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1月, 2022の投稿を表示しています

Prefuse 73 / The Only She Chapters ~聴き込むと退屈、流すと惹き込まれる

最初にこのアルバムをCDで通して聴いた時は、少々退屈しました。 それが、Prefuse 73(プレフューズ 73)の2011年のアルバム「The Only She Chapters」の第一印象です。(Prefuse 73 は Guillermo Scott Herren=ギレルモ・スコット・ヘレンのアーティストネームです) 全18曲、ノンストップで約54分間続くサウンドは、漂うようなアンビエントな響きで、もどかしいくらいにゆったりです。女声ボーカルの入る曲が8曲ありますが、これらも抑揚が少なく、ぼんやりとしたメロディーです。アルバム全体を通しても、曲調の変化やドラマティックな構成、展開はほとんど見当たりません。 もっとも、退屈と感じた理由はそればかりではありません。このアルバムのサウンドは、聴く前に僕が予想していたものとはかなり違っていたのです。 Guillermo Scott Herren は、たとえばCDの解説から引用すれば、「ビート・メイカーとして常に時代を牽引してきた」存在です。 ラップを初めとしたさまざまなサンプルを細かく切り刻んだ上で、編集し、曲を作る、ブレイクビーツの超進化型といえるサウンドがこの人の特徴です。 その点、当時僕がすでに聴いていてお気に入りだった彼のアルバム、2009年の「Everything She Touched Turned Ampexian」など、そんな手法の極致ともいえる作品です。全29曲・約48分、それぞれ個性的で強いビートからなる曲が、1曲平均約100秒で目まぐるしく入れ替わります。 それに対し、「The Only She Chapters」はまったく対照的といえます。1曲あたりの長さは平均約3分で、「Everything ~」の各曲に比べて2倍近く、曲のグルーブ感も希薄です。 しかも、それらはどれも前述のとおり「アンビエント」「ゆったり」で、雰囲気がほとんど変わらないこともあり、僕はこのとき若干の戸惑いもあった上で、このアルバムを退屈と感じてしまったようです。 そのため、2度目からはじっくりと聴き込むことはせず、本を読んだり、他のことをしながら、このアルバムをBGMとして流しながら聴くようになりました。 すると、今度は不思議なことにとてもよい感じなのです。 単に音が邪魔にならないだけではありません。脳の奥にまでスッと入って

PSY・S / Mint-Electric ~一度は売ってしまってごめんなさい

涼しげで軽やかなギターのコード弾きが交錯する中、CHAKA(チャカ・安則まみ)が、澄んだ高音で唄い出します。PSY・S(サイズ)の3rdアルバム「Mint-Electric」の1曲目「Simulation」です。 このイントロを久しぶりに聴いた瞬間、僕は思わず叫びそうになりました。30年以上も前に、初めて聴いた時の鮮烈な感動がよみがえりました。 一昨年(2020)の2月、僕は中古のLPでこの「Mint-Electric」を再び手にしました。前回はCDでした。'87年の購入です。ところが、そのCDは10年ほど前に引っ越しのタイミングでなぜか売ってしまいました。にもかかわらず、偶然レコード店で再会すると、僕はまたもこのアルバムを買わずにはいられませんでした。 上記の唄い出しを追いかけ、跳ねるようなベース、ドラム、さらにフェアライト(サンプリング音を使用するシンセサイザー)によるストリングス音が展開します。後半では、ディストーションの効いたギター・ソロも加わります。ギターにも、CHAKA のボーカルにも、どことなくエレクトリックな響きが感じられるのがこの1曲目です。 PSY・S は、ボーカルの CHAKA とシンセサイザー、ギター、エレクトロニクスの松浦雅也によるユニットです。このアルバムでは、ほかにもギターや管楽器などでゲストが参加していますが、ベースとドラムのクレジットはありません。これらは松浦雅也による打ち込みでしょう。制作手法も、音の響きからも、「テクノ・ロック」とでも呼びたくなるような1作です。 2曲目「電気とミント」は、体が自然に動き出しそうな抜群にノリのよい曲です。ドライブ感にあふれたリズムだけでなく、そこへのメロディーや歌詞の乗せ方が絶妙です。まるで歌詞がリズムをリードし、グルーブ感を加速させているかのように感じられる箇所もあります。 3度出てくるシャウト部分(「Wink!」のところ)も、そのたびタイミングが微妙に違っています。ブレイクの都度リズムがリフレッシュされるような、新鮮な感覚に魅せられます。 以上、1曲目と2曲目は、繰り返しますが「テクノ・ロック」といった感じで、響きもクールです。なお、ここでいうクールには「カッコいい」だけでなく、実際に「涼しい」という意味もあります。リズムは強烈であっても、重さ、熱さといったものは希薄ということです。