「朝だ。しずかな海に、みずみずしい太陽の光が金色にきらめきわたった」――「かもめのジョナサン」(Richard Bach 著 五木寛之 訳著)の書き出しです。
映画「かもめのジョナサン」のサントラ(作詞作曲:Neil Diamond オーケストレーション:Lee Holdridge)も、夜明けを想わせる荘重な響きから始まります。
ほかのカモメたちが、漁船から魚を集めるためにまかれる餌を横取りするのに躍起になるのを横目にみて、ジョナサンはただ一羽、ひたすら飛行の訓練にいそしむ。
急降下から水平高速飛行への移行、ペリカンのような低空飛行、空中の一点での停止・・・
高度な飛行訓練の果てに、ついに海面に猛スピードで激突してしまう。
このあたりが2曲目“Be”――3曲目“Flight of The Gull”。
重たい翼で海に浮かびながら、なぜうまくゆかないのか考える。なぜ?――4曲目“Dear Father”。
やがて解決策がひらめく。そして試す。うまくいった!
翌朝、餌あさりに夢中になる群れの中を、見せびらかすように超高速で横切るジョナサン。――5曲目“Skybird”(インストルメンタル)
しかし「生活のためにこそ飛ぶべきであり、それ以上の飛行の追求は不遜である」と考える保守的な群れの長老により、ジョナサンは群れから追放されてしまう。――A面最終曲“Lonely Looking Sky”
B面も、物語の後半の展開に沿って曲が配置されています。5つの歌曲とフル・オーケストラ主体の器楽曲で構成されたアルバムです。
かもめのジョナサンの原作を読んだのは中一の夏。学校帰りに買って、その日の夕飯の前には読み終わっていたくらいのボリューム。風変わりな物語と多数のカモメの写真に夢中になり、何度も読み返しました。
その翌年の初めに映画が封切られ、初めて(家族ではなく)友人同士で映画を見ました。その中の音楽に惹きつけられました。
その年の誕生日プレゼントは、このサントラのレコード。僕が初めて「これがほしい」と思ったレコードでした。
原作に対しては「宗教書みたいだ」(修行を積んで高い次元にゆくと純白のカモメになる、という設定から)「白人優越主義だ」などの批評・批判があったと記憶しています。
サントラについて、五木寛之氏は「まるで古い映画の『スパルタカス』あたりの音楽を連想させる」「オーケストラはワーグナーでもやりかねない勢いで重々しく響きわたる」(原作のあとがきより)と批評しています。
確かに曲名と歌詞にある“Dear Father”のFatherは、キリスト教的な意味での“父”だろうし、聖歌風の合唱曲“Anthem”もある。“Be”も荘重なアレンジです。
しかし、“Skybird”は軽快で明るいし、“Lonely Looking Sky”も抒情的なメロディーで、ポップに響きます。“Anthem”も“Be”も他のインスト曲のアレンジも、他の映画音楽と比べて、とくに重々しいものではない気がします。
でも、大人になって多少の知識・知恵という余分なものがこびりついたせいで、こんなことを気にしているのであって、レコードを手にした当時は、余計なことをいっさい考えずに、ポータブル・プレイヤーで擦り切れるくらいまで聴きました。
英語を習い始めたばかりの耳でも詞がかなり聴き取れたことも、気にいった理由の一つかもしれません。
そして現在、CDもレコードも再発売されてはいないのですが(配信はあります)、YouTubeには映像と音楽がたくさんUPされていたり、“Skybird”のインストルメンタル・バージョンが今でも時々BGMとして街に流れているのを聴くと、僕の思い入れだけでなく素晴らしい音楽なのだ、と確認できて嬉しくなるのです。
あとは、映画のDVDが発売されれば大満足なのですが・・・
Jonathan Livingston Seagull / Neil Diamond(1973年)
A1:Prologue
A2:Be
A3:Flight of The Gull
A4:Dear Father
A5:Skybird (instrumental)
A6:Lonely Looking Sky
B1:The Odyssey
B2:Anthem
B3:Be (instrumental)
B4:Skybird
B5:Dear Father (instrumental)
B6:Be