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5月, 2019の投稿を表示しています

Miles Davis / In A Silent Way ~自由と制約の絶妙なバランス

Miles Davisを最初に聴いたのは、1969年の「In A Silent Way」の中古レコードでした。事前情報から想像していたのと違って、軽快な感じを受けた作品であった半面、ややインパクトが薄い印象でした。 二番目は「Agarta」。これは逆にヘビーな感じです。 その次が「On the Corner」。「全体がリズム・マシーンのような」と形容されたサウンド。ここらへんから、Milesの魅力にハマりはじめました。 以降は「Bitch's Brew」を初めとしたエレクトリック作品から、「Kind of Blue」「Sketches of Spain」「Birth of The Cool」なども聴いた上で、最初に聴いてから数年後、CDに買い替えたのを機に「In A Silent Way」をジックリ聴き直してみました。 改めて聴いてみて、気付いたことが二つあります。ファンの方には常識だと思いますが・・・ 一つは当時のJazz系の作品には珍しく、かなり編集が加えられていること。 B面の最初と最後は、同じ曲の同じ演奏です。 A面も、冒頭のJohn McLaughlinのソロ~Milesのソロまでの6分弱の部分が、同じ曲の約12分以降にコピーされ貼り付けられています。 さらにB面2曲目の最初の50秒弱も、同じ曲で後の方に出てくる部分と全く同じです。 全体で38分のアルバムですが、重複を除くとA面は約12分、B面は約15分。つまり「水増し」なのですが、それに気づいても「だまされた感」はありませんでした。 編集が巧みなためか、演奏が素晴らしいためか、それとも、この頃にはすっかりMilesの魔力の虜になっていたせいでしょうか? 二点目は、A面「Shhh / Peaceful」とB面の「It's About That Time」には、あらかじめ作曲されたメロディーが出てこないこと。つまりMilesのTrumpet、Wayne ShorterのSaxなど、メロディのように聴こえた部分は、全て即興演奏であること。 最近の研究によると、ちゃんとしたメロディーがある曲のセッションの、ソロの部分だけを編集したものらしいです。 そのためか、演奏全体が、とても自由な印象がします。 このアルバムに惹かれた理由は、別のところにもあります

Luciano / Yamoré Remix ~アナログレコードは面倒。だけど楽しい

僕がテクノなどのClub系音楽を聴き始めた1996年頃、それらの音楽の主流フォーマットは、アナログ・レコードでした。よく通っていたCISCOレコードのテクノ店もそうです。 でも当時CDのみを聴いていた僕は、店の一部に置かれてたCDを物色していたのです。( FUMIYA TANAKA:MIX-UP Vol.4 の項参照 ) 持っていたレコード・プレーヤーは既に回転を伝えるベルトが切れて動きませんでした。買い替えるとなると、ちゃんとしたものはCDプレーヤーより高そう。 レコード・プレーヤーは調整するのが大変。針もよく選ぶ必要がある。すぐに針にホコリがたまる。何回も同じレコードを聴いていると、やがてパチパチと静電気が出る。 レコードの片面は長くても30分弱。例えば50分~70分のアルバム(当時はそのぐらいの長さが普通でした)だと、レコードでは2枚か3枚組になり、表面・裏面に加え、レコードを交換することになり面倒・・・ というあたりが、レコードにしなかった理由です。 でも、テクノ系のMIX-CDを聴きながら、その中に入っている曲を聴いてみたいと思うようになりました。そういう曲のほとんどは、レコードでしか聴けません。 リリースされる作品の絶対数も、CDよりずっと多い。安いし(一枚1000円強)、音もいいらしい。 ある時思い切って、聴きたかったレコードを先に買ってしまいました。2000年の頃、CISCO・テクノ店で、田中フミヤとJeff Millsのレコードを一枚ずつだった、と思います。 そしてその足で、CISCOの向かい側にある「樽屋」というお店でレコード・プレーヤーを購入。「調整の仕方がよくわからない」と言ったら、お店の人(たぶん社長さんだと思います)が色々教えてくれた上で、ワープロ打ちの一枚のマニュアルを渡されました。 数日後、レコード・プレーヤーが届きました。手こずりながらもお店の人の助言とマニュアルに沿って調整します。 用意が終わり、ドキドキしながらレコードを置きました。 最初は比較のために、CDとレコードの両方を持っている作品(Kid-Creole & the CoconutsのLPだったと思います)を聴き比べてみました。 しろうとの耳にも、CDに比較して音が柔らかくて深いことが分かります。あえて、ハードなギターの音

