありました。
このアルバム、Monsoonの「Third Eye」も、インド系イギリス人二世Sheila Chandraがボーカルで、タブラやシタールなど伝統的なインドの楽器と、インドの音階を使った音楽です。
でも、僕は「バングラ・ビート」でも「ワールド・ミュージック」でもなく、「インド風のニュー・ウェイブ」というべき音楽だと思っています。
アルバムのハイライトは何といっても、B面1曲目(CDは6曲目)「Ever So Lonely」でしょう。
音合わせのように奏ではじめるシタールと、インド音階の単音のアコースティック・ピアノ、Sheila Chandraのボーカルが、静かに入って来るイントロ。そこから、音楽が華やかに展開しはじめます。
タブラを初めとした多種類の打楽器。音処理が施されたスネアドラム。シタールやピアノの鋭い響き。
中盤からは、延々同じパターンが続き、多数の音が織り込まれるダブ的な展開。
タタン・タン・タタンとインド風リズムを繰り返す高音のゴング、ベースラインのように繰り返す、口琴による(?)男声の低音も加わります。そして、ボーカルは「Ever so lonely」というフレーズを繰り返してゆき、フェード・アウトで終わります。
ほかも、魅力的な曲が揃っています。
アルバムの幕開け「Wings Of The Dawn」の、ボーカルと高音の金属パーカション、
ガムラン音楽で使う鉄琴のような音と、アコースティック・ギターの響きが心地よい「Eyes」、
打ち込みと思われるハンド・クラップ音がリードする軽快な「Shakti」、
フルートによる抒情的なインスト曲「Kashmir」…
メロディーも歌詞も、繰返しが多いため、ボーカルも「音」として楽しめる感じがあります。
エコーはかなり強いのですが、一つ一つの音がクリアに聴き分けられ、どこか乾いて爽快な感じがします。
多種の楽器と音が重ねられていても、うるさい感じがなく、打ち消しあうこともなく響きあいます。
コンピューターによる打ち込みは、ほとんど目立ちませんが、これらの効果的な音のエフェクトとミックスや編集のテクニックが「ニューウェイブ」を感じさせます。
僕は、FMラジオでこのアルバムを初めて聴きました。全10曲中5曲を放送していたのを、カセット・テープに録音したのです。
いつも聴いたり録音している番組ではなかったのですが、ラジオの番組表にあった「Monsoon」という変わったユニット名が気になったため録音した、と記憶しています。
しばらくして、輸入版LPを購入。その後にCDが出た時にも、すぐに購入。
さらに10年前くらいに、LPを国内版の中古に買い替えました。経験則上、昔の海外作品のLPは、輸入版より日本国内版のほうが音が良いことが多いためです。
アルバムのクレジットを見ると、2曲目のビートルズの「Tomorrow Never Knows」を除き、作曲は全てSteve Coe、またはCoeとMartin Smithの共作。
プロデュースは、エンジニアリングも担当しているHugh Jones。10人以上いる演奏者のうち、インド系と思われる名前はSheila以外に一人だけ。
名前だけではなんとも言えませんが、主にヨーロッパ系の人が作った音、と思われます。
この点も、僕が「インドのポップではなく、インド風ニューウェイブ」とした理由の一つです。
Monsoon / Third Eye(1983年)
A1:Wings Of The Dawn(Prem Kavita)
A2:Tomorrow Never Knows
A3:Third Eye and Tikka T.V.
A4:Eyes
A5:Shakti(The meaning of within)
B1:Ever So Lonely
B2:You Can't Take Me With You
B3:And I You
B4:Kashmir
B5:Watchers Of The Night
*LP・CDのほか、このアルバムの全10曲を含む16曲収録のオムニバス盤(CD)「Monsoon Featuring Sheila Chandra」が1995年に出ています。同年以降の再リリースはないようです。