アルバムを持っているけれど聞くのは1曲か2曲だけ。音楽好きの人なら、そういうLPやCDが1枚や2枚はあると思います。
僕の場合は Herbie Hancock の「Magic Windows」がその1枚。ラストの「The Twilight Clone」がその1曲です。
最初にシンバルがリズムを打ち出し、それに続いてパーカッションとプツプツという感じのプログラムされたシークエンサーの音が絡む。
チョッパー・ベースが続き、二つ目のペキペキしたシークエンスとともに、ドラムマシーン=初期のHip-Hopでよく使われたLinn-Drumのユッタリ・シンプルなビート、手弾き(?)のシンセ・ベースが重なる。
そして、エレキギターとシンセのユッタリした展開しないメロディー。
途中にリズム・ギターが加わり、転調もあるけれど、延々同じビートとメロディーが約8分間続きます。
ベース:Louis Johnson、リード・ギター:Adrian Belew、パーカッション:Paulinho da Costa、という錚々たるプレーヤー逹が演奏しているだけに、こういう淡々とした曲調が一層際立ちます。
ちなみに、ドラマーはクレジットされていませんが、冒頭からずっと同じパターンを繰返し続けているシンバル、どう聞いてもLinn Drum=機材の音には聞こえません。参加メンバーの誰かが叩いたのを録音し、ループさせてダビングしたものではないか、と思うのですが。
こういう展開は90年代からのミニマル・テクノの曲でよく耳にしましたが、1981年にそれを先取りしていると言えなくもありません。
クラブ・シーンでリスペクトされている Herbie Hancock の作品なのだから、テクノの一流DJがREMIXしたのをB面にもってきて、12inchシングルでリ・イッシューしたらウケるのでは…などと想像してしまいます。
Herbieは、前年1980年の「Mr.Hands」でも、ドラム・マシーンを使用しすべて一人で演奏した「Textures」を発表しているし、プログラミングした音との共演、ということでは、1974年の「Dedication」で試みています。
こう見てくると、1983年の「Future Shock」も、Herbie のキャリアの中で、決して唐突な突出した作品ではないと思えてきます。テクノやハウスの音を経験した現在では、むしろ「The Twilight Clone」の方が新しく聞こえるくらいです。
「Future Shock」が発売された当時、保守的なジャズ系評論家やファンから評判が悪かったのは当然としても、ヒップ・ホップやアンダー・グラウンド系の人たちからも、「Material(同作の共同プロデューサー)が作り上げたリズム・トラックに、キーボードを乗っけただけ=スゴイのはHerbieではない」と、見られがちだったと記憶しています。
たしかに、Herbieは「実はヒップ・ホップは詳しくない」と自伝の中で語っていますし、プレイしているのはキーボードだけです。
しかし、長い間コンピューター・ビートの使用について試行錯誤し続けてきたからこそ、どのような音色やフレーズにすれば打ちこみのリズム・トラックにフィットするかよく分かっていた。「Rock It」の音楽的商業的成功も Herbieあってこそ、と思うのです。
スタジオではコンピューターとの共演を追求し続けた Herbie ですが、Liveでは、一時期アクセント的にリズムボックスを使用しているだけで、打ち込みのリズムもテープも、もちろんレコードも使用していないようです。ここら辺はさすがにJazz畑の人ですね。
Liveの「Rock It」では、手の空いているボーカルの Bernard Fowler が、ノイズ的なシークエンス・パターンをキーボードでひたすら打ち続けていて、微笑ましくなります。
Herbie Hancock / Magic Windows(1981年)
A1:Magic Number
A2:Tonight's The Night
A3:Everybody's Broke
B1:Help Yourself
B2:Satisfied With Love
B3:The Twilight Clone