FUMIYA TANAKA / MIX-UP Vol.4 ~渋谷シスコ・テクノ店の思い出

1996年のある週末、いつものように渋谷のタワーレコードかHMVでCDを買って帰りかけていた時、唐突に「高校の頃に友達と、ここらへんの感じのよいレコード屋に来たことがあったな」と思いだしました。 実はそのころ、同じアーティストの作品ばかり、それも決まった店で買うことが続いていて、退屈気味だったのです。たまには目先を変えてみよう、と思いその店を探してみることにしました。 不思議なことに20年近く前に一度行ったきりなのに、階段を上ったところにあるその店にすぐに辿りつきました。今はなき「シスコ・レコード」のテクノ店です。 もっとも、前に行った時は70年代ですから、当然「テクノ店」ではなかったのですが・・・ 中に入ると、真ん中のスペースと壁側のほとんどはアナログ・レコードで、CDが置いてあるスペースはごくわずかです。 当時、レコード・プレイヤーは壊れてしまっていて、また聴きたい作品のほぼ全てをCDに買い替えていたため、レコードは聴いていませんでした。 何か場違いな感じがしながらCDを物色して、何も分からないまま、ジャケットのセンスだけで一枚購入。 とても幸運なことに、それは当時「テクノ・ゴッド」とまで形容されていた日本人アーテイスト、Ken Ishiiの別名義Flareの「GRIP」というアルバムでした。 目が覚めるような鮮烈で不思議な響きの音とリズム。冒頭の音から一瞬で魅了されました。 この作品の発売日から、それは1996年の10月末頃のこと、ということになります。 それからは毎週末のように「シスコ」に通い、CDを2枚、3枚と買うことになります。 まずには「GRIP」と同じSublime Recordsレーベルの作品を中心に、他はジャケットやアーティストの顔から「エイヤ!!」で選びました。 当たりもハズレもあったけど、僕にとっての「新しいアーティスト」を探すことを、久しぶりに楽しんでいました。 そんな1996年の12月、FUMIYA TANAKA(田中フミヤ)のMix-CD、「MIX-UP Vol.4」に出会ったのです。 FUMIYA TANAKA / MIX-UP Vol.4 1:JAMM'IN(MXU EDIT) / FUMIYA TANAKA 2:INSISTENCE / FUMIYA TANAKA

YASUAKI SHIMIZU & SAXOPHONETTES / STARDUST ~退廃とデカダンスの意味を理解した

初めて清水靖晃のアルバムを買って聴いたのは、1983年の「北京の秋」。FM東京の「ジェット・ストリーム」で3曲がオンエアーされたのが、キッカケでした。 音楽雑誌で「今、日本のミュージシャンで最も“スゴい”と言われることが多いのが清水靖晃」と書かれていたことも影響しています。 その頃あまり深く音楽を聴いていなかった僕でも、オーケストラの生音とドラム・マシンを含めたエレクトロニクスが融合した「北京の秋」のサウンドが、どれほどスゴいかは、すぐに分かりました。 翌年のアルバムでTrevor Hornがサンプリングした( =GRACE JONESの項を参照 )のも、リスペクトの表れでしょう。 翌84年にかけて、彼の過去のアルバムも買い、聴きまくりました。83年のマライア名義の「うたかたの日々」、82年「案山子」、81年「IQ179」、79年「FAR EAST EXPRESS」などです。 その全てが斬新で意表をつきワクワクさせる内容で、一枚ごとに、違う人が創ったのではないかと思えるほどサウンドも異なっていました。 「日本のミュージシャンで最も“スゴい”と言われる」という評がウソでもおおげさでもない、と思ったものです。 そのため、次回はどんなアルバムを出してくれるのか、と心待ちにしていたのですが、待てどくらせどリリース情報がない。 ラテン音楽を素材にしたその名も「LATIN」というアルバムを録音した、との情報はありましたが、その発売情報もない(これは結局91年にリリースされました)。 禁断症状的な状況で過ごすうちに1984年も終わり、翌85年5月にようやく新作「STARDUST」が発売されたのですが… これがアルバムではなく、45回転の3曲入り12inch。約21分、90年代くらいの用語で言えばMaxi-Singleのボリュームでした。 しかも、そのサウンドがあまりにも奇妙で、当時の僕を戸惑わせ、むしろ「短くてよかった」と思えるくらい、聴いていて疲労感をおぼえるものでした。 A面は唄ものですが、とにかく変わっている。 シンバルもなく音数が極端に少ないドラムとベースがリードする12拍子のユッタリしたグルーブ。 奇妙に尾を引くピアノとサックスのエコーと音処理。モノラル録音。 「退廃的」「デカダン

GRACE JONES / SLAVE TO THE RHYTHM ~アマゾネス系歌手とやみつきになるサンプリング

男声の語りから始まり、――Ladies And Gentlemen, Miss Grace Jones, Jones――というセリフのあと、クラシック風コーラスとシンバル、シャウトとノイズが短く挟み込まれ、ベースとドラムの重たいリズムが始まる。 バンドとフル・オーケストラの音、コーラスが重なり、Grace Jonesのボーカルが朗々と歌いだします。 狂ったようなバス・ドラムの連打、声を合わせて肉体労働をする男たちのウッ、ハッ、ウッ、ハッ、という掛け声――様々な視覚的イメージを喚起する音が強力に迫ってきます。 Grace Jonesの“Slave to the Rhythm”1曲目です。 このアルバムのプロデューサー、Trevor Hornの名前を知ったキッカケは、Herbie Hancockの“Sound System”です。 このアルバムでは、楽器や楽器以外の様々な音をコンピューターに取り込み、音楽に挿入する手法が採用されています。オーケストラの音をキーボードでジャン!と鳴らす「オーケストラ・ヒット」が、その代表的なものです。 この「サンプリング」と呼ばれる手法の代表的使い手がTrevor Horn、彼が全面的にサンプリングを取り入れた作品が、84年の“(Who's Afraid of?)The Art of Noise”ということを知りました。 早速、このアルバムを聴いてみました。 人の声、足音、雷、重たい金属音、車のエンジンのような音――様々な音がサンプリングされています。そのなかには前年に発売されたばかりの、清水靖晃“北京の秋”の曲もありました。 当時も今も、とても評判が高い作品で、つい先日もTV番組のBGMで2曲目の“Beat Box”が流れていました。 でも、僕は“Sound System”ほどの強い印象は受けませんでした。Scratchなど、ヒップ・ホップの手法を導入したTrevorの他の作品も聴いてみましたが、同様でした。 翌85年に“Slave to the Rhythm”を買ったのもTrevor目当てではなく、モデル・歌手・俳優――007にも出演――など多彩な活動で話題になっていたGrace Jonesを聴きたかったからです。 でもGrace本人は曲を書いておらず、ボーカルがほとんど入らない曲もあり、