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5月, 2023の投稿を表示しています

Peter Gabriel(ピーター・ガブリエル)/ So ~敬遠からの印象ガラリ

チャート1位のポップな人気作品 Peter Gabriel(ピーター・ガブリエル)の1986年のアルバム「So」は、アメリカ Bill Board 誌のランキングで2位、全英アルバムチャートで1位を記録するほど人気を博したアルバムです。つまり、ポップな作品なのです。 しかし、その裏には、ピーター持ち前の先鋭的で個性的な音楽性がしっかりと垣間見えるように、僕は感じています。 ワールドミュージック的? ではない? 1曲目「Red Rain」のサウンドは壮大です。シンセサイザー、ギター、ドラムが雄渾な音を演出します。ちなみに、ドラムは「3名」が演奏しています。ただし、そのうちひとりは Linn Drum というドラムマシーンで、人ではありません。さらに、もう1人はドラマーの Jerry Marotta(ジェリー・マロッタ)です。ここまでは、当時からよくあったやり方です。そのうえで、この曲では The Police のドラマー Stewart Copeland(スチュワート・コープランド)にもシンバルのみを叩かせています。凝った手法です。高揚させられる1曲です。 3曲目「Don’t Give Up」は、当時のサッチャー政権による緊縮財政下での労働者の苦境を唄っている曲です。悲し気で切ないメロディーです。 4曲目「That Voice Again」は、ドラムとパーカッションによる複雑でありながらも軽快なリズムパターンが印象的な作品です。メロディーも、前の曲からは一転して明るく開放的です。 5曲目「In Your Eyes」は、美しいメロディとコーラス、さらに歌詞もロマンティックな1曲です。アフリカの民俗楽器 Talking Drum を Manu Katché(マヌ・カチェ)が叩いています。マヌ・カチェは、コートジボワール出身の父親を持つ人です。セネガルのスーパースター Youssou N’dour(ユッスー・ンドゥール)もバックボーカルで参加しています。とはいえ、曲全体のアフリカ色は希薄です。 なお、マヌ・カチェは、この曲を含めて5曲に参加しています。さらに、ほかにも民族系のアーティストが参加しており、そのため「『So』はロックとワールドミュージックの融合作だ」と、評されることがあります。ですが、僕が聴くところ、このアルバムにはワールドミュージック的な要素はほとんど感じられ

坂本龍一 / 千のナイフ ~世界のサカモトのソロ・デビューアルバム

チャレンジがみえる前半 坂本龍一のソロ・デビューアルバム「千のナイフ」(THOUSAND KNIVES)を僕が初めて聴いたのは、1986年の始め頃です。LPではなくCDでした。 LPの発売は1978年です。YMO(イエロー・マジック・オーケストラ)の1stアルバムがリリースされる直前です。それを遅ればせながら約8年後に聴いたことになるわけです。 1曲目「THOUSAND KNIVES」のサウンドは、革新的でシリアスです。 冒頭はボーコーダーのみによる独唱です。それが1分半続きます。そこで「ちょっと暗いな」と感じていると、ドラムマシーンとシンセサイザーの厚いコードに唐突に移り変わります。次いで、メインのメロディが始まります。 複雑でメカニカルなこのメロディは、ポップ的でもロック的でもありません。現代音楽的なラインを奏でます。続く荘重なサウンドのBメロ、うねりつつせり上がっていくブリッジも、やはり現代音楽的です。 中盤からはサンバ風なパーカッションの音も加わります。ですが、その響きはどこか不穏です。最後は、シンセの細かいシークエンスが飛び交い、地の底まで落ちていくかのような下降音で締めくくられるかたちです。ビートは強く、躍動的ですが、ポップ性や明快さは希薄な1曲です。 2曲目「ISLAND OF WOODS」は、民俗楽器(ブラジリアン・バードホイッスル)による鳥の声のような音で始まります。メロディは1曲目よりもさらに複雑で、特定の調性を感じない旋律が続きます。ドラムなどの打楽器音が入らないこともあり、何拍子とも判別しがたいリズムです。 さらに、それが途切れたあとは、シンセ等によるノイズ的な音が散りばめられる展開となります。野外でサンプリングされた行進曲の音も入り、最後は波の音で終わります。「前衛的」「アブストラクト」といった言葉がぴったりくる曲です。 3曲目「GRASSHOPPERS」は、坂本龍一と、クラシックや現代音楽で活躍する高橋悠治によるピアノ・デュオが基本の曲です。軽快で明るいメロディ、かつ、音階や響きは「クラシックのピアノ曲」といった感じです。リズムは6拍子あるいは3拍子、変則的かつ実験的な印象です。 様子が変わる後半 続いて後半です。LPだとB面になります。ここからサウンドは一変します。 4曲目「DAS NEUE JAPANISCHE ELEKTRONISC